第128話 甲子園開会式
甲子園最初の試練はくじ引きだと言われている。何故かというと、組み合わせ抽選でくじ運の強い学校と弱い学校だと負担が明らかに大きく違うからだ。甲子園大会は各地方の予選を勝ち上がってきた強豪校の集まりであるが、全国区で見るとそれぞれの学校には明確に力の差があったりするからね。スポーツ新聞なんかで甲子園の出場校がA~Dのランクでランク付けされてるのは無根拠ってわけでもないんだ。
もちろん野球に絶対はない。過去にはDランク評価の学校がAランクの優勝候補を倒したジャイアントキリングも存在するからあくまでも目安的なものだ。とはいえ外部から見た戦力差って事だから完全に無視して良いものでもない。
くじの話に戻そう。甲子園大会の出場枠はくじ引きで決定される。ここで最初に戦うチームが優勝候補のA評価の学校と、D評価の学校。どっちが楽に勝ち上がれると思う? そして勝ち上がってまたA評価の学校と戦うのとD評価かC評価の学校と戦うの。どっちが負担なく勝ち上がれるだろうね。
たとえ実力が上回っていても強い学校との戦いはそれだけ選手の体力を消耗する。最初の内は兎も角試合間隔が詰まってくる後になればなるほどこの負担はひじょーに重くなる。だから優勝候補がひしめき合う死のブロックに突っ込まないくじ運が重要になってくるってわけだ。
その点で言うと、我が聖ザの部長であるマンネリトルシニア上がりの杉谷さんは可もなく不可もないくじ運を持っているとも言えた。
初戦はD評価の山形さくらんぼ農業だ。県立勢って言われる私立校以外での勝ち上がり組で結構ニュースとかにも取り上げられてる所だね。そしてここを勝ち上がったら次はC評価かD評価の学校で、その次に来るのは恐らくA評価の学校って感じ。まぁ、そこまで勝ち上がったら大体が優勝候補とか強豪って呼ばれる学校だからね。ちなみに聖ザはB評価。チームが1・2年中心だからその点がAに届かない理由みたい。
まぁ、大事なのは初戦や二回戦で消耗戦になりそうかそうじゃないかって事だよね。その点、山形さくらんぼ農業は楽に戦える相手だと言える。もちろん油断はできない。公立校が上がってくるって事は県内の強豪私立にぶっ刺さるナニカを持ってたって事だからね。
「権藤、確認しとくが基本的にマウンドには立たないって事でいいな?」
「はい。正直いつ魔球が出てもおかしくないと思います」
星監督からそう尋ねられたので、正直な感想を返す。甲子園球場を目にしてからの女神様の勢いというか圧が凄いんだよね。水鳥先生効果でワンチャンいけないかなーと思ってたんだけどむしろ女神様的にはオリンピックからの1年で磨いた新たな魔球を見てほしい! って感じみたい。そういえばそんな事いってたよね。あれ以上なにをパワーアップするのかボクは訝しんだよ。
むしろ外野に居ても暴発しそうな雰囲気があるし、それよりもなによりもだ。甲子園球場を見てから、出来るだけ考えないように意識してるんだけど僕の方がヤバいんだよね。あそこで投げたい、マウンドに立ちたいって気持ちが胸の奥からこんこんとこみ上げてくる感じが、ずぅっと燻り続けてるみたいな。
未練、か。自分の事だけど、自分が思う以上の感情が僕の心の奥底には眠ってたみたい。遠巻きに眺めてる今でこうなんだから、実際に立ったらまぁヤバいだろうね。自分が制御できるか自信なくなってきたよ……
さて。色々と不安の種はあるけれども時間は進んでしまうのがこの世の摂理。ついに開会式の日がやってきたんだけどもね。甲子園の土を踏むと、投げたい投げたいって感情が凄くて凄いです(小並感)
ふー、落ち着こう。落ち着くんだビークールだよ権藤あまね。いくら何でも開会式で雷を身に纏って「この僕の球が打てる奴はいるか!!?」とか叫びだすわけにはいかないでしょ。
自分自身に問いかけるようにそう心の中で語り掛けると、それもそうかって気分になって興奮が落ち着いてきた。よし、僕の無敵な話術は自分自身にも有効だね。己自身すら騙すのが話術師権藤あまねなんだよ。ふふんふん。
さて、甲子園の開会式に意識をもどそう。甲子園の開会式は先導の人とか国旗とかが入場した後に前年度優勝校が優勝旗を掲げて入場してくる。去年の優勝校は網走くんが入学した浪速通天閣大付属で、そこのキャプテンさんが優勝旗を掲げてるんだけどね。そのキャプテンさんは見知った人だったりする。リトルシニアの茨城中央選抜に居た雑賀兄弟の長男。一さんだ。
浪速通天閣大付属は全国屈指の名門校で、雑賀兄弟はリトルの頃からあそこに入学予定だって言われてたからね。言われてた通りに入学して、予想されていた通りに大活躍でチームを優勝に導いた右腕として雑賀の一さんは同世代最強のピッチャーと呼ばれている。
開会式前に久しぶりに顔を合わせたから挨拶をしたんだけど、リトルシニアの頃よりも随分と大人びた一さんはしかめっ面で挨拶を返してきた。なにか気に障ったのかなと思ったら弟の二さんが「すみません、兄は今、これ以外の表情をしたら顔が崩れるんです」と意味不明な事を言って一さんを引っ張って行った。顔が崩れるってなんだろう。作画崩壊したのかな……?
入場行進に話を戻して。前年度優勝校が先頭を行った後は開催年度によって北からだったり南からだったりする。今年は南からだから沖縄代表が最初だね。うわぁ、沖縄代表のうちなー尚学さん、皆顔が濃い上に真っ黒に日焼けしてらぁ。リトルシニアで戦った首里城リトルシニアの子たちもこんな感じだったなぁ。というか首里城リトルシニアの人けっこう居るじゃん。あとで挨拶にいこっと。
入場していく学校の列から知り合いを探すという遊びをしていると、僕らの番がやってきた。気持ちも収まってきたししっかりと行進して全国に結構いる筈のファンの皆の期待に応えないとね!
ただ歩くんじゃない。歩くだけで人の記憶に残るインパクトを放つのが大事なんだよ。ふんすふんす。あ、あすみちゃんは隣に来ないでね。のっぽ女が隣に居ると僕の背が低いように思われちゃうから。あ、こらもう行進なんだから頭をぐしゃ、ぐ、や、やめるぉぉぉぉぉ!!




