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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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125/155

第125話 県予選決勝

 泣いても笑ってもたった一度の勝負で全てが決まるトーナメント戦。その決勝戦を迎える球場の空気は熱くざらついていた。円陣を組み必勝の叫びをあげる西東京実業大付属を星監督が羨ましそうに眺める。ああいうの好きらしくて、相手チームがやってるのを見るとその度に「うちもやりてぇなぁ」って小言みたいに言うんだけどね。うちの部活はその辺ドライというかチームの中心であるキャプテンも久留米さんもああいうのに興味がないから誰もやろうとしないんだ。


 まぁ、でも甲子園の決勝とかならもしかしたらそういう空気になるかもしれないから、頑張ってそこまで勝ち上がろうね監督!



「さて。そのためにもしっかり相手を攻略していかないといけないんだけども」


「打ち崩すのは難しいかもなー」



 今日も今日とて先頭バッターだ。どうやって相手さんを攻略しようかと投球練習中の相手ピッチャーの観察をしていると、トロ子ちゃんが僕のつぶやきにそう答えた。


 相手ピッチャーの真島さんはMAX150という高校屈指の速球を投げるプロ注目の好投手だ。見てる感じコントロールはそれほど良くないみたいだけど、あのくらいの勢いのボールがほどよくストライクゾーンに散らされたらそれはそれで打ちにくそうだね。ほどよく荒れ球って感じかな。


 あとは速球を活かす変化球も良いみたいで、速いのと遅いので2種類のフォークを使い分けてきて、更にカウント球としてスライダーも投げてくるみたい。いまの投球練習を見る感じこの人を打ち崩すのはちょっと手間がかかりそうかなぁ。


 まぁ、それは逆に言うと相手にとってもそうだけどね。今日の聖ザの投手はエースの久留米さんだ。相手の真島さんに球速では劣るけど相手のバットをへし曲げるほどの威力を誇る久留米さんの速球はそうそう打てるもんじゃない。こないだホームラン打たれた時は相手の粘り勝ちで失投を持ってかれちゃったからね。あれがちゃんと力が乗ってる球だったら、スタンドまで飛ばされる事は無かったはずだ。


 とはいえ油断はできない。久留米さんの速球をホームランできそうな人も相手チームにはいるからね。4番に座る桐生さん。元マンネリトルシニアでエース先輩と何度もしのぎを削ってた人だ。あすみちゃんとトロ子ちゃんにとっては2個上の先輩で、結構可愛がってもらってたみたいだから試合前に挨拶に行ってたみたい。


 この桐生さんもプロ注目というか、今年のドラフトの目玉の一人って言われてるみたい。去年の夏、久留米さんはこの人に打たれて負けたんだよね。秋と春には対戦の機会が無かったから、ここで雪辱だと久留米さんも燃えに燃えてる。


 ムードメーカーな久留米さん。エースが燃えてるという事は、チームも燃えてるって事だ。いつもよりも2割増しくらいに感じるチームメイトの意気込みに、応えなければ女が廃るってもんでしょ!



「という訳でぐわらぁ!」



 ガッキィン! と快音を響かせて打球はセンターの遥か上を超えていく。き、きんもちいぃぃ! 読みが完ぺきに当たるのって本当に最高だね! 相手投手の真島さんもあちゃーみたいな顔でグローブで顔を隠してる。僕が初球ストレートを待ってたのが、多分スイングで分かったんだろうね。


 やる気満々な相手チームの出鼻をくじく時に、大体の投手は一番得意な威力のある球を選択する。特に甲子園がかかった決勝戦で、相手はオリンピックで10割打者だった僕だ。生半可な球じゃ捉えられる。なら、一番自信がある球の威力で押す。真島さんはこれが選択できる投手で、当然のようにその選択を選んだわけだ。


 逆にここで逃げの投球をしてくるようなら、多分今日の試合は非常に楽になると思う。そういう心持で挑んでくる程度の相手なら聖ザの打線にその内捕まっちゃうだろうからね。


 実際に、真島さんのこの後の投球は凄かった。2番のあすみちゃんをサクッと三振にとるとそのままの勢いでケーちゃんもライトフライ。アンジーにはストレートで勝負してヒットを打たれるけど、5番の久留米さんもゴロアウトでチェンジになる。アンジー相手に威力で勝負してシングルヒットに抑えたのは立派の一言だ。プロ相手でも普通に打ちそうだからね、アンジー。


 そしてここから試合は投手戦に移行することが確定した。聖ザのクリーンナップを抑えた真島さんはこれ以降失点を許さず、久留米さんは最近「へし折りストレート」と呼ばれるようになった直球で西東京実業大付属のバットをガンガン凹ませ続けている。ちなみにこの名前は水鳥先生が書いてるネット連載漫画の『権藤あまね野球伝(仮)』で名付けられたらしい。


 水鳥先生、久留米さんと網走くんが大好きみたいでなんか小まめにこの二人が漫画に出てくるんだよね。解説役ポジみたいな形でベンチの後ろから僕に話しかけたり、試合中の動きを二人で考察したりとか。ただ、連載中の部分だとまだ中1だからその頃の久留米さんはここまでバットをボンボンへし曲げてはなかったんだけど。ま、まぁフィクションだからね。うん。


 ただ、そんな久留米さんもあわやという場面は何度かあった。ボールが前に転がれば塁に出れる可能性がある。相手の3番さんの打撃がたまたま守備の穴を抜けたヒットになって、ランナーがいる状態で桐生さんとの対戦となったのだ。


 力と力のぶつかり合い。センターからだから綺麗に見えた訳じゃないけど、二人の対決は正にそういう感じのものだった。3球全て渾身のストレートを投げた久留米さんに、桐生さんもまたフルスイングで応える。ガギィと鈍い音を立ててボールは弾き飛ばされ、スタンドめがけてカッ飛んでいく。今の音でこの勢いかよ。やはりパワー、パワーは全てを解決する……じゃなくて!


 音がした瞬間に背後へとダッシュした僕は、フェンス直前でボールの位置を確認。これ、イケるか……いや、行く!


 そのままフェンスに向かって走り始めた僕に、フェンスごしに見える観客が悲鳴を上げる。僕がフェンスにぶつかると思ったんだろうけど、そこは安心して欲しい。僕にとってフェンスはぶつかるものじゃない。走って上るためのものなんだ。


 走った勢いをフェンスにぶつけず、壁を蹴って上へと昇る力へと変換する。勢いを乗せたままフェンスの最上部へ到達した瞬間、そこを踏み台にして跳躍。伸ばしたグローブに勢いよくボールがぶつかる。キャッチは、流石に無理!



「あすみちゃん!」


「無茶すんじゃないわよ!」



 そして、グローブに弾き落とされたボールをカバーに来たあすみちゃんが拾い。僕はスーパーヒーローランディングで着地! 10点満点!



「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」



 雄たけびを上げてあすみちゃんの肩からレーザービームが発射された。この一連の動作に相手の選手は相当驚いたんだろうね。なんせほぼ確実にホームランだと思ってたわけなんだから。慌てて全力で走り始めるけど、スタートの遅れは致命的だった。まっすぐキャッチャーの森さんに飛んできたボールを見て、相手のランナーは慌てて3塁に戻る。


 スタート次第では本塁も間に合ったかもしれないけど、まぁまさかホームランから2塁打に格下げになるとは相手さんも思ってなかったんだろうね。それにランナー2,3塁のチャンスであるのは間違いない。ヒットが打てなくても転がせればワンチャンあるかもって場面だから相手のベンチも押せ押せムードで盛り上がってた。


 ただ、桐生さんに打たれた久留米さんは更にボルテージを上げてきたのが相手にとっては予想外だったんだろうね。その後のバッター二人はバットをへし曲げられて凡退。せっかくのチャンスを生かせずに桐生さんたちは残塁し、そして試合はそのまま1-0で終わる事になる。


 最後の打者がフライになった瞬間、相手ベンチで向こうの3番打者さんが崩れ落ちるのが見えた。あそこで間に合ってたかは正直分からない。なんなら5分くらいの確立だと僕は思うけど、彼にとってはあそこで必死にならなかったというのが全てなんだろうね。


 彼にとってのその事実は、きっと彼の人生に大きなしこりになるだろう。経験者だから分かるんだけど、食べ物がおいしくなくなっちゃうんだよね。未練とか、後悔が沢山ありすぎると。


 だから試合後の整列の時、僕はその3番打者さんとの握手の時に、ぎゅっと両手で彼の手を握った。なにか言葉をかけるべきかなと思ったけど、勝者が敗者にかける言葉なんてないからね。彼はずっと涙を流していたけど、確かにその時、僕の顔をまっすぐに見てくれた。


 彼の未練と後悔は、僕が甲子園につれていく。そして僕たちが優勝すれば、負けた人たちも実質準優勝って事になるしね!


 甲子園、頑張るぞぉ!


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