第121話 夏の大会に向けて
ゴールデンウィークも終え、世の中には新卒社員が雪崩を打ってハローワークに駆け込む季節。僕たち聖ザ野球部にある知らせが舞い込んできた。
「喜べ権藤! 高野連が夏の大会における女子選手の参加を認めたぞ!」
「え!? 本当に僕たち出場できるんですか!? 今年の大会から!? やったー!!」
「ただし魔球は禁止だ」
「制限付きじゃないですかー!? やだー!!」
その知らせに対する星監督と僕との心温まるやり取りがこちらである。多分柔道の件が効いたんだろうけど、古くて大きな組織の割にはすっごく早く結果が出たね。僕にとっては手放しで喜べる内容じゃないけども。
いや、まぁ魔球禁止くらいしか制限がないなら大勝利ではあるんだけどね。他の女子選手にはなんにも制限なしって事だし。ただほら、僕には女神様と甲子園大会で魔球を投げるって生まれた時から背負ってる約束があるから手放しには喜べないんだよねぇ。
ほら、今もこの知らせを聞いた女神様が不機嫌全開のオーラで頭上にやってきてるよ。女神様サイズの割りばしで作った女神様サイズの超デカゴム鉄砲持って。
――あ、あの。女神様、そのゴム鉄砲は一体……
【女神は丹精込めて作り上げた魔球をまるで邪魔者のように扱う人の子らの事を何度も許しました。此度も許すでしょう。ただしこのゴム鉄砲が許すかは別ですよ!!?】
――静まりたまえ! 静まりたまえー! 名のある魔球の女神様がかように荒ぶることなかれ静まりたまえー!!
僕の必死の説得により超特大ゴム鉄砲が火を噴く事はなくなった。けれど、多分大会本番じゃしびれを切らしてしまうのが目に見えてるからこのままじゃ僕がマウンドに立てる目が。というか、甲子園に出れる! それは嬉しいけど、僕は甲子園に出たいだけじゃなくて甲子園のマウンドに立ちたいんだ。甲子園のマウンドに立って、真っ新なマウンドに自分の足跡を残した瞬間、僕の中の区切りが出来る。
そうすればきっと前世の未練を終わらせて権藤あまねとしての今生をしっかり歩くことが出来る。と、思う。それが正しいかなんて実際に行わないと分からないけど、ただそうしなければこの胸を焦がすような衝動はいつまで経っても僕の胸の中でくすぶり続けるだろう。
という訳でなんとかして高野連のおじい様方に僕の魔球を認めさせないと行けなくなった訳だけど、一応出場は認めて貰ってる立場だからあまり強い抗議はし辛い。下手な事をしてあすみちゃん達にも類が及ぶのは避けたいんだよね。
そこで賢い僕は考えた訳だ。決して声高に非難の声を上げず、さりとて無視も出来ない。そんな塩梅の抗議活動を。それがポイントだ。
「あまちゃん、その首から下げた看板はなに?」
「え? 首から? ああ、『僕は魔球を投げたいです』看板の事ですか? ただのおしゃれですよ」
「そっかー。今の女子高生は随分ハイカラなおしゃれをするんだねぇ」
『『『HAHAHA!』』』
北埼玉デッドボールの試合に出る際、僕は最新流行のおしゃれとして首から文字を書いた看板を下げる事にした。その看板には『僕は魔球を投げたいです!』とデカデカと書かれた文字が書きなぐられている。うぅん、鏡で見た時も思ったけど惚れ惚れするほどに自然なフォルムだね。
この看板にはただ僕が魔球を投げたいという意思しか書き込まれていない。その魔球を投げる場がどこかも、何故投げたいかも書かれてない! 完ぺきだ。これ以上ないくらいにただの自己主張で終わる抗議活動だよ!
その証拠にこの看板を下げて北埼玉デッドボールの試合を2回、ブーさんがレギュラー出演してる番組の罰ゲーム要員に3回呼ばれてるけど誰からもどこからも文句は出てないんだからね。ふんすふんす。
「単に呆れられてるだけじゃない?」
「バカがまたバカしてるって思われてるだけだろー」
「シャラップ! 味方が十全な状態で試合に出れるかどうかの話しなのに君たちは冷たい! 冷たすぎるよ!?」
「ア、アマネ。ニアテル、オモウ」
そんな僕の精一杯の活動を、何故か共に笑い、泣き、苦労して歩みを進めてる筈の女子選手であるあすみちゃんとトロ子ちゃんがバカにしてくる。良いよね二人は制限が無くて。僕ぁマウンドに立つためにこんなにもひーひー言いながら方々を駆けずり回ってるというのに!
でもそんな中でもアンジーは癒し枠だ。最近、ちょっとずつ日本語も出来るようになってきたしどんどん日本に馴染んできてるみたい。こないだの北埼玉デッドボールの試合も評判が良かったみたいだし、アンジーのガス抜きがてらまたお誘いしよっかな。
「おら、バカ話はその辺にしといて夏のメンバーを発表するぞー」
「はーい! うぅん、試合に出れるかどうかの緊迫感、溜まらないねぇ!」
「女子組は全員参加だから退室してよし」
「淡白すぎません???」
夏の大会のメンバー選出なんて高校球児にとって下手な試合以上のビッグイベントなんだけどもそれがスキップされてる事実。あ、あの。もうちょっとこう……ありませんか?
なおも抗議しようとした僕の両手をあすみちゃんとトロ子ちゃんの180オーバー勢が抱えて、僕はズルズルと捉えられたエイリアンのような姿で部室から追い出されることになった。アンジーは僕らの先導をしてドアを開けてくれたよ。優しいね。
まぁ、口ではブーブー言ったけど僕らを先に出したのは後に残る先輩たちのためだろうね。試合に出れる枠は決まっていて、当然部員全員が試合に出ることは出来ずあぶれる人も出てくる。真剣に野球に打ち込んできた人たちにとって、このメンバー選出は時には涙が出るほど悔しい事もある。
年下の女の子が居る場面じゃ、泣けないよね。バカみたいに騒いで気付いていない風を装ってはいるけど、僕だって前世じゃ選ばれない側だったことがあるんだ。彼らの気持ちは、良く分かるし出来れば力になりたいけど、とはいえ試合に出る僕らが下手な事を言っても傷つけてしまうだけだからね。こういうのは何事もないように装うしか出来ることはないんだ。
まぁ、ケーちゃん経由で男の子たちのガス抜きに使ってる写真とか。もうちょっと配ってみようかな。あすみちゃんの奴メインで。思春期の男の子なら多少は喜んでくれるだろうし、それで少しでも元気づけられたら僕としても嬉しいしね。




