第12話 配布はまだですか!!?
本日2話目
「試合で魔球を投げる回数増やせませんか!?」
「いやーキッツいなぁ」
北埼玉デッドボールの試合の日。挨拶もそこそこに金ちゃん監督にそう告げると、割とガチ目に困った顔で金ちゃん監督が頭を掻いた。なんでも今の僕のローテは相手側の要望第一でやってるみたいで、事前に「〇回〇アウトで出してほしい」とか「〇番バッターの最後の打席でお願いしたい」とか決まってるみたい。で、しばらく先までその手の取り決めはもう決まっちゃってるんだって。一歩間違えば八百長扱いされそうな内容だけど、練習試合だからこの形にしてるんだとかなんとか。
金ちゃん監督はそういう事前の取り決めをおくびにも出さずにいつもあまねちゃん係の芸人さんをイジってるけど、やっぱりそういう事前の根回しって奴がないと僕の魔球は運用しずらいんだって。まぁ、そこはしょうがないと僕も飲み込むしかない内容だ。それ以外の部分ではちゃんと真剣に勝負して真剣に笑いを取りに行ってるから、金ちゃん監督の方針に僕が思う所はない。
ただ、そうなるとやっぱり回数を増やすのは厳しいかなぁ。うう、選択チケット……
僕が急にこんな事を言い始めたのは、つい先日女神様からもたらされた驚愕の新情報、選択チケットの存在があるからだ。この12年間で5回しか投げてなかった魔球が急にほぼ毎週投げられるようになって、女神様はたいそうご満悦みたい。最近は何もしてない時でも頭上で鼻歌が聞こえることがあるし、試合の時なんかはもうやる気満々でギュイーンとガラガラを回転させたりしてるからね。
で、現状の好循環について女神様は考えた訳だ。これだけガチャを回してるわけだし、そろそろガチャに新機能を追加する頃合いではないか、と。
それがこの選択ガチャチケット。過去に投げた魔球を任意で選び投げることが出来るという魅惑のチケットだ。1試合に1回だけの切り札的な存在! これを使って憎いあいつを打ち倒せ! と書かれたチケットは僕と女神様にしか見えず、試合前にチケットを消費する事で任意のタイミングで魔球を発動させることが出来る。
そう、ここが一番重要なポイントなんだけど。
好きなタイミングで投げられるって事は、これを投げるまでその試合で魔球ガチャは発動しないって事なんだ!
――こんなんなんぼでも欲しいです! 選択ガチャチケ配布! 配布はまだですか!!?
【喜んでくれて嬉しいですねぇ。そうですね、では10試合で魔球を使うか、あまねさんが強いと思う相手に魔球で勝ったらポイント配布! 10ポイントで1枚交換ですよ。デイリーですね! デイリー!】
――シャアッ! 頑張ります!!!
デイリーの意味違うんじゃないかなって思うけど、今回の神アプデには文句なんて何もないからそのまま女神様との会話は終わり、僕は意気揚々と北埼玉デッドボールの試合に赴いた。回数を増やすことは出来なかったけど、それでも1試合+1回の対戦で2ポイント。5試合あれば1枚手に入るぜヒャッホー!
って、思ってたんだけどね。
「神は我を見放した……」
【? いつも見てますよ】
orzの姿勢でグラウンドに膝をついた僕の言葉に、女神様が怪訝そうな声で呟く。試合の分のポイントは溜まったんだけどね。勝負の方のポイントは溜まらなかったんだ。女神様曰く「強敵だってあまねさんが認識してないから」らしいんだけど相手はバリバリの社会人野球選手だよ? 普通に強敵だと思ってるんだけどね、こっちは。
ただ、女神様曰くそれじゃあ足りないらしい。過去に経験した相手だと、変化球なしの限定条件とはいえ網走くんくらいしか達成できる相手は居ないんだとか。どんだけ強いんだよ網走くん。流石は同世代最強バッター様だぜぇ(やけくそ)
社会人でやってるレベルの人でもダメとなると、それ以上って事になる。つまり社会人でも上澄みのプロ級な人たちとか、それこそ元とか現役のプロ野球選手とかだ。
でも、そのレベルの人たちは逆に僕の魔球を打ちたがらないからなぁ。怪我を危惧するのは当然だけど、10数回投げてみて「あ、これガチでケガしないんだな」って実感を持ってる僕としては口惜しい限りだ。まぁ、見てて怖いのは分かるから口に出しては言わないけど。
なんとかしてポイントを。ポイントを稼いでまともに試合で投げたい。悶々と悩みながら日々を過ごしていると、金ちゃん監督から試合外でのお誘いがあった。
「え、野球でお笑いですか?」
「うん。そう」
「それいつもやってません?」
「笑いは取ろうとしてるけど試合はちゃんと真面目にやってるからね???」
金ちゃん監督の話を聞くと、とあるお笑い芸人コンビが毎年やってるお笑い特番にプロスポーツ選手を呼んで対決するというものがあり、そこにゲストの一人として僕にも声がかかったそう。え、僕がなんで呼ばれたのかなって思うと、なんでも番組側のギミックとして魔球みたいな絶対に打てないボールを組み込みたかったんだって。
「なるほどなるほど……うん? と、という事は僕、それに参加するとプロ野球選手とも対戦できるって事……?」
「うん。まぁ、広義の意味だとそうなるかもねぇ」
「いきます! いくいくいく!」
「お、おう。すっごい前のめりだね」
僕の勢いに金ちゃん監督が若干引き気味になってるけど、そんなの気を使ってられないよ。まさに今、僕が欲しかったものが全部乗せでやってきた気分だ。スポーツ選手を呼んで特番って事は、恐らく一人二人って話じゃないと思う。5人くらい呼んでくれてればそれだけで5ポイントだ。もちろん魔球が打たれる可能性もあるけど、プロ野球選手の自己管理を考えたら多分手を出しては来ないだろう。
出来れば、こういう打算抜きで勝負してみたいんだけど今はそんな事言ってる場合じゃないよね。いや、プロをまともにやって抑える方が評価は上がる……でもオフシーズンに入ってるから万全とは……いやしかし……チケット、切るか切らざるか。
悶々とした思いを抱えながら日にちは過ぎ、特番の収録日。
東京ドームを借り切って行うというスケールの大きさ。やっぱりテレビ局ってお金持ってるんだなぁ、と感心しながら中に入るとなぜかそこにはブーさんがプロテクターをつけて待っていた。いや、ブーさんだけじゃない。見覚えのある芸人さんたちが何人か、静かに覚悟を決めた目をしてプロテクターを身に着けている。今から命を懸ける勝負に出るって言いだしそうな空気をひしひしと感じるのだ。
「お、あまちゃんよく来たな。今日は……よろしく頼むぜ?」
「……ごくり」
いつもより当社比1・5倍くらい爽やかな顔で笑いかけてくるブーさんの姿に、生唾を飲み込んで僕は頷きを返す。
もしかして僕、とんでもない所に来たのかな?




