第118話 閑話 凄いのと幼馴染だけど意外としんどい
田中ケータには金髪碧眼美女の幼馴染と銀髪赤目美少女の幼馴染が居る。これを口にすると大体8割くらいの確率で相手の男はケータを殴りに来るが、事実なんだからしょうがない。それこそ互いにおしめをしていた頃から顔を突き合わせているのだから、幼馴染以外に形容する言葉がないのだ。
二人を知る人からは羨ましいともよく言われる。枕詞にはこんなにも綺麗な、もしくは可愛い女の子が幼馴染に居るなんて、と。
たしかにそういう言葉を言いたくなる人の気持ちは分かる。非常に分かる。外面だけじゃなく実際に人となりを知れば余計にそういう事を言いたくなるくらいに、あすみちもあまねきも素敵な女性だとケータは知っている。
だが、羨ましいと声を大にして言ってくる人々に言いたい。割とこの立場、辛いんだぞと。
「これより審問を開始する。被告、田中ケータ」
「うぃっす」
聖ザの男子更衣室。まさに男の園とでも呼ぶべき女子禁制のその場所で、ケータは黒い頭巾をかぶった先輩と同級生たちに周囲を囲まれていた。ユニフォームを着ていたら誰かバレバレだと思うんだが、そんな事は些事なんだろう。多分。
「被告は毎日毎朝、我らが男子野球部のトリプルエンジェルの内、二人。権藤あまねさんと山田シャーロットあすみさんの二人と、早朝トレーニングをしている。これに間違いはないか?」
「コータもっすけど間違いないっすよ」
「判決、死刑!!」
「弁護人どこー?」
裁判官を模しているのだろう、百均で売ってそうなハンマーで木箱をバンバン叩いていた元マンネリトルシニア出身の部長が、私情と嫉妬塗れの判決を口にした。その声に周囲を囲む虚しい男たちが「ころせ!」「死刑!」と口々に叫び始める。
だいたい週に1回、色々な理由でケータはこういう目に遭っている。理由は7割があまねで、3割があすみだ。なぜかコータはこう言う目に遭わないんだが、多分ケータの雰囲気がチャラそうだからやり玉にあげられやすいんだろう。自覚はしているが、中々自身のスタイルは変えられない。
ヒートアップし始めた部員たちにため息を吐いて、ケータはズボンのポケットに入れていた財布を取り出した。男子高校生は頭ではなくフィーリングで物事を考えるから放置していると本当に襲い掛かってくるかもしれない。こういう状況に慣れっこになってしまったケータは、当然のように備えをしているのだ。
財布の中から取り出したのは、二枚の写真だった。こういう事がしょっちゅうあるため、二人に許可を取って予め用意してあるそれを裁判長に提出する。
「猫耳メイド服で給仕をしているあまねきと、付き合わされた猫耳メイド服あすみちの生写真っす。証拠として提出いたします」
「推定無罪!!! これにて閉廷!!!」
裁判長がそう叫んでガンガンとハンマーで木箱をぶっ叩き始めた。よし、矛先がそれたなとケータはそそくさと更衣室から外に出ていく。今から男子更衣室の中ではたった二枚の写真を巡る度し難い戦いが起きるだろうが、まぁ1時間くらいすれば何事もなかったかのように身支度を整えて帰り始めるだろう。毎回そうなのだから。
「はぁー……」
二人が魅力的だから起こる事ではある。決して悪い事ではないのだが、毎回自分以外が原因の騒動に付き合うのも結構な負担ではあるのだ。
「ケーちゃん遅かったね! 男子でなにか話し合いしてたの?」
「んー、ただのバカ話っすよ。気にしないでモーマンタイ!」
「お、このチャイニーズマスターあまねさんの前でにわか中国語を口にするとは。ふぉふぉふぉ、未熟者に中国語の神髄を教えてやろうかね?」
「けっこうっす」
「あ、あら奇遇じゃない。私も一緒に帰っても良いわよ?」
「あすみ……流石に今のタイミングでその言葉はない」
「コーちゃんの冷静なツッコミ。僕じゃなきゃ見逃しちゃうね!」
まぁ、だからといって二人と距離を置くなんて気は毛頭ないのだが。




