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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第116話 やるます!

 時間は年始にまで遡る。



「お願いじゃよあまねちゃん! 道場を継いでくれなんて言わないから、武は捨てないでおくれ!」


「おじいちゃんさぁ……」



 ひしっと僕の腰に抱き着く権藤のおじいちゃんに僕はじとーっと冷たい目を向ける。去年は山田の家に行ったから今年は権藤の実家に行こう。そういう話になったから例年になりつつある年末特番や現役プロとの合同練習など年末のイベントを終えた後、僕は京都にやってきたんだけども。


 ついて早々、権藤のおじいちゃんは実の孫に泣き落としをしかけてきたのだ。その様子を「あらあら」と笑ってるおばあちゃん、貴方の夫でしょ引き取ってよ。



「すまんなぁ、あまねちゃん。親父は夏の、ほら。君が柔選手としたっていう練習試合の映像を見て、勝手に盛り上がっちまってなぁ」



 その様子を申し訳なさそうに見ながら、おとーさんの弟さん。正太郎叔父さんはそのおっきな身体を小さく折り曲げて頭を下げる。叔父さんはおとーさんより10歳年下でまだ20代なんだけど、権藤の道場を切り盛りしながら警察署の剣術指南役みたいな仕事をしてるスゴウデの剣術家。らしい。おとーさんは権藤の家の事をあんまり話してくれないから、正月とかに叔父さんたちが話してるのを聞いただけなんだよね。


 で、権藤のおじいちゃんがうるさいのはこの正太郎叔父さんがまだ結婚していないから。今現在、権藤家には僕しか孫が居なくて、だからおじいちゃんは昔から僕に剣術をやれやれとうるさいんだ。そんなわけで正太郎おじさんには早めに結婚して家庭を築いて一姫二太郎くらいバーンと作っておじいちゃんを安心させて欲しいんだけどね?



「いや、親父が君を跡取りにって言ってるのは君が小学校の3年くらいのときに親父を竹刀でぼこぼこにしたからなんだけどね」


「あ、ちょうちょ」



 正太郎叔父さんの言葉に僕は空を舞う……多分きっと舞ってる、ちょうちょの姿を目で追いかける。必殺、話題そらし。くくくっ自分に都合が悪い会話は話を逸らしてうやむやにするのが権藤あまねの究極奥義なのだ!


 だいたい、その竹刀でぼこぼこって6年も前の、僕が筋肉もりもりマッチョウーメンだった黒歴史時代の話しじゃん。しかもそのぼこぼこにするってのも語弊があって、おじいちゃんは当時圧倒的パゥワァに酔いしれていた僕に「あまねは大きくなったなぁ、横に。どれ、おじいちゃんが稽古をつけてやろう」とか女の子に失礼すぎる失言をかましてきたんだよ? 殺るでしょ普通?


 まぁ、これとルイの大失言コンボがあったから僕も正気に返れたってのはあるんだけどさ。



「子供への指導と思い油断していた。それは間違いないのじゃが、ワシが打ち込んだ竹刀を完全に見切る反射神経と、思考の速さはあきら譲りのものじゃ。世が世ならあまねは一廉の武人として名を遺したであろうに……時代が悪かった」


「平和な時代って証拠じゃねぇか。親父もあんまりあまねを困らせるなよ」



 未練たっぷりなおじいちゃんの言葉に、それまで黙っていたおとーさんがそう口にする。元々おじいちゃんは長男のおとーさんに跡を継いでほしかったらしくて、実際におとーさんもそっち方面の才能は凄かったらしいんだけど、気質的に合わなかったんだって。大学進学を機におじいちゃんと話し合って東京に出て、そこでおかーさんと出会って結婚。紆余曲折の末に純喫茶アンデッドをオープンして僕が生まれたってわけなんだけど、その娘で初孫の僕がほら。世界最強の女投手になっちゃうくらいのポテンシャルウーメンだったからね?


 子供の時から僕の運動神経を度々目にしてたおじいちゃんはなにくれと僕に武の道への勧誘を行ってきていて、まぁ僕もお年玉をくれるおじいちゃんを嫌いじゃなかったからね。体を動かすのは嫌いじゃないし、京都に来るたんびにおじいちゃん曰く稽古をつけてもらってたら大失言をかましてきて。激おこしちゃった僕がおじいちゃんを竹刀で散々しばき倒したのが、決め手になったみたい。


 以来京都に行くたびに跡取りの叔父さんの目の前で跡取りになれなれうるさくなっちゃって。こっちからすると気まずくてたまんないから、あんまり京都にもいかなくなったんだよねぇ。


 で、時間を置いたから流石におじいちゃんの頭も冷えてきたのか野球の方で結果を出してるからってのもあるだろうけど最近は大人しくなってきたなって思った矢先に、公式戦じゃないとはいえ柔道の金メダリストと良い試合しちゃってる一部始終が全国放送で流れたから、燻ってたおじいちゃんの跡取り欲がまたぞろ表に出てきたみたい。まぁ、流石に今回は跡取り云々じゃなくて折角武道を始めたんだから継続して欲しいってお願いレベルだからそこまで不快じゃないんだけど。


 僕もね。別に柔道が嫌いじゃないというか、なんだかんだ中学3年間お世話になってるからね。続けることはやぶさかじゃないんだけど、甲子園があるんだよ高校生活には。そんな大事な大事な人生の大イベントで、しかも5回しかチャンスの無いものに向かって邁進してるのに今柔道をって言われても、その。困る。僕にとってのメリットが全然ないんだよねぇ。


 これでなにかしらメリットがあるなら練習だけとかを考えても良いんだけども。



【メリットならありますよ?】


――あ、女神様。今日は急ですね



 おじいちゃんが駄々をこねるというちょっと外面的にどうなんだって家族会議中、急に灰色の世界が広がり頭上から声が降りてくる。女神様は最近グレプロの新作が出たとかでお忙しいらしく、声を聴くのは前のオリンピック以来かもしれない。


 お久しぶりです。ご無沙汰しておりますと定例文のような挨拶を交わし、さて本題へと移る。野球にかかわりが全然ないのにメリットとは一体、と問いかけると女神様は声だけで分かるくらいのどや顔(想像)を浮かべて話始めた。



【権藤あまねさん。女神は、大変なことを忘れておりました】


――はぁ


【野球は青春。高校生活は青春のど真ん中。そして高校生には数多のイベントというごく当たり前の一般常識を、忘れていたのです】


――…………はぁ



 ふふーんとか聞こえてきそうな得意げな声であんまり良く分からない事を口にする女神様に、僕は精一杯オブラートにつつんだ生返事で返事を返した。そういえば今年のグレプロのキャラ作成モードは高校生シナリオだったっけ。右の耳から左の耳に垂れ流した方が良い案件かな、これ?



【という訳で野球以外のイベントでもポイントをお配りいたします! 特にこのあいだの。えー、おりんぴっく? とかいう祭典のような大きなイベントなら、それはもうたくさんの女神ポイントが手に入るびっぐちゃんすですよ! びっぐちゃんす!】


――ほう。ほうほうほう?



 あ、だめだこれ聞き流しちゃだめな奴だ。それ去年のオリンピックからやってほしかったよ女神様! という文句を口のなかにごっくんしておこう。まぁ、高校生活って言ってるし高校生の3年間だけ特別仕様って事なんだろう。うん。


 前のめりに話を聞く態勢に移った僕は、女神様から更に情報を引き出すために質問を口にした。



――たとえば、その。別のスポーツを。例えば柔道とかそういうのをやってもそっちでポイントがもらえるって事ですかね? あ、これはあくまでも個人の質問なんであんまり深い意図はないんですけどね?


【そうですね。柔道は野球とも通じる所がありますので大きな大会で優勝したら100ポイントくらい渡しちゃうかもしれません】


――やるます!!



 女神様の言葉を耳にした瞬間、脊髄反射でぼくはそう声を上げた。100ポイント。つまり身長1cm引換券。それが柔道の試合を優勝する程度でもらえるなんてなんてすばらしい女神様なんだとこの時の僕は本気で思っていた。たぶん、正気じゃなかったんだと思う。身長。なんて魔性の存在なのだろうか。


 気づいた時には柔さんに連絡を取り、僕は4月にある大きな柔道の大会に出場する事が決定していた。所属する高校にも話が通っていて、4月から監督になる星さんからは心底呆れられたけどこれで僕は強くなるんですと口にしたら「お、おう……」と最終的には認めてくれた。その辺で正気に戻ったんだけど、にっこにこ顔で原木中柔道部にやってきた柔さんの笑顔を見たらいまさらやっぱり辞めますとは言えなくてね。おじいちゃんもすっごく喜んでたし。


 ま、まぁ一回くらい柔道の大会に出るのも爺孝行って事で笑い話のネタになるかな。うん。



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