第113話 閑話:記事+大人たちの飲み会
本日、東京国際空港に権藤あまね選手が到着した。4年に一度の祭典、オリンピックで数々の輝かしい記録を成し遂げた彼女の帰国は当然のように祝福されるものとなり、空港ロビー内は一種の祭りのような賑わいを見せた。
偉業、そう呼ぶしかないだろう。オリンピックという巨大な祭典で彼女は野球という一つの競技を完全に仕切り、ガラガラだった球場を満員の観客で埋め尽くした。これは最早一選手が為せるものではない。彼女は一人の名選手として参加し、最上位の活躍をしながら更に名プロデューサーとして競技全体を統括し、その上名(迷?)解説者として人気を博したのだ。たった一人の人間が行える事柄を軽く超越していると思うのは筆者だけであろうか?
それこそ彼女が投げる魔球のように3人に分身していてもおかしいとは思えない事績だがこれを成し遂げたからくりは彼女の伯父である山田芸能事務所の所長、山田ブライアン氏の全面バックアップとオリンピック運営側の意図が絡んでいる。
まず経営者としても名高いブライアン氏が世界的に認知度が高い動画配信サービスYOUCUBE、そして日本でつい最近開始された動画配信サービスニヨニヨ動画と関りを持っているのは有名な話だが、彼はその二つの動画配信サービスを可愛い姪のために全力で役立てた。日本代表の試合だけではあるが、今回のオリンピックで野球競技だけが全世界で見られているのはTV放映だけではなく動画配信サービスでも視聴出来た事が大きな理由だ。
この配信の際にニヨニヨ動画経由の場合行えるコメントという機能が非常に革新的であり、野球の試合よりもこちらがニュースとなった国々も多かっただろう。ニヨニヨ動画はこのオリンピック後、爆発的に登録ユーザーが増えているらしい。ブライアン氏としては姪を援護するはずが援護される形になったわけだが、彼の働きが大きかったことは間違いない。
次にオリンピック運営の意図であるが、こちらは単純だろう。確実に大きく見返りが来る投資案件が舞い込んできたのだから投資した。それが理由だ。MAKYUUブームは未だに衰えを見せず、なんなら今回のオリンピックで加速した感すらある。筆者は魔球を唯一投げなかった決勝戦こそ最高の試合だったと感じているが、これは好みの問題だ。余りに好投無形な彼女の試合はどういう展開でも見ている者を楽しませてくれる。筆者は北埼玉デッドボールの全試合を純喫茶アンデッド(権藤あまね選手の実家)で見ているが、退屈だと感じた事は一度もなかった。
オリンピック運営側の意図は図に当たり、今回のオリンピックで最大の収益を記録したのは野球競技だったという。試合数も多く同時に収容できる観客数も多いためさもありなんというものだが、恐らくここまで野球という競技が人気を博したのは有史以来初めてではないだろうか?
世界野球機構はこの機運に乗り、野球の競技人口を増やす施策を行っていくと発表した。この機運の火付け役であるAMACHANは今後、どうなるのか。彼女から目が離せない。
(記事投稿者:東京都 無職 38歳)
“AMACHANに憧れて。未来のスターたち”
スポーツの祭典、オリンピックが閉幕した。世界中の輝かしいスターが今年も誕生した中、ひときわ煌めく一等星のような選手が注目を集めている。“AMACHAN”として知られる女子野球選手、権藤あまね選手だ。
野球というサッカーやバスケットボール等に比べたら比較的マイナーなスポーツの選手であり、もしかしたらコメディエンヌとしての彼女しか知らない人も多いかもしれない。多くの人を笑顔にするコメディエンヌとしての彼女も魅力的だが、彼女にはもう一つの顔が野球選手としての顔なのだ。
最近話題のYOUCUBEとニヨニヨ動画で配信された彼女が登場する女子日本代表の試合をぜひ見てほしい。筆者は初めて野球の試合というものを目にしたが、試合開始から試合終了までの2時間が瞬く間に過ぎ去っていくのを感じた。試合が終わった時にポップコーンが丁度無くなり、その事で試合が終わったことに気付くほどの没入感を得られたのだ。
ディスプレイ越しの筆者ですらそうなのだ。実際に会場で彼女が演出する(比喩ではない。権藤あまね選手はオリンピック運営から野球競技のエグゼクティブプロデューサーに任命されている)野球を見た人からは、自身も野球をやりたいと野球用具を買いに走る人が続出したのだ。大人も、子供もだ。
筆者はロンドンにあるとあるスポーツ用品店でとある親子連れに取材をした。彼らはオリンピックから帰ってきたその足でこのスポーツ用品店にやってきたという。お目当てはもちろん、野球用具だ。
「グローブを買いに来たんだ。野球用のね。クリケットが元になったスポーツだと聞いて娘と見に行ったんだが、最高に楽しかったよ。娘も夢中になってしまって、AMACHANの動画を毎日PCで見るようになってしまったよ」
「今までスポーツとか、あんまり興味が無かったけど。楽しそうにボールを投げたり打ったりしてるAMACHANを見て、私もやりたくなったの。今は近所で友達を集めて、キャッチボールをしてるのよ!」
一人の異才の存在により、野球人気は燃え広がっている。この動きがどうなるか、彼女からはまだまだ目が離せそうにない。
(デイリーニュースペーパー記者:英国 52歳)
「とりあえず、お疲れさん」
「いやー……本当に疲れましたよ」
「やっぱり海外は、色々気を張りますからね」
何度も通ったいきつけの居酒屋で、3名は杯を交わす。色々気を張っていたからか、ビールを一気に呷ったブーが「くぅ~」とCMにでも撮っているのかと突っ込まれそうなほど美味そうにジョッキを空にした。私生活でもリアクションが大きくなるのは、芸人あるあるみたいなものだろうか。
そう冷静なつもりでブーを見ていたプロデューサー兼カメラマンと呼ばれる西谷も、ジョッキに口をつけた瞬間にブーと全く同じ行動を取ってしまう。日本代表、特に女子野球代表に張り付き、ほぼ権藤あまね専門のメディア担当のような役回りだった彼も相当に忙しい日々を過ごしたのだ。心身ともに潤いを求めている所におビール様が投入されれば、こうもなってしまうだろう。
そんな二人を笑って眺めながら、坂本金太郎は酒の肴に口をつけた。
心身ともに疲れ果てているだろうが、それ以上のリターンを二人は手に入れている。日本代表の試合で見事に解説役を務めたブー、権藤あまね関連のニュースその他を一手に取り扱った西谷。どちらもこの実績は、新たな仕事に繋がる大きな一手だ。
西谷は、そろそろ上から声がかかるころだろうな。ブーは人気芸人の枠を超える足掛かりになるだろうが、これから次第。長年業界に携わる坂本金太郎にはその辺の肌感覚があるが、これらは会えて口にしないでおく。
だってその方が、きっと面白くなる。だから坂本はあえて二人の話をせず、最近の日本内部の動きを口にした。
「あまちゃんをバラエティーに出させてくれないかって声が、多くなってるんだよねぇ」
「え。ウチ(土8のオレイケ)でギリギリでしょ。アイツが嫌がりますよ」
「そうなんだけどねぇ」
ブーの言葉に坂本も言葉を濁す。簡単な風に言っているが、実を言うとこの権藤あまねを出してくれ、という声は日増しに高まっている。
結果を出し過ぎたのだ。北埼玉デッドボールから始まり各種特番での活躍。そして、なによりも大きかったのは今回のオリンピックで彼女が運営側でもイケるという事を知らしめてしまった事だろう。彼女に番組を持たせたいと言ってきている相手が、すでに両手で数えるほどに出てきている。
もちろん本来は事務所にオファーを出すべき案件で、坂本に相談が来ることが可笑しい話なのだが。あまねの意向により、山田芸能事務所は野球に関わる話以外は全て断っている。そうなってくると次に頼られる相手が、権藤あまねの師匠と目されている坂本になるわけだ。
「困ったもんだねぇ」
権藤あまねは坂本が言った所ではいと頷くような女じゃない。向上心溢れるバイタリティの塊みたいな奴なのに、なぜか芸能関係の野心が欠片もないあの娘になにかをやらせるという事は本当に大変なのだ。
しかも来年は、高校生。ついに念願の甲子園に出場できる年齢になるんだから、彼女がどう動くのかなんて坂本には手に取る様に分かる。
「ほんと、困ったねぇ」
本当に、心の底から困った風で。けれども口元に笑みを浮かべて、坂本はビールのジョッキに口をつけた。




