第111話 授賞式
「いきなりサインにない球投げてんじゃねーよー」
「いふぁいいふぁいもうふぁんふぇんふぃふぇふぉー!」
トロ子ちゃんが僕の頬をグイっと引っ張った。万力のようなトロ子ちゃんの腕力で引っ張られたら、僕のやわらかな両頬がお餅みたいに伸びちゃうよ!
というかこの文句今日だけで3回目なんだけど、いったいいつになったら許してくれるのかな。コーちゃんだったら最初に1時間くらいお小言言って終了なんだけど。魔球を初めて投げた時がそうだったしね!
あ、式典の準備が終わったみたいだしそろそろ行こうか。金メダルかぁ。本当に金で出来てるのかな? カメラの前で噛んでみるっての一度やってみたかったんだよねぇ!
『なんてわくわくしてたんですけどなんで僕がメダル授与するんですか? 受領する側ですよね???』
『今大会での野球競技の盛り上がりは、老師の働きによるところが大きいためです。大会運営としても、授賞式まで含めて老師のプロデュースだと考えておりますので……』
『考えるだけに留めておいてほしかった!』
各チームのキャプテンが代表してメダル授与式に出るんだけどね。その各チームの代表の首に、何故か僕がメダルをかける役割を頂いてしまった。ついさっきまで戦ってた相手の首に銀メダルをかけるって問題になるんじゃないかと思ったんだけどアメリカ代表のキャプテンさんは笑って頭を下げてくれた。だから! アメリカ代表は全員身長高いんだよ! アンジー以外180オーバーじゃん!!!
今回のオリンピックでは金メダルを日本が、銀メダルはアメリカが、銅メダルを韓国が受賞した。そう、アメリカ代表に、日本代表は勝ったんだよ! ふんすふんす。
勝負の分水嶺はやっぱりアンジーとの最後の対決だったね。あれを三振で乗り切れたからこそ流れを手繰り寄せたというかだね。まぁ、僕は結局レイチェルからホームランは打てなかったんだけど代わりにトロ子ちゃんがタイムリーを打ってくれたからね。狙いすましたようにレイチェルの外角低めをはじき返した時は、思わずガッツポーズしちゃった。延長戦も覚悟してたからね!
まぁレイチェルも後半からスタミナが切れてきたのかコントロールが悪くなってたし、多分あのまま投げ合っても僕が勝ってたと思うけど。僕、世界最強の女投手なんで(キリッ)
気付いたら完全試合も達成してたし、僕としては最高の結果で終わったオリンピックだったね。
あと、3位になった韓国代表だけどあそこの監督は策士だね。もう手品の種は尽きたとか言ってたのに、最初から銅メダル狙いで最後の最後に隠し玉を持ってきたんだから。
なんとそれまで外野を守っていたジウォンちゃんがピッチャーとしてマウンドに立ち、困惑する台湾代表の打線をほんろうして5回を2失点の好投。逆に韓国側は台湾代表のピッチャーを攻略し、交代した投手がホームランを浴びたものの試合は5-3で韓国の勝利に終わったのだ。
この結果にうちのチームの佐竹さんが大喜びである。なんでも元々ピッチャーだったジウォンちゃんは打力を買われて代表入りしたけど、出来ればピッチャーに戻りたいって言ってたそうで。それを聞いた佐竹さんが色々アドバイスをした結果が今回の大会に繋がったそうだ。
そりゃあ嬉しいよね。僕も誘い続けてたケーちゃんが野球を始めて、大会で結果を出した時はすっごく嬉しかったもん。ジウォンちゃんはこれで韓国女子野球界の次期スター候補だね。あそこは一度人気が出るとすっごいみたいだからもう下っ端扱いでこき使われる事もないんじゃないかな?
諸々のイベントが終わって自由な時間になったから、応援しに来てくれた家族へのご報告を――と思って合流したら、山田のおじいちゃんが泣いてた。
『ついに、ついに山田の家からオリンピックのメダリストが……しかも二人も金を!』
『ええ。ええ。嬉しいですねぇ、貴方』
ソファに座り、涙を流しながらそう口にするおじいちゃんと、うんうんと頷きながらおじいちゃんの肩をさすっているおばあちゃん。二人にとって今回のオリンピックは、最高の思い出になったようだ。
山田家はスポーツ一家ではあるんだけど、皆あと一歩のところで超一流には届かない事が多い一族だったらしい。身を立ててからまだ1世紀ほどしか経ってない新興の家だから、家業優先でアーサーくんみたいに早めに引退する人も多いからね。
でもそんな山田家も今年のオリンピックには3人も選手になった子がいて、そのうち二人は金メダリスト。もう一人も片手の指で数えられる上位入賞者のため、山田家のスポーツ界隈での名声は一気に上がるだろう――というのがブライアン伯父さんの予想図で、その事がおじいちゃんたちには何よりも嬉しいらしい。
ここまで喜んでもらうと、正直こっちもすっごく嬉しい。まぁ、僕個人の活躍というより実家のって枕詞がついちゃうけどこれは上流階級だとしょうがないだろうしね。僕を可愛がってくれてる二人が喜んでくれるんだから、素直に嬉しがるべきでしょ。孫としては。
それに、僕個人の活躍を嬉しいと思ってくれる人は他にもいるわけで。
「おめでとう、あまね。かっこよかったぞ!」
「おめでとうあまねちゃん。頑張ったわね!」
「うん!」
おとーさんとおかーさんの言葉を耳にして、僕は二人に飛びつく様に抱き着いた。愛してくれる両親からの称賛こそ、最高の誉め言葉だよね!
僕は旗手としての仕事とか色々あるからまだ上海に滞在しないといけないし、1週間くらいはお休みも貰ってるからね。明日からは家族で上海旅行だ! カニ沢山食べるぞぉ!




