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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第108話 オリンピック決勝 アメリカ代表戦 前編

≪――残念なことに男子代表はアメリカ代表に敗れ4位となってしまいました。メダル獲得ならず! 解説のブーさん、敗因はどのようなものが考えられるでしょうか≫


≪そうですねぇ。やはり、そのかみ合わなさというものが見て取れましたね。監督の采配と選手たちの尽力が上手く機能しないでいると得点チャンスで得点が出来なかったり、こらえきれるピンチも抑えられなかったりしてしまいます。決してアメリカ代表に実力的に劣っている試合ではなかっただけに、その点が非常に残念でしたね≫


≪ブーさん。非常に真面目なご回答ありがとうございます。ただ、恐らくこれは皆さんが感じている事だと思うんですがあなたに求めてる回答はもう少し違ったんじゃないかと思うんですが≫


≪俺にどうしろっつーんだよ!≫


≪≪≪HAHAHAHAHA!≫≫≫



 会場内に繋げられた実況解説のやり取りに、満員のスタジアムが笑いで包まれる。さっすがはブーさん。半分くらいは日本人じゃないのにしっかり笑わせてんじゃん。


 笑いに包まれたスタジアムってのは、良いよね。緊迫感のある試合も大好きだけど、やっぱり野球は楽しんでなんぼだと思うんだ。いや、北埼玉デッドボール流を学んで思うようになったってのが正しいのかな。


 最初は甲子園に行くためだけに利用してやろう、くらいの気持ちだったのに。たった2年と少しの経験で、僕の野球観を塗り替えちゃうくらいに強烈な日々だった。ただ強いだけじゃ楽しくないし、ただ楽しいだけじゃ勝てない。欲張りな僕は、どっちも手に入れたい。



「だから、今日は勝とうね。トロ子ちゃん。世界で一番楽しい試合をしようよ!」


「えぇーなんでお前のために頑張らなきゃいけないんだよー」


「トロ子ちゃん?」



 若干決意表明染みた僕の言葉を聞いて、心底嫌そうな顔でそう言われると。ちょっと心に来るんだけども?



「頑張るなんて当たり前だろー。お前みたいな化け物と違って、私も、先輩たちも。今日勝つために、勝つためだけにこれまでの人生で野球やってきたんだ。私ら女子野球選手の上りは、オリンピックなんだからよ」


「流石に化け物扱いは酷くない???」


「わたしはしょうじきなだけだー」



 それは知ってる。ルイが告白した時に変に期待を持たせるようなそぶりも見せずに一言でバッサリ断ってくれたのは、従妹としてはありがたかったよ。ただルイの方はそれでますます盛り上がっちゃってるみたいだけど。なんか卒業したら日本に来るとか言ってるみたいでミリーが爆笑してたしね。


 これと決めたら一直線なのが山田家伝来の気質みたいで、おかーさんの時に同じことがあったんだよって使用人のリチャードさんが言ってた。まぁルイは次男だということと、気質的に実家の仕事を手伝えるか分からずスポーツの道で成功してくれればって感じだったからね。割と将来の自由度は高いから、再来年あたり本当に日本に来ちゃうかもね。


 そういえばルイもメダルは取れなかったけど上位入賞を果たしたらしいし、おじいちゃん達も喜んでたなぁ。ここで金メダルを取ったら、お小遣いも期待できそうだ。



「魔球は一度きりーアンジー相手でもそれはかわんねーぞー」


「んーなんなら多分、今日は魔球投げれない日だね」


「そかー。じゃあ、2,3点は覚悟しとくかー」



 女神様に呼びかけても居留守使ってくるから、多分水鳥さんがこの球場のどこかに居るんだろう。決勝は絶対見に行くって言ってたし。よっぽどの事がないとガチャは起きないと見て間違いない。


 つまり、純粋な力と力の勝負ってわけだね。いいね、シンプルで分かりやすい。ついついいつもより力みが入ってしまう所だけど、まぁ。やろうかアンジー、ナタリー、レイチェルさん。


 試合の時間だ!






 うっひょー、いきなりか。相手のオーダー表を見て、思わずそう言葉が漏れる。


 1番にアンジー。もう分かりやすいほどに分かりやすい、アンジーで点を取るっていう強い意志だね。まぁ他の打者というか、二番目に頼りになるナタリーは僕相手だと本当にカモられてるから仕方ないんだろうけど。基本的に身体能力で野球してる子が多いチームほど僕とは相性悪いからカモがネギ背負ってきてるレベルなんだ。実は僕を攻略する可能性が一番高いチームは日本代表だったりするんだよね。


 逆に日本代表はレイチェルとかあすみちゃんみたいな力づくで全部黙らせてくる相手に弱いから、嫌な意味で両チームの均衡は取れてると言っても良いんだけども。


 誰も立ってないマウンドに自分の足跡を刻む。この瞬間はいつだって最高だ。ガリガリと投げやすいようにマウンドの土を弄り、打席に入ったアンジーを眺める。


 アンジーは僕に視線を向けると、ふふっと笑って目をつむり、数回の深呼吸をしたあとに目を開く。たったそれだけで、打席の中に居たぼくの友人、可愛いアメリカ人の女の子アンジー・スチュワートは、世界最強の女打者アンジー・スチュワートへと変貌する。


 鷹が獲物を見定めるような鋭い視線に背筋がゾクゾクしちゃうよ。怖いね、怖すぎて、楽しくなってきた。



「プレイボォォォル!」



 審判の宣言の元、試合が始まる。滑り止めをしっかりと手に馴染ませ、ボールを手に取る。


 予感がする。多分、これを投げたら打たれるっていうものだ。網走くんの時に似た感覚。間違いなく狙い球を絞ってきてる。最初の一球は低めへの高速ナックル。簡単に捌かれるけどファールゾーンに飛び1ストライク。もう10キロほど速ければこの球もアンジー相手の決め球になりえるんだけどね。ノースピードな技巧派投手としてはカウント球にせざるを得ない。


 次いで投げるのは投げた瞬間から大きく曲がり続けるカーブ。右打者のアンジー視点だと左肩の外側からいきなりボールが出てきたように見えるはずだけど、これもきっちり捌いて、ガキィンと嫌な音が響く。打球は真っすぐライナーでファーストとセカンドの間を飛び、バシィンとすっごい音を立ててライトに居たあすみちゃんのグローブに収まった。


 打席からライトまでまっすぐに飛ぶってなんだよ。今、全然打球が落ちなかったんだけど。角度がもう10度くらい高かったら間違いなくホームランだったな。というかあすみちゃんあんなの取って大丈夫なんだろうか。ちょっと心配になってきたよ。


 そして、狙い球じゃなくてもこのくらいの球だとアンジーは打てちゃうんだね。とんでもないチートだ。



『いっくわよーアマネ!』


『お帰りはあっちだよ!』


『あーん!』



 とはいえアウトはアウト。一番怖いアンジーを打ち取れたから結果良ければすべてよし! ということで今日は3番に座ってるナタリーを空振り三振に仕留めて1回表は終了だ。さ、ここからしっかり点が取れるかがこの試合の明暗だね。


 ただ、向こうのレイチェルがめちゃめちゃ気合入ってるみたいだからなぁ。正直厳しいかも。レイチェル相手だと過去2試合、僕とあすみちゃんと時々トロ子ちゃんくらいしか打ててないんだよね。あ、あとは今回初対戦のかんなちゃんと、一色キャプテンと身体能力はアメリカ代表並のリリーナちゃんとかもワンチャンあるかな。かんなちゃんの打力は僕もよーく知ってるし、一色キャプテンたちもレイチェルの球をちゃんと前に飛ばせてるから。


 おお、そう考えると我が日本代表も2年前に比べて随分と成長したなぁ。金メダル候補って呼ばれるのも伊達じゃないね。これなら思った以上にスムーズに勝てるかな、と皮算用を叩きながらかんなちゃんの最初の打席をネクストバッターズサークルで眺めていると。


 ズバァァァン! ズバァァァン! ズバァァン!



「無理無理無理っスあれなんすかなんなんすかアレ!」


「うーん。お手本のような三球三振」



 あの速球、間違いなく140は超えてるよね。レイチェルもついに女子の限界を超え始めたかぁ。



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