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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第107話 決戦前夜

 男子野球の日本代表は残念なことに準決勝で敗れた。反対側ではアメリカがキューバに負けたから銅メダルはアメリカと奪い合う事になる。韓国とキューバの戦いは下馬評は韓国有利って感じかな。


 日本側の敗因としては……うーん。全体的に調子が悪い感じがしたよね。今回のメンバーはほとんどがプロの一線級の人ばっかりだから実力はあるんだけど色々噛みあってないというかね。あと、外野の守備がガンガンエラーしてたけどあれは仕方ない。なんか芝がおかしくて走りづらい上に変な方に跳ねたりするからね。今回参加チームの外野はほんとーに大変みたいだ。


 僕の代わりにセンターを守ってるかんなちゃんなんて予選リーグで8回もエラーしてるからね。かんなちゃんの場合は守備範囲が広いからその分エラー機会が増えてるってのもあるけど。



「という感じで、負けに不思議の負けはなしって感じの敗北だったと思います。まる」


「うーん、なるほど。権藤さんは、野球詳しいんだね」


「野球の日本代表の一人なんですけど???」



 お偉いさんの表敬訪問がある、ということで一色キャプテンと一緒にたくさんのカメラに囲まれてにっこり。明日の決勝に向けて頑張りますって無難にインタビューを受けていたら、件のお偉いさんから今日負けちゃった男子の代表について話を聞かれたので思った事を口にした。たぶん、僕の感想はそこまで的外れではないと思うんだけど、そんな僕の感想を聞いたお偉いさんの一言がこちらです。


 なんでもプロレスのすっごいスターだった人でオリンピックにも協力してるんだとか。何年か前まで政治家だったらしいけど、今は新しい格闘技団体を立ち上げたり色んなスポーツの後援みたいなことをしてるんだって。第一声に「元気ですかー!」とか大声で叫んだら周りがわっと沸き立ったから、今でも人気者なんだろうね。



「柔さんから君はとても柔道の才能があると聞きまして。こっちの道に興味が出来たらぜひ声をかけてくださいね!」


「野球がメインなんでその道を選ぶことはないと思いますけど、お誘いは嬉しいです。ありがとうございます」



 うわ、またかぁと思いながら笑顔を浮かべてオブラートにお断りだ。先日、柔さんに揉まれた練習試合以来、なんだかしらないけどこういうお誘いが凄く増えたんだよね。いや、僕まだ中学生なんだけど。みんな高校とか大学をすっ飛ばして僕の将来を決めたがり過ぎじゃないかな?


 あと、ブライアン伯父さん経由でも変な仕事というか、プロモーターみたいな事をしてみないかってお誘いがすっごく増えてるんだって。今回のオリンピックでは野球部門の収益がすっごい事になってるみたいで、これを見た人たちが勝手に僕を凄腕のプロデューサーだと思ってるみたいだ。


 今回に関しては完全に魔球ブームのブーストありきで、別に僕の手腕が凄かったってわけじゃないんだけどね。ただ、今のタイミングで効果的な一手を打つことが出来た。僕の勝因はそれだけだよ。





 インタビューを終えた後、僕は感動に震えていた。


 暇になったからだ。



「苦節10数日。マジで忙しかったなぁ……」


「アンタの場合、遠い意味での自業自得じゃない」


「なんだいそれは」


「厄介ごとに自分から向かっていくのは自業自得。自分に向かって厄介ごとが飛んでくるようにシステムを組んでるのがあんただから、遠い意味での自業自得でしょ?」


「そんな全自動厄介ごとマシーン作ったつもりはないんだけど(震え声)」



 選手村のベンチに並んで座って、ちょっと崩れた縦ツインドリルを直しながらあすみちゃんは僕に向かって酷い事を。ほんとうに、ほんとーに酷い事を言ってきた。世の中にはね、言って良いことと悪い事があるんだよ。ただただ目標に向かって僕は邁進しているだけなのに、そんな天罰みたいなものを喰らう理由はない! ないはず! たぶん!


 ふぅ、落ち着け。クールになるんだ権藤あまね。ここでカッとなったら隣に座る恋愛弱者の思うつぼだからね……ふぅ、深呼吸深呼吸。


 落ち着いた所で明日の試合の事を考えよう。決勝の相手はアメリカ。まぁ、これは下馬評通りというか今年のオリンピック女子野球は日本かアメリカが勝つって言う風に言われてたからね。決勝戦がこの組み合わせになるのも不思議じゃない。


 予選リーグではアメリカ代表に勝ってるけど、あん時のアメリカ代表は手を抜いてたからね。世界最速の女レイチェルが投げてたらあそこで勝てたかは怪しかったと思う。まぁ、逆に日本は僕が投げてなかったんだけどね? ふんすふんす。


 そう。明日の先発は僕が投げる。本当は予選リーグでもどっかで先発する予定だったんだけどね。予定外の仕事が入ったのと思った以上に余裕があったから結局僕の先発登板はここまで一つも無くて、ずぅっと内野を守ってて、試合の最後にちょろっと〆るみたいな登板をやってたんだ。


 ただ、プロデューサーとしての仕事も明日の試合が最後となるとやる事が無いし、実況解説も引継ぎがすんでるからね。今回のオリンピックで、本気で野球に打ち込める最初で最後の試合が明日になるわけだ。


 世界最速の女との投げ合い。女子最強の打者との戦い。いろいろと苦労したオリンピックだったけど、最後の最後ですっごいご馳走が待ってるんだから苦労してきた甲斐があるってもんだよね!



「だから、明日は僕が勝つよ。アンジー」


『今度こそ、私が勝つわ。アマネ』



 ベンチに座ったまま言った僕の言葉に、背後からそう声が降ってくる。ぐっと首を反らして後ろを見ると、ニコニコとした表情のアンジーがそこに立っていた。うん、なんか背筋がゾクゾクするから居るなぁって思ったから口にしたんだけど本当に居たよ。網走くんといい、なんか変なオーラ纏ってるように見えるのは気のせいかな?


 まぁ、僕としては手ごわい相手の証、みたいに感じるから良いんだけどね。



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