第103話 女の子に卍固めするなんてひどい!
「テメー権藤! 好き勝手言ってくれたなー!」
「ギブ! ギブでーす!」
僕は戦っていた。目の前に立ちふさがるは屈強な野球人の頂点たち。オリンピック日本男子野球代表のプロアマ含めた約20数名が襲い掛かってきたのだ!
お、女の子に卍固めするなんてひどい! ひどすぎるよ! ただ単に最近家族との誕生会で年甲斐もなく泣いちゃった話とかぼったくりバーに引っかかって身ぐるみはがされた話とかを面白おかしく実況の時に話しただけじゃないか!
「規模が違うんだよバカ野郎! お前、お前の実況解説すっごいニュースになっちゃってんじゃん……あと身ぐるみはがされた後にお金は取り戻したから」
「でもすすきのでパンツ一丁にされたんですよね?」
「それはまぁ、うん……」
代表に選抜されていた緑豆さんに尋ねると、彼はしなびた枝豆のような表情でそう答えた。僕の実況解説ではこういう風に選手の事を知ってもらうように結構踏み込んだ内容の事も話すからね。ただ流石にガセを口にすることはない。日本代表は情報源がしっかりしてるから色々話せたけど、他の国に対する実況解説はもっと大人しいものばっかりだ。日本代表は情報源がしっかりしてるから言えるんだよ? 情報源がしっかりしてるから。
「マジで筒抜けなんでもうちょっと身辺気を付けた方がいいですよ? あ、次の実況解説用にアンケートとってます。変な事言われたくなかったらこれに言える範囲で記入してね? 〇〇の事や××の事とか耳に入ってるんですよ……でも流石に言ったら悪いかなってあれでも結構遠慮してるんで。ところでそろそろ卍固め解除してくれません?」
僕の言葉にビビったのか卍固めを解除した緑豆選手の肩をポンと叩いて、アンケートを押し付ける。あ、皆さんの分ももちろんありますんで。僕の耳に入ってきた情報も裏に書いてるんで扱っていい奴と悪い奴はちゃんと記入しといてくださいね?
そんな僕の言葉に不承不承といった具合に頷いてアンケートを受け取った一人が、裏側をちらっと見て悲鳴を上げる。どうやら覚えがある件が書かれていたらしい。それを皮切りに室内のあちらこちらで同じような悲鳴の声が上がり始めた。
「お……お前、鬼か……?」
「失礼な。こんなに可愛い世界最強女子を掴まえて」
僕が渡したアンケートを見て、ドン引きした風な表情でそう口にする巨神のキャプテンさんにそう応える。気持ちは分かるけどげいのーかいは魔境だからね。というか僕より身近に感じてるはずのプロ野球選手が僕程度に慄いてたらダメでしょ。
そりゃあ僕だって割とキッツい所に手を出してるのは分かってるんですけど、いきなり盛り上げろとか無茶ぶりされてひーひー言ってるんでね。流石に準備期間が少なくてできる事が無さすぎるんだよ。
「というかプロでもなんでもないアマチュアの野球選手なんですよ、僕ぁ。誰でもいいんで代わってくれませんか? プロ野球選手の皆様」
「うっし明日の試合も頑張るぞーっと」
「あまちゃん、ここ、流石に表に出されたくないからちょっとオブラートに包める?」
「この人たちさぁ」
誰でも良いから負担を投げたいなぁという視線を向けると、男子代表の皆様はさぁっと潮が引く様に僕の包囲を解除して去って行った。あ、そのアンケートは後で回収しますんで。渡さなかった人は本番なに言うかランダムになるんで嫌なら書いてくださいね?
「みたいなことを各国代表相手にやってきたんですが」
「貴女って選手として呼ばれたんですよね?」
「日本代表のユニフォーム着てるでしょ???」
アシスタントの相方、亀沢さんと雑談を交えながら集められたアンケートを集計し、あーだこーだと大まかな台本をくみ上げる。いきなり実地でやると言っちゃいけない言葉を言うかもしれないからね。事前に打ち合わせは大事。超大事。
僕と亀沢さんの実況解説は非常に好評で、世界中で放映されている男子野球の試合はとっても評判らしい。ただ日本戦以外の女子の試合はやっぱり客足が遠のいちゃってるみたいで、運営さんからはなにか手はないかと言われてるんだよね。分身して他の試合の実況解説もお願いできませんかって素面で言われた時はこいつは僕をなんだと思ってるのか気になったよ。
さて、次の国のアンケートは……ああ、趣味は釣りなんだ。へー、これは話のネタに使えるな。花丸つけとこ。次の人は幼馴染を寝取られた……え、これ言っていいの? 覚悟決まりすぎじゃね? 言うけど。
アンケートの内容を使って大まかな台本を作った後は、オリンピック委員会が手配してくれてる各国のアナウンサーたちに引き継ぐための書類を作成する。書類と言っても台本と合わせてどのタイミングでこのネタを使ったのかとか、そういうのだ。試合の成績でどうしても日が当たる選手と当たらない選手が出てくるからね。解説の際にはその辺を穴埋めして出来るだけチーム全体を持ち上げるように台本を組まないと不和の元になっちゃうんだ。
だから1試合目の台本も作成しておく。何を言ったか、誰を持ち上げたのかを纏めておくと2試合目以降での事故率が下がるからね。といってもこの1試合目の台本は僕が纏めるんじゃない。
『というわけで各試合で僕と亀沢アナがいった事を文字起こししてください。あと決勝リーグまでに手配してるアナウンサーさんたちはこれそうです?』
『そちらは滞りなく進めております。文字起こしですか、かしこまりました』
1試合目の台本は放送された内容の文字起こしだからね。流石にそこまでやってる時間はないから、ここは運営さんの力で人海戦術してもらおう。纏め終わった台本はこっちで編集して引継ぎに使いますんであとで持ってきてくださいね?
『了解しました。あまちゃん老師』
『僕ぁ貴方の半分くらいしか生きてないんですが』
なんか中国式の礼みたいなポーズをしてきたなるほどぉさんに思わずそう応えるも、彼はその、ええと。拱手だっけ? をしたまま僕に頭を下げ続けてる。いや、まぁなんて呼ばれても僕としては良いんだけどね。僕はそもそも参加選手で別になんの権限も持ってないんだからこれ引き継いだらもうお役御免って事で。え、役職? 野球担当臨時エグゼクティブプロデューサーの肩書を用意した? 報酬も?
……大人しく野球だけさせてくれませんか? あ、無理。はい。




