第100話 野球系げいのーじんは辛いね……!
本日ラスト
夏のオリンピックが始まった。
上海という世界でも有数の大都市で行われた今回のオリンピックは、来場者数でもここ2,3回のオリンピックを上回る規模の大盛況で、各国で放映されているオリンピックの中継も過去に類を見ないほどに視聴率を稼いでいる、らしい。そっちの情報はプロデューサー兼カメラマンさんからのまた聞きだからはっきりと断言はできない。
ただ見に来てくれた山田の方のおじいちゃん達曰く、セレブの間でもここ何回かのオリンピックとは断然注目度が違うらしいから、盛り上がってるのは間違いなさそうだけどね。お金を持ってる人は耳が早い人が多いから流行り廃りには大衆よりもずっと敏感だよ。
このオリンピックの盛り上がりには去年からこっちの魔球フィーバーも影響してるだろうから、仕掛け人ポジになってる僕としても鼻高々だよ! いや、僕は真面目に野球を頑張ってるだけでそれを面白がってくれる観客が居てこそなんだけどね。
そんな注目度の中、女子野球日本代表は一番最初の試合に出場。お相手は野球強豪国のカナダ女子代表。決して油断できる相手じゃないけど、前回の世界大会とワールドツアーで2連勝中のため下馬評は日本が有利。
「うおおおおおおおおおお!!!」
そんなカナダ相手でも先発のあすみちゃんは吠える。威力のあるストレートに右に左にズレるムービングファスト、それにタイミングを外すチェンジアップで三振の山を築き、たまに転がってくるボールは日本鉄壁の内野陣(僕含む)であっさり捌いて得点を与えない。
対して日本の打線は絶好調。今まで不動の一番だった僕のかわりに本日センターの長尾かんなちゃんが一番に入り、飛んできた125km/hのストレートを振り下ろしたバットが弾き返す! 高く上がったボールがピッチャーの手元に届いたころには、塁間最速の女は1塁を落としているってスンポーだ。
いや、あれはヤバイね。かんなちゃん、普通にバットコントロールも上手いからゴロくらい簡単に打っちゃうし。あの足は三振に切ってとるくらいしか対処法がないよ。
そして塁が埋まった段階で、本日は二番に入っている僕がエントリー! 珍しくチャンステーマの某宇宙戦争の暗黒お父さんのテーマっぽい音楽と共に僕が打席に入ると、相手ピッチャーの顔が青を通り越して真っ白になっちゃった。敬遠したそうだけど、僕とかんなちゃんの二人はゴロでも1点が入るよ?
まぁ、この祭典で敬遠なんてイモ引いたらどんな事言われるかわかんないし、多分勝負だろうけど。というわけでぐわら!
ガッキィィン!
僕のバットが火を噴いて日本は2点の先制。その後もコンスタントに打線は機能して、試合終了時には9-0の完勝と言っていい内容で試合を終えた。
最後のバッターに僕が魔球ホムンクルスを投げると、球場内が湧き上がるような歓声を上げる。この感じなら上海オリンピックでの野球はいいスタートを切れたんじゃないかな。
『だから、観客が喜んでみてくれる楽しい体験を提供しないといけないんだよ!』
『な、なるほどぉ……!』
『野球はどうしても間延びした雰囲気が出来ちゃうからね。ルールがわかんないと9回裏まで集中して見るのって本当に大変なんだ。だから要所要所で小さなイベントを挟むとかさ。たとえば日本プロ野球みたいに各選手のテーマソングを打席の度に流すとか、各国のチアリーダーをそれぞれ7回に登場させて自軍の応援をさせるとか」
『な、なるほどぉ……!』
僕がアイデアを出すたびに目の前の男性はなるほどぉと口にしてメモを取ってるけど、これどのくらいのアイデアが実行できるのかな。ちょっと疑問だけど野球というスポーツの振興のためにもここは頑張らないと。
目の前のなるほどぉくんは今回のオリンピックで男女含めた野球を任されてる一人で、主に広報を担当しているらしい。そんな彼と僕がなんで話し合っているかというと、野球という競技の人気の落差が凄いことになってるから。人気の落差というより、試合によって観客動員数が段違いになってるみたいなんだよね。
これは他の競技でもあって、例えば世界的に知名度の高い選手が出る種目は会場に入れないほど人気があるのに、同日同じ建物で行われた他の種目はガラッガラとかもあったりする。だけど、同じ競技であるはずの野球はでっかいスタジアムを満員で埋め尽くす試合と半分もいけば御の字の試合とできっちりくっきり分かれちゃってるんだよね。
もっと言えば、日本女子の試合以降はガラッガラになってるんだ。今回のオリンピックでは女子野球が先に始まったんだけど、その観客数がね。オリンピックの運営さんとしては昨今の野球人気を加味してもっとスタジアムに人が集まると思ってたのに全然な試合が多くて、ちょっと焦り気味らしい。
で、慌てた運営さんは野球の興行について専門家の意見を求めて、その足で僕に話を聞きに来たってのが事の顛末である。おかしいよね。僕はいち野球選手であって運営経験なんて一回もないし専門家でもないんだけど。
まぁ、日本のオリンピック委員会経由でも頼まれたし、野球の人気が上がるのは僕にとっても嬉しい事だから知恵を貸すくらいはしてもいい。という事で開催してから行われた数試合を見たんだけど、僕が言いたい事はただ一言。
選手も運営も観客を楽しませるって気持ちが全然ない。これに尽きる。
『注目度は高い。これは間違いないんだけど、初動でミスったね。一番最初に行われた試合はスタジアムが満員近かったのに、その次の試合は5回を過ぎたあたりからどんどん空席が出来てきてる。野球を見に来たお客さんとオリンピックを見に来たお客さんじゃあ野球って競技の楽しみ方が違うんだよ。野球だけを見に来る人なんてオリンピックじゃ少数でしょ? そんな人たちを引き付ける事が出来なかったのが現在の客足離れの原因だね』
『な、なるほどぉ……あの。それって、どうにかなりますか?』
『幾つか案はあるけど、時間がなさ過ぎて太鼓判は押せないかなぁ。こういうのってむしろ事前にアイデア用意して準備するもんだからね?』
もしも僕が事前にこういう相談されてたら、たぶん各国の応援団を組織して応援合戦めいたものをしたりチアガールを読んだり、あとは日本の球団と交渉してビールサーバー背負ったビアガールを連れてきたかなぁ。野球はビールを飲みながらワイワイみんなで応援して楽しむものって概念をぶち込んでたと思う。
あとは各選手のプロフィールや得意な事など情報を集めて、各国での中継時には喋りが上手いアナウンサーとコメディアンを組ませて自国向けの中継を面白おかしくやってもらうとかかな。やっぱり地元人気を高めるためには楽しい、面白いって一度でも思ってもらわないといけないからね。
ただ、それをするには流石に開催してからじゃ遅すぎるし人・物・金の用意が出来ない。だから出来ることはここから先の試合だけになる。
『明日の試合、最初はオランダVSチャイニーズタイペイ……ああ、うん。これは観客動員数が伸びないだろうなぁ。ここ上海だし』
『なんとか、なんとかできませんかね……!?』
『うーん……とりあえず、両国の通訳さんを連れてきて貰えます? 英語と母国語の通訳さんでお願いします』
『あ、え。はい、分かりましたが……』
『あと、明日は間に合わないと思うんですけど明後日の女子の試合のためにそれぞれの国のアナウンサーさんと応援に来てるコメディアンとかそういう人を集めといてください。見本はやるんで。それと、実況席の用意とああ、それと各選手のプロフィールや情報を集めてください! 個人的なものも含めて!』
事前に準備してればもっと効果的な手が打てたんだけど、ないものねだりしてもしょうがない。今ある手札で出来ることをやるのがげいのーじんなのだ。あ、ブライアン伯父さんにお願いして動画配信サービスの力も借りようっと。
金ちゃん監督抜きの北埼玉デッドボール流でどこまでできるか分からないけど、まぁ頑張るしかない。野球系げいのーじんは辛いね……!




