第10話 行くぞぉ! ねじ巻き打法!
本日ラスト
「もちろん我々上層部は貴方のピッチャーとしての実力を認めていますよ。ただ、現実として貴方の魔球を受け止められるキャッチャーが居ません」
「くぅん」
「ほら、例の。若い子で話題のオレタチイケテルって番組であなたの魔球毎週流れてるじゃないですか。あれを見て受け止めたいって思う人は中々いませんよ?」
これはどういうことだ! 契約違反だ! 謝罪と賠償を請求する! と日本の偉い人が何故か弱い言葉で稲葉監督に詰め寄るも、正論オブ正論で叩き潰されてしまった。そりゃあ、ね。北埼玉デッドボールの芸人さんみたいに特殊な訓練を積んで(積んでない)不退転の覚悟を決めてる(決めてません)人たちなら兎も角、一般の中学生がアレを受けるって考えたら確かに難しいよね。
僕の中の良いキャッチャーの基準ってコーちゃんだから、それを念頭に置きすぎてたかも。北埼玉デッドボールの人たちで感覚がマヒしちゃってたかもしれないね。
うん、しょうがない。これは僕の考えが甘かったって事だ。試合中に魔球を投げなければ解決する話だけど、女神様が我慢できるとは到底思えないし。
【呼びました?】
――あ、今回ピッチャーじゃないみたいなんでお帰り下さい
【はーい】
「じゃあ僕、帰りますんで僕の分の枠は諸星くんでも誘ってあげてください。今回はお誘いいただきありがとうございましたー」
「ストップストップ」
これ以上ここに居ても迷惑になるし、僕の分の枠を潰してしまうのももったいない。帰って家の手伝いでもするか、と考えていると、稲葉監督はまだ何か用事があるみたいだ。
「ええと。ピッチャーの方は兎も角外野の方ではぜひ残ってほしいんですが」
「はい。でも僕、外野は腰掛なんで本職の先輩たちのほうが良いですよね?」
「腰掛」
「ピッチャーが本職なんで」
きりっとした表情でそう返答すると、稲葉監督はおろおろとした様子で周囲を見渡し、ちょうど通りかかったあすみちゃんを手招きして呼び寄せる。そのままごにょごにょとあすみちゃんに話しかけると、呆れたような表情であすみちゃんが僕を見た。
「貴女なんちゃって投手の分際でまだそんな事言ってらっしゃるの?」
「なんだよ急にお嬢言葉で。家だとそんなキャラ付けしてないじゃん」
「お黙り! はぁ……稲葉監督。少しこの子と話をしてきますわ」
「うん、よろしくねぇ」
あすみちゃんの言葉に明らかにほっとしたような様子で稲葉監督がそう言った。な、なんだろう。僕、問題児扱いされてない?
ぐいっと首根っこ掴まれてあすみちゃんに引きずられ、僕たちは自販機がたくさん置いてある休憩室にやってきた。あれ、ここの自販機値段が書いてないけど……も、もしかしてこれ全部飲み放題!?
「好きなのをお飲みなさいな」
「やったぁ! ええと、チェ〇オとチ〇リオ、それにチェリ〇と」
「一つだけになさい」
この練習場にいる間はお嬢言葉を貫くのか、耳慣れない言葉遣いで話す幼馴染に違和感を覚えながら、僕はパッと見ておいしそうだと思った〇ェリオを選ぶ。うぅん、やっぱり運動の後の炭酸は美味しいねぇ!
僕がジュースを口にしたのを見届けたあすみちゃんは、同じように自販機の中から紅茶を選んで飲み始める。ある程度喉を潤した後、あすみちゃんは話しかけてきた。
「良い事、あまねさん」
「マジでその喋り方違和感凄いんだけど」
「良い事、あまねさん。貴女がどんだけ頑固で、どんだけピッチャーに拘ってるか知ってるから私はそれを止めろなんて言わないわ」
「無視すんなー」
「御黙り! ごほん。だから、止めはしないけどこの言葉を聞いて、よぉく考えなさいな」
そう言って、あすみちゃんは誰かに聞こえないように周囲を見渡しながら、僕の耳元に口を遠ざけてこう呟いた。
「チームに居れば機会は来るわよ。今年の夏みたいにどうしようもない場面に貴女しかピッチャーが居ないって事は起きえるから。うちの先輩たち、そんなに強くないし」
「さすがにそれは失礼すぎない???」
あすみちゃんの失礼にも程がある発言に、僕は思わず膝を叩いた。チームが弱いからって視点は、確かに抜けてたかもしれない。けど、仮にも長年お世話になってる先輩方にこの物言いをする辺り、やっぱりこの似非お嬢様はやべー奴だね(確信)
「行くぞぉ! ねじ巻き打法! グワラ!」
ガキィン! と音を立ててボールが空を飛んでいく。うむ、今のは良い角度で上がっていったから――ホームランだよねぇ!
結局僕は選抜チームにそのまま参加する事を決めた。あすみちゃんが言ってる事もあながち間違いじゃないくらいにこの年代のうちの地区は投手の駒が足りないんだよね。まだ小学生のあすみちゃんが2番手扱いってだけでもその辺りはお察しだね。その分バッターは結構粒ぞろいなんだけど!
弧を描いてフェンスを飛び越えたボールに、味方ベンチ側から歓声が上がる。その歓声に片手だけで応えてゆっくりとベースラン。あんまり喜ぶと相手の方も嫌な気持ちになるからね。ついついビーンボールなんて手が出ちゃう可能性も考えたら、大げさに喜ぶなんて百害あって一利なし、だ。
僕がホームベースを踏むとスコアボードに1の数字が刻まれる。先頭打者本塁打ってきついんだよねぇ。点数的には最小だけど、相手のピッチャーはいきなり出鼻をくじかれる訳だから。交代で打席に入る先輩に「あの投手、カーブの時だけ肘開いてますよ」と一言アドバイスしてベンチに戻ると、バチンバチンと頭から背中から手荒い歓迎の嵐に包まれるっておい! 流石にお尻は触るなよ!
「……ちょっとこっちこいや」
「テメェ明日の朝刊載ったぞ?」
「紳士協定無視したな?」
「すまん……魅惑の、魅惑の華が俺を……惑わ!」
そんなこんなやってるとまた快音が響く。2番打者の先輩が良いのを打ったみたいだ。
「なぁ、ゴンドー。今のバッティングだけどやたらと体捻じってなかった?」
「ッス! 自分、パワーあんまりないんで体捻じってパワー乗っけてるっス!」
同じ外野を守る先輩に質問されたから、自分の打法についてをそう簡易的に説明する。色々端折ってるけど、まぁ大枠は間違ってない説明だろう。
僕は基本的に筋肉をつけすぎないようにしている。パワーを出すには筋肉をつけるのが一番なんだけどね。この体、すっごいスペックなんだけどこう、筋肉をつけるとドンドン肥大化しちゃうんだよね。小学校低学年の頃、筋トレをやりすぎてポパイみたいな体になった事があったから、それ以降は自分の体のバランスに合わせて筋肉をつけるよう心掛けてる。
じゃあ、どうやってパワーを出すかって話になるんだけど、そこで出てくるのが今回ご紹介の、ねじ巻き打法だ。限界までテイクバックを行い、体をねじらせて自身のパワーに反発力をのっけてフルスイング! これが当たれば飛ぶんだよ。当たれば。僕以外でこれやってまともに打てる人見たことないけど!
この打法、ひたすらタイミングが取りにくいし限界まで捻じるから相手の投球も視にくいと欠点だらけなんだよね。しかし僕は違う!(キリッ)
相手のピッチャーが投げた瞬間の指先まで見える動体視力と、スライムみたいな柔軟性を持つ体なら、この机上の空論みたいな打法は光り輝くんだ。相手がどこに何を投げるのかを目で見て確認し、そこに向かって全身を使ったフルスイング。さながらボクサーが体重をかけてカウンターを打ち込むようにバットを振るうと、僕の非力でもホームランが打てる。
「……絶対にお前以外には出来んわ」
「っス。僕も人にお勧めは絶対にしないです」
雑談してるうちに先輩の打順になったみたいで、先輩はヘルメットをかぶってネクストバッターズサークルへと向かった。スコアボードは……5点差かぁ。今日の先発はあすみちゃんだし、相手の得点も難しいだろう。身長180センチの大女が長い腕を真上から振り下ろしてくるから、はっきり言ってめちゃめちゃ打ちづらいんだよね。多分早めにコールドになりそうだなぁ。
カキィンと音がして、打席に立っていた先輩がグッと手を振り上げる。スコアボードはこれで7点差。ここまで来たらもう僕が投げても良いんじゃないかな。ほら、大人しく外野頑張ってるし。ダメ?
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