第5話/キャスティング
会議室には決定稿「闇の狩人~誠志郎の恋」が置かれ、出席者たちの熱気が漲る。
しかし、キャスティングはまだ未決定。ここからが本番だ。
局長が手を叩き、候補者リストを掲げる。
「誠志郎役の第一候補は、山田剛! 剣術経験も豊富で、迫力のある演技ができる!」
ディレクターAが眉をひそめる。
「確かに迫力はありますけど、町娘との恋愛シーンはちょっと不自然かも……」
新人俳優Bの名前も上がる。
「佐藤亮太! 初々しく、恋愛パートで視聴者を引き込めそうです」
しかし演出部の一人が苦笑する。
「でも、剣士としての迫力は正直厳しいかと……」
さらにベテラン俳優Cも候補に。
「黒川誠! 安定感は抜群だが、少し重厚すぎて恋愛パートが軽く見える可能性がある」
俺――桐谷は額に手を当て、心の中でため息。
――赤ペンを乗り越えたのに、今度は俳優の適性問題か……。
岸本は煙草をくゆらせ、片手を挙げて笑った。
「桐谷君、悩むな。これぞキャスティング会議の醍醐味じゃ! 適性も欠点も、うまく組み合わせれば物語の味になる」
局長が真剣な顔で言う。
「では、昼の町娘とのラブシーンと、夜の剣士シーン、どの俳優が両方を担えるか、意見を出してくれ」
出席者たちは次々と発言する。
「山田剛は夜の剣士向きですが、昼の恋愛は佐藤亮太でカバーしては?」
「いや、黒川誠なら全体の統一感はあるが、若手の初々しさは足りない」
「両方の特性を活かすなら、二役に分ける手も……?」
俺は頭を抱え、岸本に耳打ちする。
「先生……二役案はさすがに無理です! 視聴者が混乱します!」
岸本は煙草をくゆらせ、笑いながら答える。
「ふふ、桐谷君、俳優の個性も赤ペンと同じじゃ。削るより生かすのじゃ」
その瞬間、若手ディレクターが小さな声で言った。
「……えっと、じゃあ山田剛と佐藤亮太のどちらを選ぶか、実際に読み合わせてみるのはどうでしょう?」
会議室は一瞬、静まり返った。
そして局長がにっこり笑う。
「よし、それだ! 読み合わせをすれば、適性がはっきりわかる」
俺は内心、頭を抱えつつも、渋々頷く。
――読み合わせか……赤ペン地獄の次は、俳優地獄か……。
岸本は煙草を吹かし、にやりと笑った。
「桐谷君、笑え。次は俳優との戦いじゃ。楽しむしかないぞ」
会議室の空気は笑いと緊張、期待と不安が入り混じった独特の雰囲気に包まれる。
決定稿は手元にある。だが、キャスティングという新たな試練が、桐谷雅彦――俺を待ち受けていたのだった。
読み合わせの話が出た矢先、コンプライアンス部のひとりが眉をひそめ、慎重な口調で切り出した。
「桐谷さん、少し重大な問題が……候補の山田剛さんと佐藤亮太さんのSNSです」
俺は一瞬、頭が真っ白になる。
――SNS……? まさか、また赤ペン以外の新たな地雷が……!
コンプライアンス部の資料によれば、山田剛は過去に外食先で店員と口論し、その様子が写真付きでSNSに投稿され、炎上騒ぎになったらしい。
さらに佐藤亮太は、過去に「日本人ファースト」と書き込んでいたことが発覚した。
局長は眉をひそめるが、表情はやや混乱気味だ。
「うーむ……この熱意は認めるが、視聴者やスポンサーにどう映るかが問題だな」
岸本春男は煙草をくゆらせ、笑いながらつぶやく。
「桐谷君、また新たな赤ペンじゃ……いや、今度は炎上ペンかのう」
俺は頭を抱える。
――赤ペン地獄、俳優地獄に続き、SNS地獄まで追加か……。
ディレクターの一人が小声で提案する。
「えっと……候補を変える案もありますけど……でも、読み合わせまで進めてしまった手前、どうするか……」
若手プロデューサーが慌てて手を挙げる。
「じゃあ、SNSの問題を踏まえた上で、演技や人物像でカバーする方法は……?」
局長は一瞬黙り込み、机を叩く。
「うむ……問題はあるが、演技力と物語への熱意を最優先にすべきだ。もちろん、事前に注意喚起はするがな!」
俺は苦笑しながらも、岸本の方を見る。
「先生……この問題、どう収めるんですか?」
岸本は煙草の煙をくゆらせ、肩をすくめる。
「桐谷君、これもコメディじゃ。炎上も含めて物語を味わうのじゃ……いや、冗談じゃが、うまく対処すれば問題は問題でなくなる」
会議室の空気は笑いと焦燥が入り混じる。
出席者たちは眉をひそめつつも、局長の判断に従い、演技と人格の両面で補完できるかどうかを議論し始める。
俺は心の中で小さくつぶやく。
――赤ペン、俳優、そしてSNS……もう何が来ても驚かない、と思った矢先に、やっぱり驚くんだな……。
岸本はニヤリと笑い、煙草を軽く振る。
「桐谷君、楽しめ……ここからが本当の戦いじゃ。俳優と原稿、赤ペンも炎上も、全部まとめて物語の味になるのじゃ」
俺は深く息を吸い込み、決定稿「闇の狩人~誠志郎の恋」を握りしめた。
――明日のキャスティング会議、俳優たちのSNS地雷をどう処理するか、全く読めない。
笑いと恐怖が入り混じる戦場は、まだまだ続くのだった。
机の上には原稿、赤ペン跡、キャスティング候補リスト、そしてSNS問題の資料が乱雑に積まれている。
議論はすでにSNS炎上問題で混乱していた。
しかしその空気を裂くように、局長が重々しい声で告げた。
「桐谷君、町娘役は山上ローラに決めろ」
俺の胃は一瞬で爆発しそうになった。
――時代劇、しかも町娘役にクウォーター女優……。
しかも上層部の顔を見ながら反論する勇気はゼロに等しい。
ディレクターAは眉をひそめ、控えめに呟いた。
「え……町娘に山上ローラですか……時代劇感が、かなり……」
新人プロデューサーBは机の角に頭をぶつけそうな勢いで顔をしかめる。
「町娘が現代風に寄りすぎませんか……」
会議室の空気が、一気にざわつく。
出席者たちは互いに目を合わせ、誰も反論できないまま、困惑の声が漏れる。
俺は頭を抱え、岸本春男を見る。
彼は煙草をくゆらせ、肩をすくめて笑っていた。
「桐谷君、ここは赤ペンを使うタイミングじゃ……いや、今度は胃腸赤ペンじゃな」
俺は苦笑しつつも、心の中で叫ぶ。
――町娘役でここまで胃が痛くなるとは……上層部、マジで勘弁してください……!
局長は真剣な顔で机を叩く。
「桐谷君、視聴率と上層部の期待を満たすのだ! このキャスティングは譲れん!」
ディレクターたちは小声で議論を開始する。
「でも、物語の世界観的に農民(百姓ではなく農民)感を出す必要が……」
「いや、ローラの知名度も捨てがたい。視聴者ウケは確実に狙える」
「ラブシーンとの化学反応はどうするんだ……」
俺の頭の中は完全にカオス状態だ。
赤ペン地獄、SNS地雷、俳優の適性問題に続き、上層部圧力まで加わるとは……。
岸本は煙草を吹かせながら、ニヤリと笑う。
「桐谷君、笑え……ここからが本当の戦いじゃ。俳優と原稿、赤ペンも炎上も、全てまとめて物語の味になるのじゃ」
俺は苦笑しつつ、決定稿を握りしめる。
しかし、会議はますますヒートアップ。
若手ディレクターが小声で提案した。
「もしかして、町娘役をローラにした場合、昼のラブシーンはどう調整すれば……?」
演出部の一人が手を挙げる。
「昼の演技を軽めに、夜の剣士シーンで重厚感を出すのはどうでしょう」
局長は眉をひそめるも、意気込みは変わらない。
「それでいい。物語の世界観を守りつつ、視聴率と注目度を両立するのだ!」
俺は深く息を吸う。
――赤ペン、俳優、SNS、上層部……俺の人生の四重苦か……。
会議室のざわめきに混じって、岸本が煙草を振りながら、軽く笑う。
「桐谷君、笑え。恐れるな。コメディの真骨頂は、混乱と苦悩の中にあるのじゃ」
さらに、候補俳優たちの顔も次々に会議室に現れ、状況はよりカオスになる。
新人俳優Aは原稿を握り、目を白黒させながら
「え……町娘役がローラさん……ですか? 夜の剣士シーンとのバランスは……?」
ベテラン俳優Bは眉をひそめつつ、
「時代劇にクウォーター……町娘の純粋さはどう表現すればいいんだ……」
俺の頭はもう沸騰寸前で、胃の痛みも限界に達している。
局長は熱血に満ちた顔で桐谷を見つめ、
「桐谷、ここからがプロデューサーの腕の見せ所だぞ!」
岸本は煙草をくゆらせ、にやりと笑う。
「桐谷君、楽しめ……ここからが本当の赤ペン戦争の第二章じゃ。胃も心も鍛えられるぞ」
俺は苦笑しつつ、決定稿「闇の狩人~誠志郎の恋」を握りしめる。
――この混乱の中で、果たして物語は無事に放送まで辿り着けるのか。
会議室は笑いと焦燥、怒声とため息、そして笑い声が入り混じる戦場と化していた。
桐谷雅彦――俺の胃は爆発寸前、心は戦場の兵士のように張り裂けそうだった。




