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テレビで時代劇を作る事のハードルが高すぎて俺はどうしたらいいのだろうか?  作者: ふゆはる


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第4話/決定稿

 工房で徹夜の修正を終え、俺は融合案を抱えて再び局へと向かった。

 岸本春男も煙草をくゆらせながら、悠然とついてくる。

「桐谷君、さあ、最終決戦じゃな。赤ペンの鬼どもに、我らの智慧を見せる時が来た」


 廊下を歩くたび、書類の束がずしりと重く、俺の肩にのしかかる。

 ――まるで原稿の重みが俺の胸を圧迫してくる。


 会議室の扉を押すと、コンプライアンス部の面々がすでに整列していた。

 赤ペンが机に並ぶ様子は、もはや戦場の剣士たちのようだ。


 局長は椅子に深く座り、俺たちを見上げる。

「桐谷、岸本さん、どれほど苦労したかはわかる。さあ、見せてもらおう!」

 その目には熱量がみなぎり、俺は思わず息を呑む。


 まず、赤ペン部隊が原稿に目を通す。

 一人目が冷たい声で言った。

「……ふむ、タイトルはOK、‘必殺’の文字は避けていますね」

 二人目が続ける。

「町娘の年齢設定は成年に修正済み」

 三人目も目を細める。

「悪役のバックボーンも簡潔に描写されていますね」


 俺は心の中で小さくガッツポーズ。

 ――やっと、赤ペンの嵐をかわしたか……?


 しかし、岸本はペンを指先で軽く転がし、微笑む。

「ふふふ、まだ油断はできぬぞ。次は局長の反応という名の雷が待っておる」


 局長が原稿に目を通し、眉を上げた。

「桐谷、これは……面白いじゃないか! 昼の町娘とのやり取りと、夜の剣士の二面性がうまく融合している」

 俺は息を飲む。熱い……! 局長の目が輝いている。


 しかし、コンプライアンス部の目は冷たい。

 一人が小さな声でつぶやく。

「しかし、刀の振り方はまだ少し過激です」

 別の鬼が指摘。

「一部のセリフがまだ暴力的に見えます」


 俺は頭を抱える。

 ――ああ、まだ完全には解放されない。赤ペン地獄は延長戦だ。


 岸本はニヤリと笑い、煙草をくゆらせる。

「ふむ……桐谷君、この局長の熱を味方にせねばならぬ」


 俺は深呼吸し、局長に向かって言った。

「局長、ここで昼の町娘と夜の剣士を対比させることで、視聴者に主人公の葛藤を強く印象付けられます! さらに悪役のバックボーンも加えることで、物語に深みが出ます!」


 局長は椅子から身を乗り出す。

「うむ、なるほど……桐谷、よく考えたな!」

 俺の胸は熱くなる。ついに、局長の支持を得られたのだ。


 しかし、コンプライアンス部はまだ冷静。

 一人が赤ペンを軽く揺らす。

「ただ、夜の剣戟シーンはもう少し安全に表現してください」

 別の鬼も頷く。

「町娘の行動も、公共放送として問題ない形に整えてください」


 俺は再び深呼吸。

 ――よし、これは最終調整だ。赤ペンをかわしつつ、物語を生かす。


 岸本はペンを転がし、ニヤリと笑った。

「桐谷君、我らは赤ペンの嵐をくぐり抜け、局長の心をつかんだのじゃ。最後の一押しをすれば、放送可能じゃ」


 俺は拳を握り、心の中でつぶやいた。

――やっと、ここまで来た。テレビ業界の時代劇制作は、熱と涙、恋と剣戟、そして赤ペンの嵐との戦いだ。だが、俺たちは勝機を見つけた。


 会議室の蛍光灯がちらつき、煙草の煙がゆらめく中、俺は原稿を机に置き、最後の調整に取り掛かった。

 赤ペン地獄の戦いはまだ完全には終わらない。

 しかし、笑いと戦略で、少しずつ勝利への道筋が見えてきたのだった。


 会議室の蛍光灯がチカチカと明滅し、緊張感を漂わせる中、融合案を抱えた俺と岸本春男は、再び机の前に立った。

 赤ペン修正を乗り越え、ついに決定稿として提出された原稿――その紙一枚に、俺たちの全ての苦労が詰まっている。


 局長は椅子から身を乗り出し、熱を帯びた声で語り始めた。

「桐谷、岸本さん、この原稿……見た瞬間にわかったぞ! 今までの時代劇にはなかった熱量がここにある!」


 彼の指が原稿のページを指し示すたび、言葉に力が宿る。

「昼の町娘との交流で主人公の優しさが描かれ、夜の剣士としての凛々しさと対比されている! そして悪役のバックボーンも巧みに盛り込まれている。視聴者に深い共感と感情の揺さぶりを与えられるぞ!」


 出席者たちは局長の熱に引き込まれるように前のめりになり、メモを取り始める。

 若手ディレクターは小声で呟いた。

「……よし、これはやれるかもしれない……!」

 その横で、演出部の一人も頷きながら机を叩く。

「こ、これは面白くなりそうです!」


 しかし、俺――桐谷の胸中は冷や汗と不安でいっぱいだった。

 決定稿として原稿は承認されたが、内心では無数の疑念が渦巻く。

 赤ペンで削られた箇所が物語の熱を削いでしまっていないか。

 視聴者に届く物語として成立するのか。

 夜の剣戟や恋愛描写が、本当に安全に表現されているのか。


 机の上に置かれた決定稿を見つめ、俺は小さくため息をつく。

 ――喜ぶべきなのか、恐れるべきなのか……。

 赤ペン部隊の鬼たちが背後に再び現れ、原稿を引き裂く姿が目に浮かぶ。


 一方で岸本春男は煙草の煙をくゆらせ、悠然と微笑んでいる。

「桐谷君、心配せぬことじゃ。赤ペンの嵐を耐え抜いた我らの融合案は、ここからさらに輝くのじゃ」

 俺は苦笑するしかなかった。

 ――そう、先生はいつも余裕だ。赤ペンの嵐を笑い飛ばす余裕を持っている。


 局長はさらに熱を帯び、立ち上がって声を張り上げる。

「さあ、皆の者! この原稿をもとに放送に向けて制作を進めるのだ! 桐谷、岸本さん、この熱をそのまま現場に届けろ!」


 出席者たちは一斉に頷き、机を叩き、やる気に満ちた声を上げる。

 会議室に活気が戻り、士気は頂点に達したように見えた。

 だが、俺だけは違う。

 心の中では、不安の嵐が吹き荒れている。

 熱量に飲まれる自分、赤ペンで消えた部分の回復、放送後の視聴者の反応……考えれば考えるほど頭が痛くなる。


 岸本は煙草を吹かしながら、俺の肩を軽く叩いた。

「桐谷君、恐れるな。時代劇制作とは、熱と涙、恋と剣戟、そして赤ペンとの戦い。すべてを抱え込んで前に進むしかないのじゃ」


 俺は赤ペンだらけの原稿を握りしめ、うなずく。

 ――そうだ、前に進むしかない。放送日までの地獄はまだ続くが、決定稿は確かにここにあるのだ。


 局長の目が俺を見据える。

「さあ、桐谷! ここからが本番だ! 熱を、魂を、現場に注ぎ込むのだ!」


 出席者たちも一斉に身を乗り出し、やる気に満ちている。

 机の上の決定稿は、赤ペンの跡が痛々しく残るものの、桐谷にとっては、まさに希望と恐怖が混じった戦場の旗のように見えた。


 俺は深く息を吸い込み、心の中でつぶやく。

――決定稿か……だが、この先はもっと過酷な戦いになる。赤ペンの嵐はまだ完全には去っていない。


 それでも、会議室には熱と笑いと、少しの不安が混じった独特の空気が漂っていた。

 桐谷雅彦――俺だけが、内心不安に揺れながらも、決定稿の原稿を握りしめ、次の戦いに向けて覚悟を固めるのだった。

 決定稿が承認され、会議室から戻った俺は、肩の荷が少し軽くなった気がした……のも束の間。

 机の上には赤ペン跡だらけの原稿、脚本家岸本春男のメモ、そして膨大な修正指示のコピーが山のように積まれている。


 「ふぅ……これを片付けて、明日のキャスティング会議に臨むのか……」

 俺は原稿を抱え、ため息をつく。だがその胸中には、不安と笑いが入り混じる奇妙な感覚が渦巻いていた。


 岸本は煙草をふかしながら、机の上の資料を整理している。

「桐谷君、明日は大事な日じゃ。キャスティング次第で、赤ペンの嵐も舞台上でのドタバタも変わるぞ」

 俺は苦笑しながら肩をすくめる。

「先生……赤ペンの嵐だけでも十分なのに、さらに俳優たちとの戦いも加わるんですね」


 机の上には、仮キャスト候補リストがずらりと並んでいる。

 ――有名俳優もいれば、まだ駆け出しの若手もいる。

 そして、岸本はリストを眺めながら、煙草の煙で小さく笑う。

「ふむ……こいつらをどう使うかで物語の命運は変わる。まるで将棋じゃな」


 俺は原稿を眺め、頭を抱える。

 昼の町娘役にふさわしいのは誰か、夜の剣士の迫力を出せる俳優は誰か、悪役の心情を視聴者に伝えられる人物は……。

 考えれば考えるほど、頭の中は混乱の極みだった。


 岸本は俺の肩を叩き、茶目っ気たっぷりに言った。

「桐谷君、悩むな。俳優との戦いも楽しむべきじゃ。演技の小さなミスも、赤ペンで補えばよい」

 俺は苦笑しながらも、心の中で思う。

――いやいや、俺の人生はもう赤ペンと俳優のツッコミで埋め尽くされてる……!


 午後、俺は局内を歩きながら、次々と頭の中でキャスティングシミュレーションを繰り返す。

 「この俳優なら昼の優しさを表現できる……いや、夜の剣士は迫力不足か……」

 「この新人なら悪役の心理描写はうまいが、町娘との絡みは……」


 背後から岸本の声が響く。

「桐谷君、そんなに頭を悩ますな。楽しむのじゃ、楽しむのが一番じゃ!」


 廊下で笑いながら煙草をふかす岸本の姿を見て、俺はため息混じりに呟いた。

――楽しむって……俺の心臓はもう悲鳴を上げてるぞ……。


 夜、工房に戻ると、原稿とキャスティングリストを前に再び作戦会議が始まる。

 岸本は煙草の煙で紙をくゆらせ、俺は赤ペン修正箇所を最終確認する。


 俺は小声でつぶやく。

「明日……キャスティング会議で、全員が納得してくれるんだろうか……」

 岸本は笑いながら肩を叩く。

「桐谷君、心配するな。赤ペンも俳優も、笑いと戦略で乗り切るのじゃ。明日は嵐の前の静けさ……いや、嵐そのものかもしれんがな」


 俺は苦笑しつつ、決定稿を抱え、キャスティング会議前日の夜を迎えた。

 机の上の原稿は赤ペンだらけだが、それでも物語は生きている。

 明日、全員の前でどんなドタバタが起こるのか――不安しかない。


 だが、桐谷雅彦――俺はその不安を抱えつつも、赤ペン地獄を生き抜いた先に、きっと笑いも涙もあると信じ、眠れぬ夜を過ごすのだった。


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