第13話/戦場は続くよどこまでも
第3回放送を無事に終えた翌朝、テレビ局の会議室には久しぶりに明るい笑顔が溢れていた。視聴率は前回を上回り、SNSの反応も概ね肯定的。悪役俳優の人気は依然として高騰中だが、誠志郎役の山田剛も「真面目で筋を通す役者」として評価を回復し、町娘ローラは「自由奔放すぎて逆に面白い」と新たなバラエティ需要を開拓した。
桐谷雅彦は、胃の鈍痛に顔を歪めながらも、スタッフたちの笑顔を見て心の底から安堵した。――ここまで来るのに、どれだけ胃薬を飲んだだろうか……いや、薬代で赤字になるんじゃないか……
会議では、局長が熱っぽく語る。
「視聴者に刺さったのは“伝統”と“革新”の融合だ! 悪役の深み、誠志郎の葛藤、そしてローラの自由さ。これこそ、令和の時代劇だ!」
スタッフたちは拍手喝采。桐谷も一応拍手はするが、内心では――いやいや、最初からそんな狙いじゃなかっただろう……偶然が偶然を呼んで、ここまで来ただけだ……と突っ込みを入れる。
鏑木は、世間から「カリスマ悪役」と呼ばれるようになり、CMや雑誌取材のオファーが殺到。山田剛は一時期の苛立ちを乗り越え、悪役との“ダブル主役構造”を受け入れ、演技に磨きをかける。ローラはローラで、相変わらず自由奔放だが、その破天荒ぶりが番組を支える一つの柱となった。
桐谷は局の廊下で、主治医にバッタリ出くわす。例の時代劇マニアの医師だ。
「いやぁ桐谷さん! 昨夜の放送、最高でしたよ! あの悪役の台詞、痺れましたねぇ!」
「……先生、胃薬の追加処方をお願いします」
俺は心底疲れた顔でそう答える。
放送は回を重ねるごとに安定し、視聴率は上昇傾向を見せた。SNSでは「現代に蘇った時代劇」として一種のカルチャー現象になり、学者や評論家まで議論を始めるほど。
だが、桐谷の戦場は終わらない。毎回の会議では新たな課題が山積みになり、ローラの突発的な行動、山田の真面目すぎる要求、鏑木の人気に伴うスケジュール問題……その全てを調整するのは桐谷の役目だ。
彼は会議室の隅で深いため息をつき、独白する。
――結局、俺の人生は戦場だ……コンプライアンスの鬼、局長の熱血、キャストの暴走、SNSの炎上……胃潰瘍が治る日は来るのか……
だが、ふと視線を上げると、スタッフやキャストの笑顔が目に入る。皆が番組を通じて少しずつ成長し、楽しみ、そして時代劇という文化を再び盛り上げている。
桐谷は小さく笑い、心の中で呟いた。
――まぁ、これがテレビ業界ってやつだな。混乱も、炎上も、全部含めてエンターテインメント。俺の胃は死にそうだが……今日もまた、戦場へ向かおう。
こうして『闇の狩人~誠志郎の恋』は、数々の混乱と炎上を乗り越え、新たな時代劇として確固たる地位を築いていった。桐谷の胃は今後も試練に晒され続けるだろうが、彼の奮闘は業界の裏側で確かに輝きを放っていた。
――戦場に、終わりはない。
(了)
昨今のテレビ業界で有りそうな事を文章にしたコメディ、いかがだったでしょうか?
実際、制作費の問題で時代劇は減っており、今やNHKぐらいでしか観ることができません。
その背景にあるのは昔と違うコンプライアンスという存在。
アニメでさえ「必殺技」という表現は出来なくなり「フェイバリット技」と言う風になっています。
悪役でさえ、昔の単純な勧善懲悪物が出来なくて、驚くことに「桃太郎」の鬼退治も話し合いで解決するという風になっていると聞きます。
コレでは地上波で時代劇作ってとは誰も言えませんね...
そんな一時代劇ファンとしてもう一度時代劇の可能性に期待したいと思います。