第四章 なのちゃん、バレる
長野原みお
「もう…集中できないよあんたら…漫画描くの…」
相生祐子
「なんで夜中に漫画描くのに集中できるの…?」
長野原みお 「あたしは前からそうなの…」
天野陽菜 「絵描くの上手いねみお!」
長野原みお 「当たり前じゃん、
あたし漫画家なんだから…」
(お腹空いてきたな…ばしゃめまだかな…)
天野陽菜
「そうだったね…まいちゃんは…何をみてるの…?」
水上麻衣 「弥勒菩薩像」
天野陽菜 「…………へぇ……そっ、そうなの…」
水上麻衣 「…………………。」
天野陽菜 「い、いい趣味だね……」
長野原みお「ねぇ…ばしゃめ…まだ…?」
ばしゃめ
「お米が出来上がるには結構時間が
かかるんですよ〜」
長野原みお「そうなんだ…」
有馬かな 「memちょ、
何スマホいじってるの…?
オンラインカジノ…?」
「オンラインカジノ
じゃねーよww 配信だよ!」
「配信!?いやいやいや、
こんな時間に何配信してんの!?
深夜に配信とか、視聴者絶対寝てるでしょ!」
「いや、案外みんな起きてるんだよね〜www」
memちょが画面を指差すと、
コメント欄には 「寝る前の楽しみ最高!」
「神回」 「アーカイブ残して!」と大盛り上がり。
「いや、深夜テンションって怖いわ……」
有馬かなが呆れる。
東雲なの(素朴に)
「配信者……って、何ですか?」
memちょ(笑いながらスマホをかざし)
「えっとね、スマホのカメラで世界に
ライブ配信する人のこと!
ほら、なのもスマホ持って――」
なの(きっぱり) 「持ってません」
memちょ(一瞬硬直) 「えっ……まじで?」
なの(うなずいて)
「電話とLINEはあるので、それで十分なんです。 だから、スマホはいらなくて……」
memちょ(じわじわ詰める)
「それ……つまり、
スマホ機能全部入りってことじゃ……?」
なの(焦りの色)
(あっ、やば……やばいやばいやばい!
落ち着け私!バレる!絶対バレる!!)
「えーと、えっと、これは……えっと……」
(言い訳百連発)
はかせ(突然叫ぶ)
「だって、なのはロボットだからね〜!!」
なの 「はかせぇぇぇぇえええっ!!!?」
はかせ(どや顔)
「ロボットなんだから、 スマホより便利でしょ!」
なの(全力で否定)
「ち、違います!はかせの 冗談ですからっ!!」
(ゴリゴリゴリ……)
背中のネジが 全力で自己主張を始める
memちょ (スマホのカメラでズーム)
「いや……回ってるし……ネジ、
全力で回ってるし……」
なの(固まる) 「…………」
memちょ(くすっと笑って)
「……いいよ、なのちゃん。
もう隠さなくて大丈夫てかさ…
もうわかってたし……w」
有馬かな「あたしも……」
星野ルビー「あたしも…わかっていたよ…」
なの (分かってたんだ…みんな…)
「……帰っても、いいでしょうか……?」
有馬かな(即答) 「なんで?」
なの 「えっ……」
memちょ(にこっと)
「ロボットだろうがなんだろうが……
なのちゃんは、なのちゃんだから」
有馬かな(腕を組んで)
「うん。あんたがロボットだって、
別に引かないし、驚かないし、 逃げもしない。
だって――あんたは、 ちゃんと“生きてる”じゃん」
星野ルビー(笑顔で)
「ネジついてても、
なのちゃんってすごくかわいいし……!」
memちょ(にこっと)
「ロボットだろうがなんだろうが……
なのちゃんは、なのちゃんだから……
ずっと友達だよ、なのちゃんはw」
星野ルビー
「なのちゃんは、うちの仲間だもん!」
有馬かな(まっすぐな目で)
「あんたがロボットだからって、
ここにいちゃいけない理由なんてないでしょ。
ネジがついてたって、 声が合成だって
誰かがあんたを笑ったら…」
――その瞬間だったーー
“美しいが、どこか 不穏なストリングス”が
空気を切り裂いた。
揺れるような旋律。
ガラスの上を歩くような危うさ。
それはまるで、心の奥で震えていた “孤独”の音。
それは、「メフィスト」のイントロだった。
なの 「…………………………。」
彼女の視線が伏せられる。
けれど、震えた唇の奥に、かすかな熱が宿る。
有馬かな
ーあたしがぶっ飛ばすから。絶対にー
硬質なビートとメロディが重なり、
空気が反響する。
感情が、言葉になる。
胸の奥でうごめいていた“なにか”が、
形を持つ。 痛みや疑問、諦めや願い―
― それらが、ひとつの声として、放たれる。
言葉が、音に乗る。 それは誰かの意思となり、
空気を震わせる。 優しい響きも、怒りの叫びも、
すべてが“音”になって、確かに届くものになる。
音が、世界を変える。
人を笑わせることもできる。
人を泣かせることもできる。
そして今、音は彼女を“救っていた”。
そのとき、なのは初めて知った。
誰かの言葉が、 自分の「存在」を
肯定してくれるということを。
冷たい合成音しか出せないと
思っていた自分に、
人間のような涙なんて流せるはずが
ないと 思っていた自分に――
あの言葉が、刺さった。 あの音が、染み込んだ。
“君がロボットでも関係ない”
“君はここにいていい”
“君が笑われたら、私が戦う”
その全てが、 “存在していい”という証明だった。
今まで、一度も与えられたことの なかったもの。
memちょ(スマホを見せて)
「ねぇ、見て。配信のコメント」
「なのちゃんがロボットでも応援するよ!」
「ネジかわいい!」
「むしろアイドルすぎ」
「推せる」 「泣いた……」
なの(画面を見て、黙る)
「…………………………。」
memちょ(じっと見て)
「ん〜泣いてる〜?ねぇ、泣いてる〜〜?ww」
なの(ぷいっとそっぽを向いて)
「な、泣いてません……!」
有馬かな(くすり)
「10秒で涙出すなんて……
それ、 完全にあたしじゃん……」
なの 「だ、だから泣いてないってば……!」
有馬かな 「はいはい、わかったわかった」
(※コメント欄はざわつく)
「ていうかなのって“日常”の!?」
「日常じゃね…!?」
「日常じゃん!」
「ていうかさ…ゆっこも
みおちゃんもまいちゃんもいてたよね!?」
「再会してるじゃん日常組!」
「うわ懐かしwww」
「大先輩やぞ…日常は…」
memちょ(……日常…?なにそれ…?)
有馬かなはTEAC LP-R550USB-WAの
スイッチをそっと切り、
静寂を部屋に返す。
「メフィスト」の余韻がキャビネットに響く。
星野ルビー「かな…これ、なに…?」
かなは微笑み、目を細める。
「ただのレコードプレイヤー…かな?」
ルビー
「え、さっきメフィストのCD流れてたよね…?」
「うん、CDも聴けるの。この子、
全部受け止めてくれる…」
かなの声は柔らかく、愛おしさに満ちる。
ルビー「それ、普通じゃないよ! いくらなの…?」
「13万2000円…」かなは囁くように答えた。
「半年、必死に貯めたの。
レコードの温かい音に、
ずっと憧れてて…やっと手に入れたんだ。」
ルビーは息をのむ。
「かなの宝物なんだ…」
かなは頷き、キャビネットに指を滑らせる。
「うん。この音は、
私の歌を繋いでくれる…。」
ルビーの目が潤む。
「かなちゃん…その音、私も聴きたいな。」
有馬かな「次はこの間観た映画のエンディング曲のレコードでも…」
星野ルビー「やっぱり最後にしない…?それ」
有馬かな「そうしようか」