第二章― にぎやかなへやー
――わらいごえが、ひびいていたー
「わたしのへや、なのに……」
こえが、たくさんあった。 まるで、
まどのそとが なだれこんできたみたいに。
ぱたぱたと、あしおと。 ころころと、
こえがまわる。 ひかりがゆれる。くうきがはねる。
でも――おなじだけ、 わたしのなかに、
ひびがはしる。
「しおちゃん、かわいいね!」
ちがう。これは、 さとちゃんのこえじゃない。
「そのわんぴーす、 すっごくにあってるよ!」
ちがう。これは、 わたしのためのばしょ
じゃなかったの?
「しおちゃんも、おいでよ!」 てがのびる。
でも、こころが、のびない。
(……ここは、わたしと、
さとちゃんだけのへやだった)
いすがふえた。 くつがふえた。
わらってるひと、まんがをかいてるひと
せなかにねじをつけてるひと
そのぶん―― さとちゃんのめが、
わたしから、すこしだけ、それた。
それが、 こわかった。
それが、 いたかった。
「しおちゃん?」 よばれた。 でも、
そのこえは、さとちゃんじゃない
ほかのひととおなじこえがした。
こえがまざる。 においがまざる。
わたしのせかいが、ゆらぐ。
かんぜんなしずけさは、もう、もどってこない
あのひ、どあのすきまから、
せかいが、はいってきた
それを、ゆるしたのは――
わたし、だったのかもしれない
「……なんでも、ないよ」
わたしは、またわらった。
にぎやかさのなかで。 やさしさのなかで。
しずけさを、さがしながら。
……しずけさが、ひとつ、もどってきた気がした。
どこかのでんきがきえたみたいに、
にぎやかだったおとが、すこしずつ、
とおざかっていく。
わたしは、そっと、ベッドのはしにすわった。
まどのカーテンが、ふわり、とゆれて、
そのすきまから――
……ひかりが、ひとつ、さしこんだ。
「しおちゃん」
――そのこえが、わたしを、よんだ。
わたしは、ふりかえる。
そこにいたのは――
「さと……ちゃん?」
やさしいかお。やさしいこえ。 でも、
すこし、かなしかった。
さとちゃんは、ちかづいてくる。
わたしのてに、そっとふれる。
あたたかかった。ゆめみたいに。
「しおちゃん、なかないで」
……ないてることに、きづかなかった。
だけど、ぬれたまつげを、そっとふかれる。
「だいじょうぶだよ。 ここは、
ふたりのへやだよ。 だれにも、こわせないよ」
――そう、たしかに、そうだった。
わたしたちだけのじかん。
わたしたちだけのくうき。
「さとちゃん…… わたし、ね……
こわかったの…… このへやが、
こわれていくのが…… だれかに、
さとちゃんのめをとられるのが……」
「うん、わかってる。 でもね……わたしは、
しおちゃんしか、みてないよ」
そのこえは、まぼろしだったかもしれない。
ゆめのなかのことだったかもしれない。
だけど――
あたたかさは、たしかに、のこっていた。
わたしは、そっと、めをとじた。
――ここは、わたしたちのへや。
もう、だれにも、こわせない。
カーテンが、やさしくゆれる。
あさがくる。 でも、ふたりのへやは―
―まだ、ここにあった。