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ep9 勝利の鍵

 昼食を終えて時刻は午後。俺たちは再び整備ドックに集合させられていた。


 目の前に広がるのは、それぞれのカラーに塗装された機甲女神たち。クレーンが軋む音を立て、オイルと金属の匂いが充満するこの空間には、冷たい機械の気配と人の息づかいが交錯していた。

 午前中の格闘訓練とは異なり、午後は神威の制御に焦点を当てた訓練が行われるらしい。


「午後は各人の神威制御向上訓練と共鳴神威の実演を実施する」


 そう告げた鏑木さんは相変わらずの強面で端末を操作しつつ、作業員たちに何か指示を飛ばしている。

 こうして女神が立ち並ぶ様を目にするのは本日2回目だけど、何度見ても圧巻と言うか何というか、現実離れした光景に圧倒されてしまう。


 そうして鏑木さんの指示を待つ間女神を一体一体観察していると、メタリックレッドの機体の右腕が欠損していることに気が付いた。


「あれ? ヤマトの右腕まだ直してないんですか?」


 俺と同じ疑問を感じたのか、神谷先輩がそう声をあげた。

 唯一欠損のあるその機体は午前の訓練で俺が破壊してしまったヤマトだ。肘から先が完全に失われたまま、骨組みが剥き出しになっている。


「神楽坂くんの神威は一番視覚的に効果が分かりやすいからだ。実演としてこれ以上はないだろう」

「そういうことです! 僕はもう乗っちゃって大丈夫ですか?」

「ああ。リンクでき次第神威を発動してくれ」


 搭乗リフトに乗った神楽坂が笑顔でこちらに手を振りながら上昇していき、ヤマトのコックピットに乗り込んだ。

 そうして待つこと数分、神経接続リンクを終えたヤマトのメインカメラが目覚めを示すように光を灯す。


『見てて下さい桜台くん!』


 拡声器に乗せられた神楽坂の声が響くのと同時に、ヤマトが突如真っ赤な炎に包まれる。

 普通なら何か事故でも起きて発火してしまったのかと思うところだが、不思議と俺はその炎に危険性を感じなかった。

 それどころか、神秘的で美しいとすら感じていた。


 そしてその直感は正しいのだということがすぐに証明される。


『これが僕の神威、『不滅の太陽イモータル・サン』です!』


 何かが焼け焦げるような嫌な匂いが立ち込めることもなく、それでいて暖かな心地よさを振りまきながら、全身に生き渡った炎はやがて欠損した右腕部分で激しく燃え盛り始め、徐々に不安定な揺らめきは安定した物体のようにその形を変えていく。


「腕が、再生した……?」


 先ほどまで痛々しい有様だったヤマトの右腕が、欠損などまるでなかったかのように綺麗に元に戻っていた。


『見た目だけじゃないですよ! ほら!』


 全身を炎に包まれたまま、ヤマトが再生した右腕を上下に上げ下げしたり掌をグーパーと開く。

 装甲だけではなく内部回路まで含めて完全に元通りに直っているのだとわかる。


「神楽坂くんの神威は『太陽』。通常時は周囲の人間に安らぎと癒しを与える力だが、女神と共鳴することで強力な再生能力を持つようになる。神楽坂くん自身はもちろん、搭乗している女神もだ。あの不滅の炎が燃えている間、彼は何度でも立ち上がる」

「これが神威……」


 あの炎は自然発火したものではなく、神威によって呼び出された神の炎というわけか。

 こんな能力を持ってるなら右腕が壊れたくらいで一々騒いだりしないのも納得だ。


『効果は僕が乗ってる女神限定なので戦闘中に味方を直したりは出来ないんですけど、乗り換えて共鳴すれば他の女神も直せますよ! ヤマトよりはかなり時間がかかりますけどね!』

「今後の訓練では出力を更に抑える。今回のようなことは早々起きないと想定しているが、万が一壊してしまっても問題はない。恐れずに励め」

「はい!」


 また訓練相手の女神を壊してしまうかもしれないという不安はたしかにあった。鏑木さんはそのことを理解して、心置きなく全力で訓練に取り組めと言ってくれているのだろう。


「良い返事だ。では次に、桜台くんの神威を特定するための最終確認を行う。ムメイに乗り込んでくれ」

「了解です!」


 訓練の時に神々廻が言っていた、俺の神威に見当がついたという件のことだろう。

 神楽坂の不滅の太陽イモータル・サンを見た後だと、自分にあんな派手な神威があるという自覚は全くないんだけど、神々廻の奴はどうやって俺の神威に見当をつけたのだろうか。


 疑問を覚えつつも、俺は言われた通りムメイに乗り込んで神経接続リンクを完了する。


『桜台くん、神威を使う感覚は掴めているか? 午前中の訓練時はどうだった?』

「全然わかんないです。神々廻は見当が付いたなんて言ってましたけど、無意識の内に使ってとかですかね?」

『そうか。ではそのままヤマトに接触してみてくれ。軽く触れる程度で良い』

「わかりました」


 整備班の面々や機材が完全に離れるのを待ってから、ゆっくりと歩いてヤマトに近づき、神秘の炎に包まれたヤマトと握手をするように手を取る。

 その瞬間、それまで激しく燃え上がっていた赤い炎が、風に吹かれたロウソクのように一瞬でしぼみ跡形もなく消えてしまった。


『えっ!?』

『神楽坂くん、神威の発動を中止したのは自分の意思か?』

『違います! ていうか今も発動してます! でも炎が出ません!』

『桜台くんの方は何か感じないか?』

「いえ、何も。普通に手を握ってるだけです」


 だけど今の神楽坂の反応を見るに、不滅の太陽イモータル・サンが止まったのは俺が接触したからだよな?

 じゃあ、俺は自覚がないだけで何らかの神威を発動してる?


『概ね神々廻くんの予想通りだな。午前中の訓練時、実は神々廻くんは未来視の神威を発動して桜台くんと戦っていた。彼の通常時の神威は不随意の予知夢だが、女神との共鳴時は任意で数秒先の未来が視える』


 あの野郎ズルしてやがったのか。道理でどんな攻撃を仕掛けても先読みされてるみたいに避けられるわけだ。


『だが、実際には桜台くんの未来は視えなかったそうだ』


 ……じゃあやっぱり実力かよ。


『『渡河』の守護獣がワープで逃げなかった理由、神々廻くんの未来視で未来が視えなかったこと、そして神楽坂くんの太陽を止めた事実。これらを踏まえて、我々は桜台くんの神威を『虚無』と推定した』

「『虚無』の神威……」

『効果は接触している相手の権能を無効化すること。加えて、自身に向けられた権能も無効化するのだと思われる』


 前者は『渡河』と『太陽』を、後者は未来視を、それぞれ無効化していたということか。

 正直全くそんな自覚はなかったけど、実際に今、神楽坂の神威が止められている。俺が接触したのが原因であることはタイミング的に明らかだし、相手の神威を無効化する神威、というのはあながち間違っていない気はする。


 ただ、


「虚無って、あの神話のですか?」


 守護獣が出現する際に聞こえるという神話。

 その一節に虚無を司る神について言及があったような気がする。

 あえて虚無の神威なんて名前を付けたことに、意味がないとは思えない。


『我々は神話の意味することを度々議論していた。創世の神によって造られた世界と守護獣。そして虚無の神。この神々が守護獣襲来と無関係とは考えられない。ならばどちらかが、何らかの理由で人類を滅ぼそうとしているのではないかと仮定した』


 いわゆる黒幕、守護獣の裏にいる存在ってところか。


『そして同時に、どちらかの神は我々人類に味方してくれているのではないかとも。そうでないのなら、神などという存在がなぜ自ら人類を滅ぼしに現れない? 神話通りに神の如き力を持っているのなら人類を滅ぼすことなど容易いはずだ』


 どっちかの神様は反人類、どっちかの神様は親人類で、神様は神様同士で戦ってるとか牽制してるとか、そういう理屈だろうか。


『そして桜台くんの存在によってこの仮説は説得力を増した。異世界から現れ、出所不明の女神を唯一操ることができ、加えて神威の出力も抜きんでている。まるで袋小路に迷い込んだ我々を救うために、神が送り出した助け舟だとさえ思える。つまり君とムメイは、虚無の神の使途ではないかということだ』


 ……いや、いくら何でも話が飛躍しすぎてないか?


「俺の神威が無効化なのは多分合ってると思いますけど、それが虚無かどうかはまた別の話じゃないですか? 本当に神様が人類のためにって俺を異世界から連れて来たんなら、例の先生って人も一緒にするべきだと思いますし」


 その方がより勝率は上がるはずだ。

 人類の為を思ってというのなら、俺と先生って人をトレードオフにする必要はない。

 俺が先生の代わりになるようにこの世界に来てしまったのは流石に偶然だろう。


『それは違う。我々は遅かれ早かれ、例の先生抜きで守護獣に勝たなければならなかった』

「どういうことですか?」

『彼は人類が敗北した未来の人間だった。これは小篠塚くんから聞いているな? 人類が勝利した先の未来に彼は存在しない可能性が高い。存在しない人間は過去に来ることなど出来ない。つまり我々の勝利が確定した時点で、彼は過去に来なかったことになる。だがここで問題が生じる。彼の力がなければ勝てなかったのなら、彼が過去に来ない=敗北ということになる。その場合結局人類は敗北し、未来で彼は生まれ過去にやってくる。いわゆる無限ループに陥る』


 ……? タイムパラドックスとかそういう話だろうか? 難しくてどういうことなのかよくわからない。


『簡単に言えば、彼が現代に存在するという状況そのものが人類の敗北と衰退を意味しているんだ。だから我々にとって彼の代わりに君が来てくれたことは決してマイナスではない。未来の可能性は、決定的な敗北か決定的な勝利か、まだ確定していない』

「……でも、勝利の予知は視えてないんですよね?」

『言っただろう。君の神威は他者の神威を無効化すると。どうやらこれは共鳴時だけの特性ではなく平時でも同様らしい。これまで神々廻くんは予知夢の中で一度として君を視たことがない。君がこの世界に来たパターンの未来は神々廻くんには視えないんだ。ここから先の未来は、今までの予知通りにはならないかもしれない。君の選択、行動次第で、これまではあり得なかったことが起きるかもしれない。わかるか桜台くん』


 鏑木さんはそこで一度言葉を区切り、最後に重々しく告げた。


『君が勝利の鍵だ』

☆Tips 先生

未来から機甲女神の技術を持ち込んだタイムトラベラー。

彼の存在により、現代の人類もまた機甲女神という力を手にするに至る。

しかし予知夢の中で度々力になってくれた彼は、実際に現れることはなかった。

未来では戦いが必要なくなったのか、あるいは人類がもう存在していないのか。

その答えはまだわからない。

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