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ep40 子供

 一先ず虚無の神は無力化出来たと思って良いだろう。

 ただし、こじ開けた胸部などは少しずつ閉じてきており、もぎ取られた四肢も徐々に再生し始めている。

 流石に神なだけはあり、完全な無力化とは言えない状態だ。


 これがただの兵器で乗り手がいるなら、機体は鹵獲してパイロットと分断してしまえば済む話だけど、機体自体が意思を持っているとなるとそういうわけにもいかない。基地に持ち帰るのはリスクが高すぎるから、尋問するならこの場でということになる。


 今までの守護獣のように問答無用でぶち殺すというのは流石に早計だろう。

 こちらが知らない情報だって持ってるはずだしな。

 生きたまま捕まえられるほどの力量差がなければ仕方ないけど、今回は俺の圧勝だった。


 そういえば、


「なんで『虚無』の神威を使わなかった? 使えばもう少しは戦えたはずだろ?」

『お母さんが真っ先に持ってったからでしょ!! だから返してって言ってるのに!!』


 ああ、せめて『虚無』を返してってのはそういう意味だったのか。

 神話が事実だとすれば、虚無の神もまた創造の神から生まれた存在なわけで、だとすれば元々は『虚無』の神威も創造の神の力だったのかもしれない。


 俺は自分でも知らない内に、その力を取り返してたってことか。

 『虚無』を持ってないならますます俺が負ける道理はないな。


「鏑木さん、こいつを連れ帰るのは危険だと思うのでこの場で尋問しようと思いますけど、何か聞くべきことはありますか?」

『あ、ああ……。いや、それより桜台くんは大丈夫なのか?』

「神楽坂の『太陽』が俺に移ったって思って貰えれば大丈夫です。あ、でも裸を見られるのは流石に恥ずかしいので機内のカメラは切って貰えると……」


 虚無の神を倒すのに夢中ですっかり忘れてたけど、覆い隠すものもないし丸見えなんだよな。恥ずかしいのもそうだし、なんか神々廻先輩に悪い気もする。


『勿論カメラはすぐに切った。安心してくれ』

「ありがとうございます。それで、何を聞きます?」

『そうだな……、まずは対象が虚無の神で間違いないか。それから残存戦力と行動目的。我々の敵はまだ存在するのか、なんのために人類を滅ぼそうとするのか。この三つを聞いてくれ。答え次第で内容を追加する』

「了解です」


 まさか守護獣の親玉を尋問できる機会があるなんて想定していなかったのか、提示された質問は簡潔で数も少なかった。

 人間同士の戦争と言うわけでもないし、指揮系統とか内部の不満・不和とか聞き出してもあんま意味なさそうだもんな。


「一応聞くけど、お前が虚無の神で間違いないんだよな? それで俺が、創造神の魂の生まれ変わりなんだな?」

『そうだよ。まだ気づいてなかったの? お母さん頭悪くなった?』

「一応って言ってんだろ!!」


 とはいえかつての俺がどんだけ頭良かったのか知らないから違うと断言することも出来ない。


「守護獣はまだ残ってるのか? っていうか他に仲間とか下僕とかいるのか?」

『いないよ。だから出て来れたんじゃん』

「あ? どういうことだ?」

『お母さんがルールを決めたんだよ。守護獣が全員消滅するまで僕はこの世界に干渉出来ないって。守護獣がこっちに来るのにも時間差が必要だし。だから折角お母さんを見つけたのに迎えに来るのに時間がかかっちゃった』


 一週間ごとに守護獣が襲来して来たのはそういう理由だったのか。

 いやでも、だとしたら


「なんでそんなルールを決めたんだ? それじゃあまるでこういうことが起こるのを予期してたみたいじゃねーか」

『そんなの僕が聞きたいよ。でも、確信はなくても何となくわかってたんじゃないの? お母さんの魂が帰ってきたら僕がこの世界を消滅させようとするって』

「なんで、そんなことを……」

『この世界はお母さんの身体で創られたからだよ!!』


 機体の再生はまだ終わってないし、相変わらずムメイに踏みつけられて身動きを取れないはずなのに、思わず一歩引いてしまいそうになるほど鬼気迫る声で虚無の神は叫んだ。


『お母さんさえいれば良かった! お母さんさえいれば他に何もいらなかった! 飽きたなんて言ったのはお母さんに構って欲しかっただけなのに! 宇宙も星も命も守護獣もいらない! こんなもの一つもいらなかったのに!! どうして僕を置いて行ったの!? どうして僕を連れて行ってくれなかったの!? 僕はいらない子だったの!?』

「……わかんねえよ、そんなの」


 例え俺が創造の神の魂なのだとしても、かつて虚無の神を置いてどこかへ行ってしまった存在なのだとしても、そんなこと覚えてないんだ。俺には桜台勇としての記憶しかない。


『この世界にあるものを全部壊してお母さんに帰す! そうすれば全部元通りなんだ! その人間の器も壊せばお母さんも全部思い出してくれる! そう思ったのに、ズルいよ……。二回も殺したのに何で死んでくれないの……? やっとお母さんに会えると思ったのに、こんなのひどいよ……』


 半狂乱になって騒ぎ出したかと思えば、今度は泣きながら恨み言を零し始めた。

 情緒が安定していないというか、多分こいつは子供なんだ。自分の思い通りに行かなければ泣きわめいて怒り出す。癇癪を起して周囲に当たり散らす。そんな子供が力を持ってしまった存在。

 人間に対する憎悪だとか、人類を根絶やしにしてやるなんて恨みがあったわけじゃなくて、思い通りにならない怒りを発散しようとしていただけのクソガキ。母親を取り戻したかっただけの、子供。


「……鏑木さん、まだ聞くことはありますか?」

『ない、が、桜台くん。君が創造の神の生まれ変わりというのは本当なのか? いつから気づいていたんだ?』

「さっきです。こいつにコックピットをぶち抜かれた時、生と死の狭間で知りました。俺にそれを教えてくれたのはムメイです」


 創造神の記憶が刻まれた機械仕掛けの神の器。

 今までムメイの中に人格を感じなかったのも当然だ。

 他の機甲女神と違い、ムメイには人格なんて最初からなかったのだから。

 俺意外と共鳴出来ないのは、俺とだけ共鳴出来るのは、創造神の器であるがゆえ。

 恐らく俺は、桜台勇は、創造神の魂が輪廻転生を繰り返した末に生まれた存在。


『にわかには信じがたい話だが、君とムメイの特異性を考えればむしろ辻褄は合う、か』

「守護獣は俺の魂を感知して出現してたんだと思います。そうだろ?」

『……そうだよ』


 自分が創造神の生まれ変わりであると自覚した時から、不思議と理解していた。


 第一守護獣がこの世界ではなく俺の元いた世界に現れたのも、第二から第五までの守護獣が基地の近辺に出現していたのも、俺を追いかけていたからなんだ。

 そして俺は元の世界で一度死んでいる。虚無の神威は二回も殺したのにと言っていた。だけどこの世界に来て戦い始めてから死んだのは、さっきの一度だけ。計算が合わない。

 最初の死は、第一守護獣が出現したあの瞬間だ。あの時のことを俺はよく覚えてなくて、気が付いたらムメイに乗って怪物と対峙してたと認識していた。

 それが間違っていたんだ。元の世界で殺された俺の魂は、再び転生してこの世界に帰って来たんだ。桜台勇としての肉体が女に変わったのではなく、この世界の人間として肉体が一から構築された。その構築された肉体の性別が女だったのは、この世界において俺は本来女神だったからだろう。


 肉体の構築。そんなことが出来るのかという疑問はなかった。自分の中に新たな神威が目覚めていることに気が付いたから。

 いや、新たな神威というより、それは最初の神威というべきだろう。『虚無』の神威によって封じられていたそれに、俺はようやく気が付いたんだ。

 それこそが、自身を創造の神の生まれ変わりだと確信させた力。


 『創造』の神威。


「鏑木さん、こいつは子供なんです。善悪の区別もついてないだけで、悪意があったわけじゃないと思うんです」

『言いたいことはわかる。だが危険すぎる』

「だったら俺と同じように、力と切り離せば良い」


 今、俺の身には沢山の神威、権能が宿っているが、それを引き出すためにはムメイとの共鳴が必要だ。つまりムメイに乗っていなければ一般人と大差ないということになる。だったら虚無の神も同じ状態になれば、危険はないってことだよな?


『出来るのか?』

「できます。『創造』なら!」


 ムメイの両手を皿のように広げて、その上に『創造』の神威を集中させる。創造するのは、人間の身体。虚無の神の新しい器。

 実年齢で言えばとんでもないお爺ちゃんかもしれないけど、その精神性は幼い子供のもの。ならばそれに見合った姿を!


『なんということだ……。これが、神の力』


 眩い黄金の光が激しく輝いたかと思えば、次の瞬間には一点に収束するように唐突に掻き消えた。

 光の消えた後、ムメイの掌の上には一糸まとわぬ姿で規則正しい寝息を立てる少年の姿があった。


「話は聞いてたな? 人として裁きを受ける気があるなら、これに入れ。その機械の体はぶっ壊す」

『僕のこと、許してくれるの……?』

「それを決めるのは俺じゃない」


 一度守護獣にぶっ殺されてることを考えれば俺にも口出しする権利はあるかもしれないけど、体感的には殺されたという感覚もあまりない。

 それより、何度も予知夢を繰り返すことになった神々廻先輩や、命がけで守護獣と戦っていた対策室のみんな、強制的に避難させられた人々や混乱をもたらされた社会。そういった諸々の事情を考慮してどういう裁定が下るかという話だ。


「でもまあ、お前が罪を償って晴れて自由の身になったら」


 こんなのは俺の自己満足でしかないけど、それでも、創造神の生まれ変わりとして、こいつを置いてけぼりにしてしまった母の代わりとして、俺はそうするべきだと思った。


「その時は一緒に遊んでやるよ」

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