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ep4 神威

 自己紹介の後に配膳された朝食を食べ終えると、神々廻と鏑木さんの二人は連れ立って部屋を出て行き、俺を含むパイロット五人と小篠塚さんだけがブリーフィングルームに残ることとなった。


「おさらいも兼ねて今後の予定についてご説明します」


 小篠塚さんがリモコンのボタンを押すと部屋に備え付けられたスクリーンが降りて来て、プロジェクターによって資料が投影される。


「神々廻くんの予知によれば、守護獣の数は推定で五体。今のところ予知で撃破した未来が視えているのは三体までだそうですが、守護獣が発信している神話を信じるのなら、彼らは創造神の小指、薬指、中指、人差し指、親指で造られた獣だと推定されるためです」


 神話というと、守護獣と対面したとき突然頭の中に流れ込んできたあれのことか。耳から聞こえたのではなく、脳に直接響いた不気味な声。創造神の指から獣が生まれた……そんな内容だった気がする。


「予知の内容は共有されてたけどさ、ほんとに直接頭の中に聞こえるってのは驚いちゃったよね」

「たしかに奇妙な感じだった」

「やっぱりあの神話は実際にあった出来事なんですかねー?」


 昨日の説明でも聞いた話だが、実際に守護獣が現れたのは昨日が初めてらしい。だからパイロットたちの反応も初々しい感じなのだろう。

 それにしても神々廻のやつ、いくら予知の力があるとはいえ、まだ起きてない出来事を国に信じさせてここまで大規模な準備をさせるなんてよくもまあ出来たものだ。


「少なくとも対策室では実話と見做して対策会議を重ねています。守護獣がなぜ人類を襲うのかはわかりませんけれどね」


 神話に出て来た創造の神や虚無の神が関わっているのか。

 あるいはあれは異世界の、例えば俺が元いた世界の神話で、この世界に侵略して来ているとか。

 ……なんか、しっくりこない。別に根拠があるわけではないのに、守護獣はこの世界の存在だという予感がしている。


 小篠塚さんは俺たちが話を聞いていることを確認するように一瞥してから頷いて、表示されていた神話の図解を次のスライドに切り替える。そこには先日の戦闘で撮影された守護獣の映像と、その分析データが並んでいた。


「今後の守護獣の襲来頻度は、一週間に一度と予知されています。エネルギー反応についての解析も進めていますが、守護獣に関しては過去のデータがないので進捗は芳しくありません。もし予知が外れるようであればいつ来るかはわかりませんので、いつでも戦える心構えはしておいてください」


 全員の視線が一瞬俺に向けられた。


 神々廻の予知によれば、本来昨日戦場に現れるのは先生とかいう人だったらしいからな。

 神々廻が予知で先生から聞き取った内容をさらに又聞きした話らしいけど、対策室が守護獣に敗北した後、人類は衰退の一途をたどり、未来ではごく僅かな人々が守護獣から逃げるように各地を転々と旅をして生き延びているらしい。その一団に女神とパイロットも在籍し、先生は未来のある一戦で殿として守護獣との戦いに臨み、その際何が起きたのか、過去へとタイムスリップしてしまったのだという。そうして未来を変えるため、対策室に協力して現代で守護獣との戦いに再度身を投じる。女神の扱いや守護獣との戦いに関しては一日の長があり、唯一の大人のパイロットでもあったため先生と呼ばれていた、ということだそうだ。


 その予知が外れた以上、今後も神々廻の予知が外れる可能性はあるということだろう。


「守護獣の『神威』とパイロットの持つ『神威』には、相性があります。よって、二回目の戦闘ではこちらの手札を隠すため、戦闘には最小限のパイロットを投入します」


 守護獣は単体でエネルギーと権能という二つの特性を併せ持つ神威を有するのに対し、機甲女神が持つ神威はエネルギーとしての性質しか持たない。つまり特殊能力がないということだ。だからそれを補うように、権能としての神威を持つパイロットが女神に乗り込むことで、エネルギーと権能を両立させ守護獣に対抗する。


 さらに補足すると、女神の神威とパイロットの神威は共鳴することでお互いの力を大きく増幅させる。だからこそ、それぞれの女神に適合したパイロットが選抜されている。

 ただ乗って動かすだけであれば神威を持たない一般人にも出来なくはない。けれどそれでは、現代技術で造られた人型ロボットの枠を出ない程度の性能しか発揮できない。それならば戦闘機や戦車など、用途にあわせてデザインされた兵器の方が強い。

 機甲女神が人型でヒロイックな外見をしている理由は、信仰を集め神威を高めるためだ。兵器としての機能性ではなく、偶像として最適化されたデザイン。ただのロマン兵器というわけではない、らしい。


 守護獣の強大なエネルギーには、同じく女神の強大なエネルギーで対抗する。

 そして守護獣の権能には、パイロットの権能で対抗する。

 それが対策室の出した答えだ。


 俺が倒した『渡河』の神威を持つ守護獣は、本来なら『予知』の神威を持つ神々廻が対処するはずだった。

 パイロットの神威は、共鳴反応により平時と女神搭乗時で性能が異なる。

 神々廻の場合平時は寝ている間しか発動しない予知が、女神搭乗中はリアルタイムの未来視となるらしい。

 これにより、渡河の守護獣のワープ先を先読みしてカウンターをぶちかますという作戦だったわけだ。


「第二の守護獣が持つ神威は『繁栄』と予知されています。分裂による自己増殖を繰り返す特性があるようです。この守護獣に対しては、統率を乱し増殖を阻む神威が有効と考えられます」


 その言葉に合わせて、スクリーンに神谷先輩と神室先輩の顔写真と、各自の神威が並ぶ。


「主戦力は、『不和』の神威を持つ神谷くん、および『怠惰』の神威を持つ神室くんのお二人にお願いします」

「当初の計画通りにですね」

「もう散々聞いたから耳タコなんですけどー?」


 指名された二人は最初から知っていたというように特段動揺することもなく、先ほどまでと変わらない調子で言葉を返す。


「そして桜台くんには、二人の支援として出撃して貰います。二人の神威で完封しきれなかった場合の遊撃役だと思ってください」

「……はい」


 全機を投入しない理由が手札を隠すためということなら、既に昨日の戦いで大暴れしている俺を控えさせる意味はない。

 指名の理由は理解できるし納得もしてるけど、それでもまた命をかけた戦いに赴くことになると考えると、恐怖と不安で返答は自然と重い声音になっていた。


「だいじょぶだいじょぶ! なんかあったら先輩が守ってあげるって! それに不思議くんの予知でも二戦目は勝ててるっぽいし何とかなるなる!」

「初陣とは思えない自信だな。まあ、俺たちもそれなりに訓練はしてきてる。出来るだけ桜台の出番は来ないように努力するよ」

「はい、ありがとうございます」


 俺とたった一つしか違わないというのに、先輩たちは凄いな。

 予知で勝ち筋を知っているとはいえ、一歩間違えれば死ぬかもしれない戦場に立つのが怖くないのだろうか。

 これが巻き込まれて渋々戦っている俺と、自分の意思で戦うことを決めたパイロットの差というものなのかもしれない。


「まだ桜台くんは女神の操縦や戦闘そのものにも不慣れでしょうし、今日から襲来予定日の前日までは模擬戦多め+連携訓練予定です。休憩時間を1時間設けますので、訓練開始までに各自女神に搭乗して下さい。それではまた後ほど」


 小篠塚さんはそう締めくくってブリーフィングルームを後にした。

 休憩時間にしては長いが、これは訓練開始前に多少交流を深めておけということだろう。


「ねえねえ勇ちゃん、異世界ってどんな感じなん? やっぱエルフとかドワーフがいたりすんの?」

「いやそんなファンタジー世界じゃないだろ。でも俺も、この世界との違いとかがあるのかは気になるな」

「あー、そっすね、俺もまだこっちに来たばっかで細かいことはわかんないすけど、とりあえず俺の家と学校はなかったんで住んでる人とか建物は違うみたいっす。でも世界観、って言うのかな。現代日本、て感じは一緒すね」


 日本語も通じるし、昨日家や学校を訪ねるために歩いた街並みは俺の世界とほとんど違いはないように見えた。

 用意された部屋の間取りや食文化、服装なんかも違和感は全然ないし、テレビをつければ似たようなニュースや番組がやっている。俺が元々持っていたスマホは使えなくなっていたから電波とか厳密には違う部分もあるんだろうけど、世界観は概ね一致している。


「異世界っていうより平行世界って言う方が感覚的には近いかもです」

「そ、そっか。なんか、ごめんね」

「悪い、デリカシーのない聞き方だった」

「別に死んだとかってわけじゃないし、いつかは帰る方法も見つかるかもと思ってるんでそんな気遣わないでください」


 無駄に高かったテンションが鳴りを潜めて歯切れ悪く謝罪する神室先輩と、少し声を堅くして深々と頭を下げる神谷先輩。

 気まずくさせるつもりはなかったんだけど、今のは俺の言葉のチョイスが良くなかったな。


「えっと、聞かれたくなかったらごめんなさいなんですけど、元々は男の子だったって本当ですか?」

「それも別に気にしてないって。今はこんなだけどちゃんと男子だったぞ」


 話題を変えるようにおずおずと聞いてきた神楽坂に軽く返す。

 もし女子として学校に行け、とかってなったらまた感じ方は違ったかもしれないけど、そもそもロボットに乗って戦うってことが非現実的過ぎて女になったことの衝撃や不安はかなり有耶無耶になっている気がする。


「女の子になるってどんな感じなんですか? どんな風に変わったんですか?」

「いつの間にかだったから何ともな……。本当に気づいたら女神に乗ってて体も女になってたんだよ。外見も面影とか全然ないし。正直鏡見ても自分が映ってるって理解するのにちょっと時間かかるくらいには別人だな」

「それが桜台くんの神威だったり?」

「それもわかんねえ」

「ですよね!」

 

 神楽坂は満足したのかそれ以上質問を重ねるつもりはなさそうだ。

 随分と深堀してきたというか、そんなに性別が変わったことに興味があるのだろうか?

 俺と同い年で年頃の男子だし、女体に並々ならぬ興味があるのかもしれない。

 ここが国の施設じゃなかったら俺も学術的見地から色々試したかもしれないから気持ちはわからなくもない。誰に見られてるかもわからん場所であまり派手なことをする度胸はなかったけどな。


「え、えっと、桜台くんの神威って、どんななの……?」


 明らかに人と話すのは得意じゃないという感じだけど、意外にも火神先輩が質問を投げかけてきた。内容は桜台のと大差ないから答えもあんまり変わらないんだが。


「それが全然なーんにもわからないんすよ」

「え、め、女神は教えてくれなかったの?」

「教えてくれなかったていうか、何の反応もないっていうかですね」


 先ほど小篠塚さんが神室先輩と神谷先輩の神威について話していたように、女神のパイロットは全員それぞれの神威を持っている。

 だから当然俺も持っているはずなのだが、それがどんな権能を有するのかはよくわからない。

 というのも、パイロットの神威は女神に搭乗し共鳴することで、女神が語りかけるようにその権能のことを教えてくれるらしい。

 語りかけると言っても本当に会話できるわけではなく、感覚的に女神と通じ合っていることがわかる、というような感じらしいのだが、俺がムメイに乗っている時にそんな感覚はなかった。まるで自分の手足のように自由に動かせる、女神と一体化したような感覚なら理解できるのだが、女神の方に人格があるというのには全く気付かなかった。


「とりあえず今日の訓練でこっちからアプローチしてみようと思ってます」

「そ、そっか……。頑張ってね」

「うーん、でも不思議ですね。適合してない女神が素っ気ないっていうのは先輩たちの例もあるからわかりますけど、守護獣を倒せるレベルで共鳴してるのに完全無視なんて変じゃないですか?」

「それはほら、勇ちゃんが可愛い女の子だからなんじゃない? 自分より可愛いパイロットが乗って来たから拗ねてるってわけ!」

「拗ねてる云々はともかく、桜台は何かとイレギュラーだからな。俺たちと同じようには考えない方がいいんじゃないか?」


 その後も俺や元の世界についての質問や、逆にこちらからも色々質問したりして交流している内にあっと言う間に時間は過ぎていき、俺たちは急いで女神の格納庫に向かうこととなった。

 個性的な人たちだけど、排他的な感じはなく俺を積極的に受け入れようとしてくれていることが伝わって来た。小篠塚さんには相手次第だと言ったけど、この人たちとなら何とかやっていけそうだ。

☆Tips 神威

エネルギーであり権能。

神威で守られた相手には、神威でなければ対抗出来ない。

人間が平常時に持つ神威と、女神と共鳴した際の神威は性質が変化する。

また、平常時は基本的に任意のオンオフは出来ないパッシブであり、共鳴時はオンオフ可能のアクティブとなる。

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