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ep39 『創造』

 何もない、真っ暗な場所にいた。

 そこには大地も空もなく、自他の境も曖昧で、ひたすらに無が広がっているように思えた。


 俺はさっきまで、正体不明の機甲女神と接触して会話をしていたはず。

 それであいつの手が光ったかと思ったら、いつの間にかここにいた。

 何か、相手を強制的に移動させるような神威を使われたのだろうか。

 それともまさか、俺は死んだのか? ここは死後の世界なのだろうか。


「いいえ、違います。ここは言わば、生と死の狭間。この世でもあの世でもない場所」


 どこからか誰かの声がした。

 姿は見えない。というか今の俺には肉体がないから、そもそも視覚で見るということが出来ない。

 何もなく無が広がっていると思ったのは、五感による知覚ではなく、何となくそう感じた。第六感のようなものがイメージとしては近いかもしれない。

 しかしその第六感でも、声の主は知覚出来ない。この声さえ実際に音が震えているのではなく、俺の意識に直接語り掛けているのかもしれない。


 生と死の狭間ということは、俺は今死にかけてるのか?


「本来ならば死んでいるはずでした。しかしあなたへと帰った五指の力はあまりにも大きかった。神の力を取り戻しつつあるのです。それゆえに魂はこの場所にしがみつき、再び現世へ戻る方法を無意識に模索している」


 五指の力というのは守護獣の持ってた神威のことなんだろうけど、神の力を取り戻しつつあるってのはちょっとおかしくないか? それじゃあまるで、俺が元々神の力とやらを持ってたみたいじゃないか。ああ、もしかして『虚無』のことを神の力と呼んでるのか?


「あなたは虚無の使途などではありません。あなたは私の魂」


 ……どういうことだ? 意味がわからない。そもそもお前は何なんだ。


「私に名前はありません。私は世界に刻まれた記憶。いずれ帰るあなたのために残された力。機械仕掛けの神の器。そしてあなた自身」


 駄目だ、結局どういうことなのかさっぱりわからない。

 もう何でもいいからここから帰る方法を教えてくれよ。

 何か知ってるんだろ?


 俺が死にかけてるってことはあの機甲女神は敵ってことだ。それだけはわかった。だったら早く戻って戦わなければならない。


「直に再生が始まります。あなたは損壊した肉体を修復するために周囲の『神威』と『権能』を無意識に取り戻して・・・・・います。『太陽』が近くにあるのが幸いでした。しかしそれ故に、最早『虚無』の神に対抗し得る存在はあなたしかいません。どうか、あの子を止めてあげてください」


 謎の声の話を聞いている内に、段々意識が遠のき始めて後半はほとんど頭に入って来なくなってしまう。まるで退屈な授業を聞いて眠くなり、寝落ちする寸前のように。


「お行きなさい、私の魂よ。思い出す必要はありません。あなたはあなたのまま、どうか私の子らに未来を……」



・  ・  ・



 心地よい暖かさの炎に包まれながら目を覚ます。

 パイロット用のスーツは完全に消滅してしまっていて、身に着けるものが何もない。

 すぐに機体に空いた穴も再生されて外からは見えなくなるけど、機体内のカメラには思いっきり映ってるだろうな。流石に恥ずかしいけれど、今はそれどころじゃない。


 神楽坂もこういう気分だったのかもしなれないな。


不滅の太陽イモータル・サン!!」

『……なにそれ。ズルしないでよお母さん』


 俺が生きているということを対策室に知らしめるため、既に発動している神威の名前をあえて大声で叫ぶ。

 そう、俺は不滅の太陽の炎に包まれて再生を果たした。神楽坂の神威のはずである『太陽』を、何故か使えるようになっていた。


『勇くん!? 無事だったんですね!? 良かった、本当に良かったです~!』

『マジで心配どころか絶望しちゃったじゃん!! もー! 勇ちゃんもー!!』

『ほんとに生きてるんだよね!? 良かったよぉ……』

『まったく、人騒がせな奴だよ……。安心した』

『勇……、これも、夢じゃないよね……?』

「ご心配おかけしました。もう油断はしません!」


 泣いてる人もいれば安堵してる人もいる。そしてまだ不安そうな人も。

 気持ちはわかる。俺が同じ立場だったら同じように感じただろうから。

 だからこそ、先輩たちにそんな思いをさせたクソ野郎を絶対許せない。


 何がズルしないでだ。いきなり不意打ちしてきた奴がふざけたこと言いやがって。


泥沼の怠惰ウィア・レイジィ白昼の予知セカンド・ドリーム裏切の不和バック・スタブ荼毒の蛇蝎ディテスト・ペイン


 さっきまでの会話が夢や幻聴でないのなら、俺は神楽坂たちの神威を取り戻して・・・・・生きながらえたということなんだろう。その証拠に、俺の中にある権能の数が倍近くに増えているのを感じられた。そしていつの間にか、複数の権能を同時に使うことも出来るようになっていた。


「『矛』、『盾』、『茨』、『繁栄』」


 全身から再生の炎を噴き出し、更に盾の神威による絶対防御を身に纏う。

 怠惰によって敵の動きを阻害し、同時に予知によって行動を読む。

 分裂や子機、ビットに備えて不和を発動し、確実にダメージを与えられるよう蛇蝎も使う。

 極めつけに矛の絶対貫通を付与した茨を展開して、凶悪な破壊力と手数を両立する。


 そしてそれら全ての能力を有した分身を繁栄によって生み出す。

 本来なら、パイロットが乗って共鳴しなければ大した戦力にはならないはずだった。

 けれど権能を同時に発動できるようになった今、パワーは低くても権能だけで十分な戦力になる。実際に俺が操縦するのと比べれば柔軟性は下がるだろうけど、自動操縦である程度は動ける。


『お母さんばっかりズルい! 普通使うのは一個ずつでしょ!?』


 けれどここまでやってもなお、『虚無』の神威があるのならひっくり返される可能性がある。

 今まで自分で使っておいてなんだけど、敵に回すと改めて『虚無』の恐ろしさがわかる。油断は出来ないし、する気もない。


 相手は自らのことを『虚無』と名乗った。そして謎の声も、『虚無』の神に対抗できるのは俺だけだと。神話の内容から考えれば、要するにこいつが虚無の神というわけだ。

 更に言えば、あの謎の声は俺を虚無の使途ではないと言っていた。虚無の神が人類の味方という考えがそもそも間違っていたんだ。


 虚無の神、お母さん、そして魂……。

 なんとなく、わかってしまったような気がした。

 多分、俺は守護獣の神威を奪っていたわけでも学習していたわけでもない。

 入れ物を失った力が、あるべき場所へ帰っていただけなんだ。


 だけど答え合わせをするのは今じゃなくて良い。


『せめて僕の『虚無』くらい返してよっ! ズルいズルいズルい!!』


 虚無の神が駄々をこねるように喚きながら、両手を前に突き出してビームを発射する。

 光速で迫りくるそれは通常であれば回避不能。そしてさっき俺が一撃でやられたように威力も申し分なく、正面切っての力比べならなすすべもなくやられていただろう。


 しかし『盾』はそれを通さない。 

 『予知』によってその未来も視えていたため、俺はそれを無視して分身を使い虚無の神を囲い込む。


『む~! だったらこっち!』


 虚無の神は照準を俺ではなく対策室の基地がある方に変えてビームを撃ちだした。

 ただし、数十体にも及ぶ分身の一部がその射線に割り込んで盾になり、攻撃は基地まで届かない。そうしようとすることも予知で見えていた。


「『渡河』」


 長引かせて予想外の行動を取られ、何かの被害が出てしまっては目も当てられない。圧倒している内に終わらせる。

 分身の一体に『渡河』を使わせて虚無の神の目の前にワープさせ、続けざまに『茨』を四肢に巻き付けて拘束する。


『こんなものー!』


 驚くべきことに、虚無の神のパワーは『茨』を優に超えており、逆に引きちぎられることになった。

 けれど少しでも動きを止められればそれで十分だったのだ。どれだけパワーがあろうと、『矛』による貫通を防げるわけじゃない。両手両足の付け根を『矛』が付与された『茨』で貫通し四肢を捥ぐ。


『つまんない! お母さんばっかり神威使ってつまんない!!』


 ダルマになって大地に倒れ伏した虚無の神が、ジタバタと暴れながら不機嫌そうに主張する。

 それを無視してムメイで虚無の神の胴体を踏みつけ、抵抗を押さえ込んだ。


「コックピットをこじ開けます」


 俺はあの謎の空間で聞かされた話でほぼほぼこいつが虚無の神であろうことを確信してるけど、対策室は予想は出来ても確証は得られてないだろう。

 だから念のため、機甲女神であればコックピットがあるはずの胸部を茨でこじ開ける。そこには予想通りコックピットなんて存在しなかった。腹部や頭部も同じように開いていくがやっぱりコックピットはない。


『僕はお母さんと一緒にいたいだけなのに! なんで邪魔するの!?』


 やっぱり、人が乗って動かしているわけじゃない。

 この機甲女神によく似た存在こそが神の正体。

 謎の声の言葉を借りるなら、機械仕掛けの神の器。


『どうして人間なんかになっちゃったの……? 帰って来てよ、お母さん……』


 ムメイはどこから来たのかずっと疑問だった。その答えがようやくわかった。

 『創造』の神、ムメイはその器だ。そして誰も知らない場所へ旅立った魂、それが俺なんだ。

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