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ep17 神々廻歩夢①

 7月31日 月曜日 PM0:00


 第二守護獣を無事に撃破した俺たちは、鏑木さんからの厳重注意と称賛を受けながら基地へと帰還して、仲間たちとの再会を喜んだ。

 あと一歩遅ければ、あるいは判断を間違えれば、死人が出ていた。命懸けの戦いであることを改めて実感してか、神楽坂は女神から降りるやいなや俺たちに飛びついて来て、半べそかきながらしきりに良かったと繰り返していた。火神先輩も、神楽坂ほど情熱的ではないにしろ、目に涙を浮かべて嬉しそうに笑っていた。


 その後、神室先輩は【神風】発動の後遺症やら、死にかけたことへの精神的外傷トラウマが生じていないか検査するため職員さんに連れられて行った。ついでにお説教もされるようだ。

 神谷先輩は初戦闘を終えての所感を聴取するということでこれまた職員と共に去って行った。一戦目は想定外が多すぎた上に直接守護獣とぶつかったのが俺だけだったから全然データを取れていなかったらしい。

 神楽坂はムツを修復するために整備ドックに残ってこれから共鳴を始めると言っていた。

 火神先輩は神楽坂の話相手をするそうだ。


 そして俺はと言えば、鏑木さんに呼び出され、初日に事情聴取を受けていた一室を再び訪れていた。あの日と同じように、小篠塚さんと神々廻も同席している。

 今日一日くらいは勝利の余韻に浸らせて欲しいものだが、そう悠長なことを言っていられる状況でもないということだろう。


「さて、桜台くん。本来なら私は責任者としてすぐにでも神室くんとの面談をしなければならんが、それを後回しにしてこの場を設けた理由はわかっているな?」

「『渡河』の件ですよね」


 流石にそれがわからないほど馬鹿じゃない。

 けど、何で使えたのかは俺にもよくわからないんだよな。


「やはり、『渡河』の神威なのか」

「俺も確信はないです。でも状況的にそうとしか考えられないっていうか」

「映像記録を見返してみましたけど、やっぱりワープしているようにしか見えないですね。桜台くんの言う通り『渡河』の神威と考えるのが自然です」


 プロジェクターに先ほどの戦闘の映像を流しながら、補足するように小篠塚さんがそう言った。


「なぜ黙っていたんだ?」

「俺だってそんなのが使えるなんて知らなかったんです! 絶対先輩を助けるんだって強く思ったらいつの間にかワープしてたんです!」


 ネズミのような守護獣に群がられていたムツを救出するため、俺はまとわりつく分裂体共をかき分けながら前に進んでいた。

 けれどこのままじゃ間に合わないと思って、それでも諦めたくないと思って、こんな勝ち方なんて認めないと思って、絶対助け出して文句を言ってやると思っていたら、俺はムツの目の前にまで移動していた。


 あの時は無我夢中で気が付かなかったけど、俺は『渡河』の神威を使ったんだ。


「……神室くんを助けてくれたことは我々も感謝している。今更君の素性がどうこう言うつもりもない。しかしこうも想定外のことばかり起きると、対応が後手に回ってしまう。今、わかっていることは出来る限り教えて欲しい」

「多分、『繁栄』の方も使えます」


 まだ試してないけど、『渡河』を使ったことで権能を発動する感覚は掴めた。

 そして『渡河』や『虚無』とは別の権能が、俺の中に息づいていることも何となく感じている。


「守護獣の権能を奪っている、ということか」

「桜台くんの神威を『虚無』と推定したのは早計だったかもしれないですね。『暴食』とか『強奪』と表現する方が合ってる気がしませんか?」

「女神とコミュニケーションが取れれば早いですけど、相変わらずムメイはだんまりです」


 ムメイに自我なんてないのではないかと思ってしまうほど、全くの無反応だ。


「【神風】を相殺出来るほどの神威と考えれば、『虚無』という線もあるとは思うがな。ともあれ、『渡河』と『繁栄』の方も検証が必要だろう」

「てか、【神風】なんて俺聞いてなかったんですけど!? なんなんすかあれ!」

「使わせるつもりはなかった。他のパイロットに対しても我々からは伝えていない。まさか女神の方から教えられているとは思わなかったがな。これについては意図的に黙っていたな、神々廻くん」

「はい」


 怒気を孕んだ声と共にギロリと視線を向けられた神々廻は、特に動じることもなく当然のように答えた。


「何を言われても僕たちはいざとなったら使います。遊斗がそうしようとしたように」

「あれはお前が使えって言ったからだろうが!!」

「パニックになって忘れていただけで、彼の中には最初からその選択肢があった。だから迷わなかった。僕たちはもう覚悟が出来ている」

「ふざけんじゃねえ! 敵と心中して死ぬのがお前らの役目だってのか!?」


 自分でもわかるくらい、頭に血が上っていた。

 だって、それではあまりにも先輩たちが報われない。

 日常生活に影響が出るほどの神威を抱えて、振り回されて生きて来たはずだ。

 それなのに、人類を守るためなんて大義名分で、命をかけてまで戦ってるのに、最後は自爆させられるなんてあんまりだ。


「違う」

「何が違うんだよ!」

「僕たちの役目は守護獣を倒すこと。そのために僕は何度も視てきた。そのために作戦を練ってきた。今回も彼が余計なことをしなければ誰も死なずに勝ってた。僕たちの役目は死ぬことじゃない。この世界に平和を取り戻すこと。そのために必要なら死ぬだけだよ。それが僕たちの覚悟」

「だったら、諦めずに最後まで戦うべきだろ!?」

「あの状況で諦めないことに何の意味があったと思う? 今回は偶然、君が『渡河』に目覚めて守護獣を倒せた。だけどそうじゃなかったら? 【神風】を使わずにただ助けを待っていたら、一方的に食い殺されてただけだった。それだけじゃない。『怠惰』の神威が消えれば分裂は抑えられない。勝ち目がなくなってた」


 まくし立てるでも声を荒げるでもなく、神々廻はただ淡々と言葉を続ける。


「これからも仲間がピンチになる度に都合よく新しい神威に目覚めてくれるなら【神風】なんて使わなくても良い。だけど君の未来がどうなるかは僕でもわからない。だからこの先の戦いでも、必要になれば使うよ。僕も、彼らも」

「~~っ! だったらその度に俺が止めてやる! 絶対誰も死なせねぇ! お前もだ!!」

「うん、期待してる」


 煽ってんのかこの野郎!


「……二人とも少し頭を冷やせ。ちょうど昼時だから休憩だ。桜台くんはこの後神威の検証をするから、昼休みが終わったら整備ドックに向かってくれ」

「わかりましたっ!」


 今はこれ以上神々廻と顔を突き合わせていたくない。

 怒りのままに声を張り上げながら返事をして部屋を出る。


 ふざけた野郎だとは思ってたけどあそこまで薄情とは思わなかった。


 クソ! ムカつく! ぜってー神々廻の思い通りになんかさせねえからな!



・  ・  ・



「神々廻くんの言い分は尤もですけど、何もあんなに煽るような言い方をしなくても良かったんじゃないですか?」


 去って行く桜台の背中を見送っていた小篠塚が窘めるような声音で神々廻に問いかけた。


 実際、神室が作戦を無視して独断専行し窮地に陥ったあの状況では、【神風】を使う以外に守護獣を排除する手段はなかった。勇が『渡河』の神威に覚醒したのは奇跡だ。そんな都合の良い奇跡が何度も起きるはずがないということは、小篠塚も鏑木も勿論わかっていた。


「あれは桜台くんを引き留めるためだろう」

「へ? どういうことですか?」


 神々廻の意図を推測した鏑木の言葉を受けて、小篠塚は不思議そうに首を傾げた。


「……『渡河』の神威が使えるなら、元の世界に帰れるかもしれないです」


 相変わらずの無表情だが、申し訳なさそうに感じられる声音で神々廻がポツリと呟きだした。


「何でもいいからこの世界に執着してくれればと思ったんです。仲間を心配する気持ちでも、僕への対抗心でもいいから。せめて、この戦いが終わるまでは」

「桜台くんの『虚無』があれば第四の守護獣も倒せるかもしれないから、か」

「なるほど、そういうことですか。桜台くんなら頼めば普通に応じてくれそうな気もしますけど。神楽坂くんたちともこの短期間で随分仲良くなったみたいですし」

「……彼の未来は、視えないから」


 かすれそうなほど小さな最後の言葉は揺らいでいた。それは不安そうでありながら、どこか嬉しそうでもあり、真意は鏑木にも小篠塚にもわからなかった。

☆Tips 予知の神威

不随意に予知夢を視ることで未来を知る。

自身の行動によって予知夢の内容は変化する。

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