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ep12 火神命①

 専属医に捕まった日以来神々廻が個室に訪ねて来ることはなくなったため朝は一人で食事を済ませ、日中から夕方までは先輩たちと訓練に励み、自由時間は神楽坂とTS探検隊をしたり神谷先輩と自主練したり神室先輩と駄弁ったりすること早数日。やることがあると時間はあっという間に過ぎていくもので、俺はこの世界に来て初めての休日を迎えていた。


 基本的には好きに使える時間ということらしいけど、この施設の敷地外に出ることは認められていない。パイロットの情報は世間に公表されていないけど、それでも万が一があってはいけないということで、夏休みの間は軟禁状態だ。もちろん先輩たちはそれも承知でパイロットになってるそうだから、今更文句もないらしい。

 かく言う俺も、別に家や学校があるわけでもないし、外に知り合いもいないから別に出たいとは思わない。元の世界じゃゲーセン、カラオケ、ボウリング、運動公園と色んなところで遊んだものだけど、ああいうのは友達と一緒に行くことそのものを楽しんでたみたいなところあるしな。


 そういうわけで今日も自主練するかなと思ってたけど、いつもより遅い時間に朝の支度をしていると部屋のドアが激しくノックされた。


「勇くーん! 遊びましょー!」


 ノックと共に投げかけられた声を聞いて、訪問者は神楽坂だとわかった。小学生みてーな誘い方しやがって。


「ちょっと待てって、いま着替えてるから!」

「手伝ってあげましょうか?」

「結構だ!」


 支度はほとんど終わっていたから手早く仕上げを済ませて部屋を出ると、ニコニコと楽しそうに笑っている神楽坂が立っていた。


「待たせたな。なんか用か?」

「すっかり伝えるのを忘れてたんですけど、土曜日は毎週火神先輩の部屋でゲームパーティーをしてるんです。勇くんもどうですか!」

「火神先輩の部屋で……?」


 そりゃなんというか、意外だな。火神先輩って結構物静かなイメージだったからそんな催しを開くタイプだとは思わなかった。


「言い出しっぺは僕ですよ。僕と火神先輩と神々廻先輩しかいなかった頃に仲良くなりたくて始めたんですけど、それが今も続いてる感じです」

「へぇ、神々廻も参加してるのか?」

「残念ながら来てくれたことはないですね、神々廻先輩は忙しくて遊んでる暇ないみたいです」

「ふーん。オッケー、暇だから自主練しようと思ってたけどそっちの方が楽しそうだな。飯食ったら火神先輩の部屋行くわ」

「わーい! ありがとうございます! 待ってますね!」


 神楽坂が嬉しそうに小さく跳ねながら手を振って廊下の先へ駆けていくのを見送ってから、俺は食堂に向かった。朝食のラストオーダーギリギリだからか、既にほとんど人はおらずガラガラだ。土日が固定で休日のパイロットと違って、オペさんや整備、事務の職員さんなんかはシフト制で今日も仕事なのか、こんな時間までゆっくり朝食をとっている暇はないのかもしれない。


 簡単に朝食を済ませてから火神先輩の部屋へ向かう。と言っても俺の部屋からそう遠くない場所にあるため来た道を引き返すだけなんだけどな。パイロット用の部屋は人員補充を想定して予備も作られていたようで、俺が使ってる部屋がまさにそれなわけだけど、女性パイロットは想定されていなかったからか男女のエリア分けなんて存在しないのだ。


 ドアの前まで来ると、ゲームの効果音や笑い声が漏れ聞こえてきた。既に始まっているようだ。

 コンコンとノックすると、ほどなくしてゆっくりとドアが開く。


「桜台くん、おはよう」

「おはようございます。神楽坂に誘われて来たんですけど、入って大丈夫ですか?」

「うん、どうぞあがって」

「お邪魔しまーす」


 普段よりは心なしか落ち着いて見える火神先輩に促されて部屋にあがると、神谷先輩、神室先輩、神楽坂の三人が乱闘ゲームでしのぎを削り合っている真っ最中で、タイミング良く神楽坂が場外に吹っ飛ばされて負けるところだった。


「うへー、また負けちゃいましたー。あ! 勇くん! いらっしゃい!」

「くっ、この! おいその技やめろって! ズル! ズルいだろ!」

「何もズルくない。攻略出来ないお前が悪い」


 残るは神室先輩と神谷先輩のようだけど、どうやらタイマンでは神谷先輩の方に分があるらしい。遠距離攻撃でチクチクされて強引に避けながら突っ込もうとしたところを強烈な一撃でぶっ飛ばされている。


「じゃあ、次から桜台くんも一緒にやろっか。このゲームわかる? 他にやりたいのとか、ある?」

「俺の世界にもそっくりなゲームがあったんで大丈夫です。てか、俺は結構強いですよ?」

「お、お手柔らかにね」

「まずは神谷先輩包囲網を敷きますよ! 見ての通りタイマンでは勝ち目がないので!」

「だー! あっとちょっとだったのにー! 悔しい!!」

「全然あとちょっとではなかっただろ」


 場外に叩き落された神室先輩が頭を抱えて悔しそうな声をあげ、それを見た神谷先輩がツッコミを入れる。たしかに全然あとちょっとではなかった。手玉に取られた。


「あれ、勇ちゃんじゃーん! いらっしゃーい!」

「おはよう。まずはお手並み拝見だな」

「おはざいまーす。俺は強いっすよ~? つか狭いんでもっと詰めてくださいよ」

「あー! 火神先輩勇ちゃんの隣ズルいー! 俺と交換! 交換!」

「え? えっと、じゃあ」

「先輩の隣には僕って言う超絶可愛い子ちゃんがいるじゃないですか!」

「日向は男じゃん」

「ムキー! お得でしょ!」

「桜台も元は男だろ。くだらないこと言ってないで早く次に行くぞ」


 現在の並び順は部屋の奥から見て、神谷先輩、神室先輩、神楽坂、火神先輩、俺だ。

 神室先輩はあんなことを言ってるけど本気で交換して貰おうという気はないらしく、既にキャラ選択を始めている。思えば初対面の時も女の子ならオッケーとか言ってた割にそこまでグイグイ来るわけでもないんだよな。

 火神先輩は素直に場所を交換しようと腰を浮かしていたけど、いつの間に話が流れたのかよくわからなかったようで困惑しながらもゆっくりと腰を落とした。


 この特に意味のない悪ノリしているだけの会話と空気、懐かしいな。

 ほんの一週間前までは俺にとっても当たり前のもののだったはずなのに、いつの間にか忘れかけていた。

 神楽坂曰く、女神との共鳴には精神の安定も重要という話だし、そう考えると確かに戦いを忘れられる休日があるっていうのは重要なことなんだろうな。


「最初のわちゃわちゃしてる状況なら神谷先輩を袋にできますよー!」

「オラオラ勝てるもんなら勝ってみろ!」

「くっ、流石に4対1はキツイぞ!」

「ご、ごめんね」

「とか言いつつ手は緩めない火神先輩なのであった」


 5人でも同時に遊べるゲームのため、俺もそのまま混ぜて貰って試合を開始し全員が一斉に神谷先輩を狙い始めた。この手のゲームは強い奴が狙われるのは宿命だからな。


「負けた……」

「よーし! 今回は僕が優勝しますよ!」

「神谷がいなければ俺が一番強いっての!」

「火神せんぱーい! なーに隅っこで隠れようとしてんすかぁ?」

「ひぃ! 見逃して!」


 神谷先輩を早々に葬った後、神室先輩と神楽坂、俺と火神先輩という形でそれぞれタイマンのような状況になり、互いの戦況にたまにちょっかいをかけあったりしつつ徐々にダメージが蓄積していく。


「うわー! 神室先輩ごときに負けるなんて~!」

「誰が神室先輩ごときだ!」

「落とされちゃった……」

「一騎打ちっすよ神室先輩!」


 ほぼ同時に神楽坂と火神先輩が落ちて、残るは俺と神室先輩。

 お互いの実力が試されるのはここから。他の邪魔が入らない純粋なタイマンになってからなんだよな~。


「あれ、ちょ、勇ちゃん、強くね!?」

「んー、回避一辺倒で読みやす過ぎっすねー。移動に回避使わない方が良いっすよ。あと待ちを覚えましょうね。突っ込むだけじゃ勝てないっすよ」

「めちゃくちゃ駄目出ししてくるじゃん!?」


 いやー、こっちの世界でも操作性が変わってなくて良かったな。神谷先輩も見た感じ俺ほど強くはなさそうだったし、これは最強の座を奪っちゃったかな。


「ボコボコにされた……」

「次は桜台を集中狙いするべきだな」

「そういうの良くないっすよ」

「自分は思いっきりやっておいて抜け抜けと!? 勇くん良い性格してますね!」

「ふふ、そうだね」


 おお、火神先輩が笑ってるところ初めて見た。自己主張控え目で大人しい感じの人だと思ってたけど、友達と遊んでる時は年相応に笑ったりするんだな。


 その後一日中、レースゲームやすごろくゲーム、爆弾ゲームや料理ゲームなど、火神先輩の持っている様々なゲームを楽しんだり飯を食ったりしている間に、気づけば消灯時間を過ぎており、俺と火神先輩以外は全員寝落ちしてしまっていた。


「まだ24時前だってのに、みんな寝落ちするの早いっすね」

「普段から規則正しい生活をしてるから、リズムがそうなっちゃってるんだと思う」

「火神先輩は違うんですか?」

「時間通りに寝ようとはしてるけど、中々寝付けなくて……」


 そういえば、火神先輩はみんなで話をしてる時は積極的に発言することがないから俺あんまり火神先輩のこと知らないんだよな。

 そりゃ他のみんなのこともまだ大して知らないけど、その中でも特にって言うか。


「不眠症ってやつですか? 薬とかは?」

「貰ってるよ。飲めば眠れるから、大丈夫なんだけど」


 それって飲まないと眠れないってことじゃないのか? 大丈夫と言えるのか?


「なんか不安なことでもあるんですか?」

「もうクセになっちゃってるみたいで、それだけだから心配はいらないんだ。ここに来てからは、今までよりずっと楽しいから。戦うことが不安とか嫌とか、そういうのじゃないよ」

「そう、なんすか」


 命をかけて戦うことが、そのために訓練をすることが、今までよりも楽しい? そんなことあるのか? 戦いに不安を感じているって方がまだ理解できる。


「先輩は、なんでパイロットになったんですか?」

「……僕の神威は聞いたよね」

「『蛇蝎』の神威、ですね」


 訓練の時にパイロットの神威は共有されている。通常時の効果と共鳴時の効果、両方とも。

 正直最初に聞いた時は、神楽坂の神威以外デメリットが大きすぎると思った。神谷先輩の『不和』のように、神威は必ずしも良い影響を与えるものばかりじゃない。


「普段の効果は、人から忌み嫌われること。僕にはここ以外に居場所なんてないから」


 微笑みながら告げられたその言葉に世界への恨みや人々への憎しみは感じらず、ただひたすらに寂しそうだと、俺には思えた。

☆Tips 蛇蝎の神威

関わる人間に忌み嫌われる。

『不和』とは異なり、所有者だけが蛇蝎のように嫌われる。

他のパイロットに比べ神威が弱いからこそこの歳まで生き残れているが、もう少し強力な神威だったなら命はなかった。

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