第6話:シノノメの歩んだ道
タカナハラの村では、月明かりの下で静かな夜が続いていた。広場の焚き火はほとんど消え、村人たちはそれぞれの家に戻って眠りについている。
そんな中、長髄彦は見張り台に一人立っていた。星空を眺めながら、隣に座るシノノメに話しかける。
「お前の過去のことを、村の誰も詳しく知らないよな。」
シノノメは少しだけ笑い、夜空に目を向けた。
「知る必要がないから、話していないだけです。」
「そう言うな。俺はお前がどこから来たのか気になって仕方ないんだよ。」
しばらくの沈黙の後、シノノメはゆっくりと語り始めた。
シノノメが生まれ育ったのは、タカナハラから東に数日行った山間の小さな村だった。彼の家族は農耕を営む貧しい暮らしをしていたが、村全体が協力し合い、穏やかに暮らしていた。
しかし、彼が10代の半ばに差し掛かった頃、その平和は突然終わりを告げた。山を越えてきた盗賊団が村を襲い、多くの村人が命を落とした。
「その時、私は家族を守ることもできず、ただ逃げることしかできなかった。」
彼の声には、自分の無力さへの深い後悔が滲んでいた。
シノノメは村を出た後、放浪の日々を送ることになる。各地の村を転々としながら、農作業を手伝ったり、道端で物売りをしたりして生計を立てていた。
その中で彼が出会ったのが、一人の老学者だった。老学者は村々を回りながら知識を広める旅をしており、シノノメもその旅に同行することになる。
「その方から教わったのが、戦略や地形の活用法、人の心を読む術……すべてが今の私を形作っている。」
彼の言葉には感謝と敬意が込められていた。
老学者との旅の中で、シノノメは次第に自分の新たな目標を見つけていく。それは、かつての自分のように居場所を失った人々を守る力を持つことだった。
やがて、彼はタカナハラにたどり着く。当時、村は外敵の脅威にさらされており、防衛の指揮を取る人間が不足していた。
そこでシノノメは長髄彦に出会う。初対面の彼は、村の防衛計画を即座に改善し、敵を撃退するための指揮を執った。その成功が、彼を村に迎え入れるきっかけとなった。
「ナガちゃん、お前は不器用だが、誰よりも村を愛している。その情熱に、私も心を動かされた。」
長髄彦は静かに頷き、シノノメの話に耳を傾けていた。
「それで今はどうなんだ?お前は自分の居場所を見つけたのか?」
シノノメは少し考えた後、穏やかな笑みを浮かべた。
「ええ。この村こそが、私にとっての居場所です。」
その言葉に、長髄彦は満足そうに頷いた。
翌朝、シノノメは村の中央に立ち、防衛設備の点検を指揮していた。彼の鋭い目は、どんな小さな欠陥も見逃さない。
タケツナが近づき、少し緊張した様子で質問した。
「シノノメ様、どうしてそんなに冷静でいられるんですか?」
シノノメは軽く笑いながら答えた。
「冷静でいられる理由は簡単です。過去に一度、すべてを失ったことがあるから。」
その言葉にタケツナは驚きながらも、尊敬の念を込めて頷いた。
夜、村の広場ではまた焚き火が焚かれ、村人たちが賑やかに笑い合っていた。シノノメは焚き火から少し離れた場所で静かに座っていたが、長髄彦が近づいてきた。
「お前の過去を聞いて、さらにお前を信用する気になったよ。」
シノノメは苦笑しながら答えた。
「ナガちゃん、それは光栄ですが、私を信用しすぎるのも危険ですよ。」
長髄彦は大笑いしながら肩を叩いた。
「お前に裏切られたら村ごと滅ぶな。でも、それでもいいと思えるくらい、お前には任せられる。」
その言葉に、シノノメはわずかに目を細め、再び星空を見上げた。
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