第5話:実りの土地と未来の男
タカナハラの村は早朝から活気に包まれていた。遠くから聞こえる鍛冶場の音や、田んぼに水を引く音が、村人たちの勤勉さを物語っている。今日もまた、村の平和と繁栄を支えるために、村人たちはそれぞれの役割を全うしていた。
長髄彦は村の外れにある田んぼを見回りながら、畦道を歩いていた。彼の後ろには子供たちがついてきている。
「ナガちゃん、今年の稲の成長は順調みたいだな。」
鍛冶職人のタカリが、田んぼを指差しながら声をかける。
「ああ。これだけ育てば、村人全員を養うには十分だろう。」
長髄彦は稲の青々とした葉を撫でながら答えた。
一緒に歩いていた子供の一人が、彼の足元を見上げながら質問する。
「ナガちゃん、どうしてこんなにたくさんの稲を育てるの?」
長髄彦は子供たちに優しく微笑みながら答えた。
「この稲は、みんなの命をつなぐものだ。これを守ることが、村を守ることなんだよ。」
その言葉に、子供たちは真剣な表情で頷いた。彼らの目には、長髄彦が英雄のように映っていた。
田んぼを離れると、畑で働く村人たちの姿が見えた。ジャガイモや豆類を育てる畑では、女性たちが楽しそうに話しながら作業をしていた。その中の一人、カエデが手を振って声をかけてきた。
「ナガちゃん、今日は畑の様子を見に来たの?」
「ああ。稲だけじゃなく、この畑も村にとって大事だからな。」
長髄彦がそう答えると、女性たちは口々に笑いながら声を上げた。
「ナガちゃん、こんなに真面目なのに、なんで嫡出子がいないのかしらね。」
その言葉に長髄彦は苦笑した。
「俺は村の皆を愛しているんだ。一人だけを選ぶなんて難しいだろう?」
女性たちはその言葉にさらに笑い声を上げ、作業に戻っていった。長髄彦は背中越しに彼女たちを見つめながら、少しだけ肩をすくめた。
日が暮れる頃、村の広場では夕食の準備が進んでいた。焚き火の周りに集まる村人たちは、今日一日の仕事を振り返りながら笑顔で談笑していた。
タケツナは一人、焚き火の端に座って食事をとっていた。その静かな姿を見つけたトワノハが近づいてきた。
「タケツナ、どうしてそんなに静かにしているの?今日も立派な意見を出してくれたんでしょう?」
タケツナは顔を赤くしながら俯いた。
「僕なんか、まだまだです……。」
トワノハは微笑みながら彼の隣に座った。
「そんなことないわ。みんな、あなたが村の未来を背負う存在だって期待しているのよ。」
その言葉にタケツナは少しだけ安心した表情を浮かべた。しかし、彼の心を揺さぶる出来事はこの後に待っていた。
食事が進む中、若い女性のアヤメがタケツナの前に立ち、にっこりと微笑んだ。
「タケツナさん、ここ空いてますか?」
タケツナは驚いたように顔を上げ、慌てて席を詰めた。
「あ、どうぞ……。」
アヤメは彼の隣に座り、話しかけてきた。
「タケツナさん、最近すごく頼りになるって評判ですよ。村の皆があなたのことを信頼しているみたいです。」
その言葉にタケツナはさらに顔を赤くし、言葉を詰まらせた。
「そ、そんなことないですよ……。」
アヤメはさらに距離を詰め、彼の顔をじっと見つめた。
「でも、私もあなたに期待していますよ。これからも頑張ってくださいね。」
そのやり取りを遠くから見ていた長髄彦は、またしても笑いを堪えきれずに声を上げた。
「おいタケツナ、その調子だと村の女性たち全員に狙われるぞ!」
その言葉に村人たちは笑い声を上げ、タケツナはさらに恥ずかしそうに俯いてしまった。おゴロは肩を揺らして大笑いしながら息子をからかった。
「タケツナ、お前も大人の男なんだからな。そろそろ自信を持て!」
夜空には無数の星が瞬き、焚き火の明かりが村を照らしていた。長髄彦はその光景を眺めながら、静かに呟いた。
「タケツナの未来は明るい。俺たちの村も、きっとこの若い力で守られていくだろう。」
その声は夜風に乗り、村全体を包み込むように響いていった。
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