第4話:古い戦術、新しい風
タカナハラの村は、朝日が差し込むとともに静けさを破り、いつもの活気を取り戻していた。稲の葉が風に揺れ、鍛冶場からは鉄を叩く音が響く。村人たちはそれぞれの仕事に励みながら、戦の影に備えていた。
長髄彦は村の中央にある会議場に向かっていた。今日は防衛設備の見直しについて、側近たちや長老たちと議論する予定だ。村を守るための重要な戦略を決める場であり、彼の責任は重い。
会議場にはすでにおゴロ、シノノメ、タケツナ、そして数人の長老たちが集まっていた。火を囲むように座り、皆が地図を見つめながら待っている。
「さて、始めようか。」
長髄彦が開会を告げると、おゴロが真っ先に地図を指し示した。彼の提案は明確で、村の防柵を中心に兵士を配置し、敵の正面突破を防ぐというものだった。
「俺の考えでは、防柵を中心にして敵を迎え撃つべきだ。防御の要となる場所を固めれば、そう簡単には突破されない。」
その言葉に、長老たちは頷きながら聞き入った。しかし、シノノメは静かに首を振り、反論の準備を整えていた。
「おゴロ様、その方法は一見理にかなっているようですが、問題があります。防柵に兵力を集中させすぎると、周囲の視界が遮られ、敵が隙間を突いて突破する可能性が高まります。」
おゴロが眉をひそめた。「なら、どうするべきだと言うんだ?」
シノノメは冷静に地図を広げ、村の地形を指差した。「ここに自然の崖がある。この崖を活用すれば、防柵に頼らずに敵の進軍を遅らせることができます。また、視界を確保するための見張り台を追加すれば、村の安全性が飛躍的に向上するでしょう。」
おゴロは腕を組みながら考え込んだ。彼の顔には不満の色が浮かんでいたが、反論の余地が少ないことも理解していた。
「確かに崖を使うのは良い案だ。だが、そんな簡単に作業が終わるものでもないだろう。」
その時、タケツナが小さく手を挙げた。全員の視線が彼に集中する。
「僕の意見を聞いてもらえますか?」
普段控えめなタケツナが発言したことに、場が一瞬静まり返った。長髄彦が穏やかな声で促した。
「もちろんだ、タケツナ。言ってみろ。」
タケツナは緊張しながらも、地図の一箇所を指した。「ここに小さな川があります。この川を利用して防御ラインを作れば、敵の動きを制限できます。また、崖の防衛と併せて考えれば、敵の進軍を大幅に遅らせることができるはずです。」
その提案は具体的で、計算されたものであった。おゴロは驚いた表情で彼を見つめ、シノノメも感心したように頷いた。
「なるほど。お前がそんなに頭を使えるとは思っていなかったぞ。」おゴロが笑いながら肩を叩く。
タケツナは少し照れたように笑い、視線を地図に落とした。「僕は父上のやり方を見て学んできただけです。」
「よし、それならタケツナの案を基に計画を立て直そう。」長髄彦は結論を出し、会議を締めくくった。
夜が訪れると、村の広場では家族ごとに焚き火を囲み、夕食を楽しむ光景が広がっていた。タケツナは一人、食事を取りながら今日の会議のことを思い返していた。
「タケツナさん。」
突然名前を呼ばれ、彼が顔を上げると、若い女性のカエデが立っていた。彼女は微笑みながら近づいてきて、彼の隣に座った。
「今日の会議、素晴らしかったです。あんなにしっかり意見を言えるなんて、本当にすごい。」
タケツナは顔を赤くし、言葉を探した。「い、いえ……そんなことないです。」
カエデはさらに近づき、彼をじっと見つめた。「タケツナさんみたいな人が村を守ってくれるなら、私たちも安心ですね。」
そのやり取りを遠くから見ていた長髄彦とおゴロは顔を見合わせ、笑いを堪えていた。長髄彦が冗談混じりに声を上げた。
「おい、タケツナ。そんなに照れるなら、俺が代わりにくどいてやろうか?」
その言葉にカエデは笑い、タケツナはさらに赤くなりながら俯いてしまった。おゴロは息子の肩を叩きながら笑った。
「ほら、堂々としろ。お前も立派な男なんだからな!」
その夜、長髄彦は見張り台に立ち、夜空を見上げながら深く息を吸い込んだ。村の平和な光景を見下ろしながら、彼は心の中で呟いた。
「俺たちには守るべきものがある。この平和を壊させはしない。」
風が彼の頬を撫で、遠くの山々に星の光が瞬いていた。
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