第14話:覚醒の光、決意の矢
タカナハラの村に朝日が差し込む頃、タケツナは静かに立ち上がり、戦場を見下ろした。その表情は、怒りと悲しみ、そして覚悟で満ちていた。
「父上、あなたの想いを無駄にはしない。」
彼は全軍を集め、静かに語り始めた。
「みんな、聞いてくれ。この戦いで、俺たちは数の差を超えなければならない。だが、それができるのは、俺たちが守るものを知っているからだ。」
兵士たちは一瞬の静寂の後、タケツナの言葉に応え、拳を握りしめた。
「まずは、敵の陣形を乱す。」
タケツナは冷静に指示を出し始めた。
「敵の正面に少数の精鋭を配置し、撹乱を仕掛ける。その間に、後方から伏兵を使って敵の補給路を断つ。」
シノノメが驚いた表情で問いかけた。
「伏兵を使うだと?そんな戦術は聞いたことがないぞ。」
タケツナは静かに頷きながら答えた。
「今までにない方法だからこそ、効果がある。俺を信じてくれ。」
シノノメは一瞬だけ迷ったが、やがてタケツナの瞳に宿る決意を見て、静かに頷いた。
戦闘が再開されると、タケツナの指揮はまるで神がかっていた。彼の命令に従って動く兵士たちは、次第に敵陣を崩し始めた。
「敵の補給路を断て!」
タケツナの声が戦場に響き、伏兵が見事に敵の補給路を切断した。
敵陣営では、イワレビコが冷静な表情で戦況を見つめていた。
「この動き……ただの農民が思いつくものではないな。」
彼の背後で、イツセが不快そうに顔をしかめていた。
「数で圧倒しているのだ。少し動揺した程度で、勝敗は変わらない。」
イワレビコは微かに笑みを浮かべ、呟いた。
「数で圧倒するだけでは、この戦を制することはできない。」
その時、長髄彦が高台から弓を構え、イツセに狙いを定めていた。彼の隣にはシノノメが立ち、慎重な声で問いかけた。
「狙いを定めるのはいいが、イツセを討てば、敵がより激しく攻め込んでくる可能性もある。」
長髄彦は静かに答えた。
「だが、あの男を討たなければ、この戦の流れを変えることはできない。」
彼は息を整え、弓を引いた。その瞬間、彼の瞳には鋭い光が宿った。
「これが、俺たちの決意だ……!」
放たれた矢は一直線にイツセの胸を貫いた。イツセは驚いた表情を浮かべ、一瞬よろめいた後、その場に崩れ落ちた。
その光景を目撃した敵兵たちは動揺し、戦場に混乱が広がった。
イワレビコはその場に立ち尽くし、倒れた兄を見つめていた。だが、彼の表情には驚きではなく、冷たい計算が浮かんでいた。
「イツセ兄上が倒れたか……。」
彼はすぐに兵士たちを集め、大声で命令を下した。
「動揺するな!戦いはまだ終わっていない!」
一方、タケツナはその混乱の中でさらに攻勢を強めていた。
「今が好機だ!敵を押し返せ!」
兵士たちはタケツナの指示に従い、一斉に攻め込み始めた。その動きは統率され、まるで一つの生き物のようだった。
戦いが終わる頃、敵軍は一時撤退を余儀なくされていた。タカナハラの村は、一旦その危機を乗り越えた。
長髄彦はタケツナの肩に手を置き、静かに言った。
「お前の戦術がなければ、村は滅びていた。よくやった。」
タケツナは頷きながら、遠くの戦場を見つめていた。
「でも、これで終わりではない。敵は必ずまた攻めてくる。」
その瞳には、次なる戦いへの覚悟が宿っていた。