第12話:迫る脅威、数の現実
朝日が昇るタカナハラの村では、見張り台の上に立つ長髄彦の表情が険しかった。遠くの地平線にわずかに見える人影。それは、近づく敵の軍勢を暗示していた。
シノノメがその横に立ち、冷静な口調で報告した。
「敵の数を確認しました。推定ですが、1500はいると考えられます。」
その言葉に、長髄彦は静かに息をついた。
「……こちらは300。単純計算で5倍か。」
シノノメが頷くと、長髄彦は腕を組み、村全体を見渡した。
「だが、数だけで勝敗が決まるとは限らない。防衛策を徹底し、村を守り抜くしかない。」
村の広場では、兵士たちが急ぎ防衛設備の点検を行っていた。柵の補修や罠の設置が進められる中、村全体に緊張が走っていた。
その中で、タケツナは若い兵士たちに指示を出しながら奮闘していた。
「落ち着いて作業しろ!ここが崩れれば、敵に一気に攻め込まれるぞ!」
彼の隣では、おゴロが槍を握りしめながら防衛設備を見つめていた。
「数が多いのは分かっていたが、これほどとはな……。」
タケツナが問いかける。
「父上、勝つ見込みはあるのでしょうか?」
おゴロは少し考え込んだ後、力強く答えた。
「勝ち目はあるさ。だが、それには村人全員の団結が必要だ。」
その夜、長髄彦は主要な幹部たちを集めて緊急会議を開いた。焚き火を囲みながら、彼らは敵の脅威について議論を始めた。
シノノメが地図を広げ、防衛計画を説明する。
「敵軍は圧倒的な数で攻めてくると予想されます。こちらの300で持ちこたえるには、地形を最大限に活用し、敵を分断する戦術が必要です。」
おゴロが頷きながら提案する。
「柵をさらに強化し、村の中央部に罠を設置するべきだ。時間を稼げれば、敵の士気を削ぐことができる。」
しかし、彼らの議論の中で、ヤタの姿だけが見当たらなかった。
その頃、ヤタは密かに村を抜け出し、森の奥深くへと歩いていた。彼の目には、怯えと焦りが浮かんでいた。
(1500対300……こんな数の違いでは、村は持ちこたえられない。)
ヤタの頭には、村が炎に包まれる未来が鮮明に浮かんでいた。そして彼は、ある決断を下した。
イワレビコ陣営では、幕営の中で戦略会議が進められていた。長兄イツセが地図を指差しながら説明を続ける。
「タカナハラは北側が最も防御が堅い。だが、南側は地形的に防御が甘い。そこを攻めれば、短期決戦に持ち込めるだろう。」
次兄のアツヒコが補足する。
「だが、南側は狭い道が続いている。進軍が遅れれば、敵の罠にはまる危険性もある。」
三兄のミワヒコが反論する。
「それでも数で押せば突破できるだろう。我々の兵士が5倍いるのだからな。」
その議論の最中、ヤタが敵陣に到着した。
ヤタは緊張した表情でイワレビコの前に跪いた。
「私はタカナハラの村から来た者です。話があります。」
イワレビコは冷たい視線を向けながら問いかけた。
「何の用だ?」
ヤタは震える声で続けた。
「私は……村が滅ぶ運命にあると判断しました。私の知る情報を提供します。その代わり、命を助けてください。」
イワレビコは静かに頷き、ヤタを立たせた。
「話を聞こう。お前の情報次第で、命を助けるかどうか決める。」
ヤタは村の防衛策や柵の配置、兵士の配置などを詳しく語り始めた。その情報を聞いたイワレビコは満足げに頷き、命令を下した。
「よし、お前は今から我々の案内役だ。戦が終われば、お前の命は保証しよう。」
翌朝、村ではヤタの不在に気づいた長髄彦が顔を曇らせていた。
「ヤタの姿が見えない……嫌な予感がする。」
シノノメがその言葉に同意した。
「もし裏切り者が出たとすれば、敵の進軍はさらに早まるでしょう。」
その言葉が現実となる日は、すぐそこに迫っていた。
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