第1話:長髄彦の村
朝靄が立ち込めるタカナハラの平野。村は静かな目覚めを迎えていた。畑の土を踏みしめる音、鍛冶場から響く金属の音、そして村人たちの穏やかな話し声が、日常の始まりを告げている。
村を見下ろす丘の上に立つのは長髄彦。40代後半という年齢だが、精悍な顔立ちと広い肩幅が、彼の長年の鍛錬を物語っている。村を治める領主である彼は、早朝から村の見回りを始めていた。
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「ナガちゃん、今日は稲の手入れを頼むぞ!」
鍛冶職人のタカリが笑いながら声をかける。
「おいおい、俺は領主だぞ。そんな雑用ばかり押し付けるな。」
長髄彦は苦笑しながら答えるが、その手にはすでに鍬が握られている。
村では領主といえども特別扱いされることはない。長髄彦は自ら村人たちと共に働き、汗を流して暮らしを守る存在だった。それが村人たちからの絶大な信頼を得る理由でもあった。
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広場では、村の若者たちが木製の槍を持ち、訓練をしている。その中には、おゴロの姿があった。50代の軍事指導者でありながら、今もなお自ら槍を振り、若者たちを鍛える熱血漢だ。
「おい、もっと腰を落とせ!槍は腕力じゃなく、体全体で使うもんだ!」
彼の指導に若者たちは息を切らせながらもついていこうとしている。その様子を見ていたタケツナ、20代の控えめな青年であり、おゴロの息子でもある彼は静かにその光景を見つめていた。
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長髄彦が訓練場に足を運ぶと、おゴロが気づいて笑顔を向けた。
「ナガちゃん、見てくれ。この若い連中もなかなかやるもんだろう?」
「確かに。だが、お前の方が気合いが入りすぎだ。」
長髄彦がそう言うと、おゴロは照れ隠しに槍を振り回して見せた。
その横で、タケツナが一歩前に進み出た。
「父上、無理をするなと母上が言っていました。」
おゴロは苦笑しながら息子を見た。
「タケツナ、お前も少しは体を鍛えろ。頭だけじゃ戦場は生き残れないぞ。」
「僕は、父上の背中を見て学んでいます。」
タケツナの言葉には揺るぎない誠実さがあり、その場を温かい雰囲気で包んだ。
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昼を過ぎると、村の会議が始まった。長髄彦、シノノメ、おゴロ、そして村の長老たちが集まり、今後の方針を話し合う。
シノノメは地図を広げながら語り始めた。
「次の襲撃に備えるため、防衛設備を強化する必要があります。木柵の補修は進んでいますが、石垣の設置も検討すべきです。」
おゴロが腕を組みながら応じた。
「石垣か……それには時間と労力がかかる。だが、今やらなければ間に合わないだろう。」
長髄彦は真剣な表情で二人の意見を聞き、村全体の状況を思い描いていた。
「よし、石垣の計画を進めよう。タケツナ、作業の指揮を頼む。」
タケツナは驚きながらも頷いた。
「分かりました。僕にできる限りのことをします。」
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夜、村の広場では焚き火が焚かれ、村人たちが集まっていた。子供たちの笑い声や大人たちの笑顔が広がり、平和な時間が流れている。
長髄彦はトワノハと共にその光景を眺めながら言った。
「この村の平和を守るためなら、俺はどんなことでもする。」
トワノハは彼の隣で微笑み、静かに答えた。
「私たちも同じよ。みんなあなたと一緒に戦う覚悟ができているわ。」
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星空の下で、長髄彦は静かに目を閉じた。この村には守るべきものがあり、そのために彼は戦うことを決めていた。そして、その想いは村全体の絆となり、彼らを支えていた。
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