華燭の典
3月20日(日曜日)、先勝。
先週の13日は大安だったが、予約出来なかった。
先勝は大安、友引の次に縁起が良いと言われていて、午前中は「吉」とされている。
お義父様は「大安やったら良かったんやけどなぁ…。」と何度も仰っていた。
お義母様は体調を整えて来て下さる。
父と母は、私と一緒の予定である。
お仲人さんは、当初、係長にお願いしていたが、係長より「本社の岡崎課長にお願いした方がええよ。これからのことを考えて、二人を知ってくれているし、本社の課長やし。」というアドバイスをして頂いたので、本社で彼の上司である岡崎課長ご夫妻にお願いした。
大変喜んでくださって…受けて下さった。
結納の日が決まった時に、お義父様、お義母様から「簡単な結納に!」との提案で、それは両親も喜んでくれて、お仲人さんには挙式当日だけお願いすることになった。
結納金は末広がりの意味を持つ80万円で、指輪はダイヤの指輪だった。
お仲人さんではなく、その役目を全てお義父様がして下さった。
本来は女性側がお返しをしなくても良いのだが、私は何か普段使える物を渡したかった。
それで、定期券入れとキーケースを買っていた。
それを結納の最後に渡したら、彼は凄く喜んでくれた。
そして、3月30日(日曜日)。
今日、華燭の典を迎えた。
起きて直ぐに気がかりだったのは、お天気だった。
窓から外を見ると晴れた青空が広がっていた。
花嫁は一番早く起きなければならない。
お義母様のご配慮で、山田の家から花嫁衣装を着て出ることになっていた。
前夜から弟夫婦も来ている。
狭い府営住宅の一室で、私は段々と花嫁になっていく。
襖が開けられて、美容師さんが「お仕度整いました。」と告げると、両親と弟夫婦が入って来た。
椅子に座っていた私は、椅子から立ち上がり、そして、ゆっくり正座した。
直ぐに美容師さんが裾を整えて下さった。
白無垢綿帽子の姿で両親を前に三つ指ついて、ゆっくり話した。
「お父さん、お母さん、育ててくださってありがとうございました。
浩子は今日、川口秀樹さんの元に嫁ぎます。
お父さんとお母さんみたいな夫婦になれるように努めます。
これからも、見守って下さい。お願いします。」
「浩子……ありがとう。育てさせてくれて……
ホンマにありがとう。ありがとう。」
「浩子……体に気ぃつけなはれや。元気やったら何でも出来る。」
「うん。」
「姉ちゃん、綺麗やで。」
「幸ちゃん、おおきに。」
「お義姉さん、そない泣いたら、またお化粧せなアカンですよ。」
「そやね。ありがとう。愛ちゃん。」
直ぐに美容師さんが化粧を直してくれた。
そして、玄関のチャイムが鳴った。
玄関に配されていたスタッフが確認して開けると、車の運転手さんだった。
大きな声で、「お迎えに参りました。」と……。
その声を聞いた美容師さんが「お時間でございます。」と言って、私の手を取り歩き始めた。
狭い府営上宅から、文金高島田で白無垢綿帽子の花嫁が旅立って行く。
その先には愛する男性が待っている。
特別なタクシーが扉を開けて、そして屋根の一部を跳ね上げて、花嫁の私を迎え入れてくれた。
両親と弟夫婦は別のタクシーに乗り込んだ。
⦅待ってくれてはる。天満の天神さんで……。
今日、私は川口秀樹の妻になるんやな……
生まれてきて……良かった……好きな人と一緒になれるなんて思わへんかった。
……なんもない人生なんかあらへんから……
きっと、辛いことも悲しいことも待ってるやろね。
けど、二人で乗り越えたい。一人で無理なことでも二人やったら……
そんな夫婦になりたいなぁ……乗り越えた先に……もっと絆が強くなるような
そんな夫婦に…二人で…手を取り合って…なりたいなぁ……。⦆
花嫁を乗せたタクシーは、花婿の元へと走って行った。
新郎新婦の夢と愛も乗せて……。




