表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同い年  作者: yukko
78/81

お茶会

親族が一堂に会した場所で恥をかかせて与え得る限りの罵詈雑言を投げつける予定なのだと、川口のお母様は仰った。

川口のお父様は此度で全てを終わらせると決意されていた。

ひーくんが自分を責めていた。

「必ず守り切ると言ったけれど、何も出来ていない。」と……。

川口のお母様からは、お電話を頂戴した。

「当日は指定時間の1時間前までに着いた方が良い。」と……。

理由は「時間を1時間遅く伝えている可能性が高いから。」と、お母様の時が遅く伝えられていたからだそうです。


「あの方達は1時間も遅れるような女性では相応しくない!というために、正しい

 時間を教えて貰えへんかった。同じことをすると思います。

 早う、行ってください。」

「はい! ありがとうございます。

 あの……お母様、お身体は如何ですか?」

「大丈夫です。ありがとう。では………失礼します。」

「はい。」


お母様は「失礼します。」と仰って直ぐに電話を切られた。

私はまだお話したかった。



当日を迎えた。

私はお母様から受け取った着物を着て、予定時間の1時間30分前に到着していた。


「ロコ、僕が傍におる。」

「うん。」


繋いだ手から温かい気持ちが流れ込んでくる。

⦅大丈夫。一人やないもん。⦆と思うことが出来る。

二人で待っていると、川口家の親族が続々とやって来た。


「なんで? 秀樹が居るの?」

「僕の婚約者ですから! 大切な婚約者です。

 彼女がいる場所に僕が居るのは当たり前ですよ。

 それとも、何か?」

「…………。」


最初に聞いていた時間より1時間前には全ての親族が揃ったようだった。


「母が言ってた通りやったね。」

「ホンマに……お母様にはありがとうってお伝えしてね。」

「それは、全て終わってからや。」

「うん。」

「まだ、終わってないんやから。」

「うん。」


紅葉を愛でながらのお茶会。

何も画策されていなければ美しい景色の中でのお茶会だったのだろう。

でも、最初の2つは回避できた。

「時間に遅れなかったこと」と、「着物」である。

誰もが知っている秀樹の祖母が仕立てた着物に文句を言えない。

そして、3つ目も回避できた。

最低限の作法を教えて貰っていたから、「全く出来ない嫁」ではなくなったのだった。

次は、どんな手を考えて仕掛けてくるのだろう。

そう思いながら座っていると、場の空気が変わった。

騒めき始めたのだ。

声がした。


「大変お待たせ致しました。

 遅くなり申し訳ございません。

 皆様、お久し振りでございます。

 お元気でいらっしゃいましたか?」

「なんで、貴女がここに……。」

「我が川口家の大切な嫁が初めてのお茶会に招かれたと伺いましたよって、

 参りました。」

「………貴女! もう家を出たんやなかったの?」

「はい。出ました。」

「家を出た女のくせに、我が川口家ってけったいやなぁ……。

 なぁ、皆さん、そない思わはるでしょう。」

「ほんに、ほんに!」

「出て行った方はご遠慮願いたいですわ。関係あらへんやおまへんか!」

「出て行きましたけれども、それは家を秀樹夫婦に委ねるためでございます。」

「なんやて!」

「それに、川口家をお出にならはったんは、叔母様の方が早うございましたね。

 もう、嫁がはって何年になられます?

 うちが嫁いだ頃には……確か……。」

「何言うてんの! 川口惣兵衛の娘やよ。私は……。

 貴女とは違うのや。どこの馬の骨か分からん貴女とはね。ホホホ……。」


お母様の身体は震えていた。

前で重ねられている手の震えが遠くから見ていて分かるほどだった。


⦅もう止めて! お母様、もう止めて!⦆


お母様の傍に行こうと立ち上がろうとした私を制したのは、川口のお父様だった。


「皆さん、お待たせしてしまいましたね。」

「なんで、貴方まで!」

「叔母様、お久し振りですね。

 今、聞こえた言葉はどなたさんのお言葉だったんですやろ?

 まさか、私の妻を冒涜するようなこと、親族の皆さんが仰いませんよねぇ。」

「…………。」

「妻は今までしっかり川口家を守ってくれました。

 私を支えてくれたからこそ、私は仕事に邁進出来ましたんや。」


お父様はお母様の肩を抱き寄せて尚も続けられたのです。


「今日のお茶会のことを、どなたさんも私と秀樹には話されずに

 直接、ご連絡下さったのは、どなたさんですか?」

「僕からも伺います。

 仕事してる彼女の会社に電話なさったのは、どなたさんですか?」

「先ほどから川口家、川口家と仰っておいでですが……

 私たち家族以外に川口家は見渡す限りには おらん!

 皆さん、ご自分の苗字をお忘れにならはったんですか?

 川口の分家も、もう絶えて久しい。

 今の親族で川口家というのは、私たち家族だけです。」

「………私は、川口惣兵衛の……。」

「そうや! 娘や。ただ、それだけや。

 もう叔母様は嫁がれて別のお家の方や。」

「なんちゅうことを……。」

「私の妻が嫁いで川口になって旧姓ではなくなったんと同じです。

 叔母様と妻は同じ、ある家の嫁 なだけでおます。

 もう、止めましょ。こないな不毛なこと……。」

「僕からはお伝えします。

 僕の挙式披露宴に、この場においでの方々をご招待致しません。

 僕はお付き合いを止めさせて頂きます。

 ご承知おきください。

 それは、弟たちも同じです。」

「そ……そんな………。」

「さぁ、お茶会はお開きに致しましょう。

 お帰りのほど……。」


一人、一人席を立ち、出口に向かって行く。

その歩みは来た時のように意気揚々としたものではなかった。

トボトボと……心もとない足元で去っていったのだ。


お母様の様子が変になった。

震える手でお母様は着物の袖からビニール袋を取り出して口に当てた。

私は何も出来ずに、お母様が楽になられることを祈るしかなかった。

お父様はお母様を抱きしめて、何度も名前を呼ばれていた。

後から、お母様があんな風になることを見たのは初めてだったと聞いた。

そして、それが過呼吸だったと聞いたのだ。


お母様が初めてお茶会に招かれた時は、新婚旅行から帰って来た翌日だったそうだ。

お祖母様に行くよう言われたのが当日。

時間を1時間早く伝えたのもお祖母様。

逃げることも出来なかったのだろうと思う。

お茶会とは露知らず、スーツを着て行ったお母様は冒頭から激しい暴言を浴び、茶道の作法を知らなかったが故に、冒涜は最後まで続いたそうだった。

お祖母様は……息子を嫁に取られたと言って日常的に辛く当たったそうだ。


このお茶会の後、お母様はお父様に「秀樹の挙式の後、離婚してください。」と泣いて訴えられたそうだ。

お母様の苦しみを知りつつも、まだ高校生の学君が心配だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ