勝子おばちゃん
弟の結婚式の後、勝子おばちゃんが私に話しかけた。
「浩子ちゃん、ホンマにおめでとうさん。」
「ありがとう。おばちゃん。」
「これで、いつお迎えが来てもええわ。」
「もお! そんなこと言わんといて!って言うたやん。」
「気が気やなかったんや。」
「なんで?」
「そやかて、あんた、弟の結婚が先に決まってしもうて……
弟の結婚式に独身で姉が出るやなんて…嫌なこと言う人もおるやんか。
浩子ちゃんの耳には入れとうないわ。」
「おばちゃん、ありがとう。」
「肩身が狭もうなかったから、良かったな。」
「肩身って……狭もうないよ。」
「それは、かわさき?」
「おばちゃん、川口君!」
「そや! その川口君が居てくれはってホンマに良かった。
浩子ちゃん、あんたに言うとくわ。」
「はい。」
「あの兄弟たちと縁をきっぱり切りはなれ。あんたらの代では……。
あの子ら、お人好し過ぎて心配や。」
「あの時、おばちゃん怒ってくれたんやったね。」
「そんなん当たり前やん。
親の介護をした者がなんで財産を受け取られへんねん!」
「けど、法律ではね……。」
「法律は分からへん! けど、血が通うた人間のすることやない。
家を出させてまでお金作れって……。
怒ったのは終わった後やった。役に立たん叔母やったんや。」
「おばちゃん、怒ってくれただけで十分やわ。」
「そやからな、また、なんぞ言うて来ても知らん振りしぃや。
あの子らには出来へんと思うさかい。
浩子ちゃん、頼むわな。」
「……はい。」
「もう、おばちゃんは、おらんようになってると思うさかい。
あんたに頼んどくわ。」
「おばちゃん……。」
「ええお嫁さんになるんやで。大事にしたら大事にして貰えます。」
「はい。」
「ほな、さいなら。」
「さいなら。」
父の叔母・勝子は祖父の末妹で、今の山田の親族で一番年長者。
親族への影響力は大きい。
今更だが、祖父母が亡くなった後の揉め事も、もしかしたら……と思ってしまう。
同居は本当に大変だ。
祖父母と母との間には何も無かったように娘の私からは見える。
でも、何も無かったとは言い切れないと思った。
川口のお母様のように懸命に一人で耐えていたとすれば……あ! それは無いかもしれない。
母は父に何でも言っている。
何も無かったとしても、最後は醜い諍いの渦中に置かれてしまった。
同居さえしていなければ、母はあの嫌な日々を送ることもなく、家を追い出されることも無かった。
何もしなかった子どもや親戚が権利を主張するのが醜く見えた。
私は?
同居はしないけれども……あの川口家の嫁になる。
私のことは「玉の輿」と呼ばれるのだろう。
けれども、それって幸せなのだろうか?
川口のお母様のことを思い出す度に、「玉の輿」は女の幸せではないと思うようになった。
そういえば……確か、勝子おばちゃんも同居の嫁。
もしかしたら、酷い嫁いびりを経験したのかもしれない。
別居だけれども、不安は消えないままだった。




