顔合わせ
両家の顔合わせの日がやってきた。
朝から浩子は緊張していた。
そして、それは両親も同じだった。
弟の婚約者・愛子も同席する。
弟は朝から婚約者を迎えに行き戻ってきた。
「おはようございます。
お義姉さん、ご婚約おめでとうございます。」
「ありがとう。今日はごめんね。
挙式前で忙しいのに……。」
「いいえ、そんなこと……
お義姉さんの婚約は私も嬉しいから……
もう家族と思って貰えて呼んで貰えるなんて……
嬉しいです。」
「ホンマにありがとう。」
「用意はええか?」
「はい。愛子さん、ホンマにおおきに。
浩子のために来てくれて……。」
「そんなぁ~、当たり前ですよ。」
「そんなこと、あらへんの、え。
当たり前やないと思うてます。
ホンマにおおきに。」
「お義母さん……。」
「愛子さん、おおきに。」
「お義父さん……。」
「ほな、行で。」
「父さん、急かせすぎや。」
「否、遅れるよりも早よ着く方がええに決またあるやないか。
浩子の舅、姑になる方に会うんやで。
印象が悪うなったら、浩子が可哀想や。
愛子さん、急かして悪いけどな。
車に乗って、僕の車に……。」
「はい!」
「戸締りはええか?」
「はい。お父ちゃん。」
「ほな、早よ。車に乗って! 行で。」
「はい。」
父も緊張しているようだった。
そういえば、愛子さんのご家族との顔合わせの時も緊張していた父の背中を見ていた浩子だった。
そんな緊張している父の隣で、母は笑みを絶やさずに父に寄り添っていた。
あの日と同じ光景を浩子は目にしている。
高速道路を使ったからか…思ったよりも早く、車は秀樹の家に着いた。
大きな洋館で浩子だけではなく家族全員が驚いた。
この辺一帯は裕福な方のお住まいばかりだとは知っていたが、こんなに大きなお宅とは思わなかった。
急に浩子の心の中で「私では釣り合わない。」という思いが膨れ上がった。
怖くなったのである。足が竦んだ。
浩子の様子に気付いた父が言葉を掛ける。
「浩子、大丈夫や。
大事に育てた娘や。どこに出してもお父ちゃんは自信がある。
大丈夫やからな。心を強う持って、ええな。」
「うん。」
父の言葉に涙が出てしまった。
「今から泣いとって、どないするんや。浩子……。
折角の別嬪さんがわやや。」
「そや! 普通の姉ちゃんが繕うて、やっと別嬪さん擬きになれたのに!」
「幸ちゃん……。」
「さぁ、浩子、待ってくれてはるよ。川口さんが……。
胸張りなはれ。あんたはお父ちゃんとお母ちゃんの娘なんや。」
「はい。……ほな…ピンポン押します。」
「うん。」
浩子がインターホンを押そうとした時、大きな門に走って近づいた人影が見えた。
「ロコ!」という声で誰なのか分かった。
大きな門が開いて、敷地内へ招き入れられた。
秀樹は嬉しそうだった。
「ありがとうございます。
皆様に来て頂けてホンマに嬉しいです。」
「お招き下さり誠にありがとうございます。」
「お父さん、畏まった挨拶は後程で。今は僕一人ですから……。」
「そうですね。ほなら、今だけは……。
大きなご自宅なのでビックリしましたわ。
こんなお宅のご子息と娘との縁は有り得えへんことですわ。」
「お父さん?」
「場合によっては、白紙も考えておりますので……。」
「いや……あの…僕は家の大きさとは無関係です。」
「それは無理でっしゃろなぁ……。
まぁ、そうならん事を祈るばかりですわ。」
「お父ちゃん!……川口さん、ホンマに済みません。」
「……いいえ。僕が至らんだけやと思います。
白紙にならんように致します。
………こちらへ、どうぞ。」
秀樹の邸宅は大きな門から玄関までも長かった。
玄関に入ると、お手伝いさんが二名居て「いらっしゃいませ。」と頭を下げた。
まるで百貨店の店員さんのような綺麗なお辞儀だった。
秀樹に導かれるままに応接室に入った。
暖炉がある見たこともない部屋だった。
⦅暖炉がある家ってあったんや。テレビのドラマだけやと思うてたわ。⦆と浩子は思った。
より一層、足が竦んだ。
ここまでも歩いているのかどうか定かではなかったが、今は足を前に出せないような感覚になっていた。
父は⦅これは、不味いな。うちとは無縁の世界や。浩子……白紙にするかもしれんで。場合によっては……。⦆と思い、兜の緒を締めた。
浩子たちを見た秀樹の父はソファーに座るよう促した。
そして、両家の顔合わせが始まった。
わや……すっかり台無しという意味の大阪弁。




