ひでくん
土曜日は川口君が出勤で、私は休日だった。
休日だけど、仕事は山ほど残っている。
出社したかったが、係長に止められた。
「ゆっくり休みなさい。身体が資本やからな。
補充はもうすぐ決まる。
それまで、あと少し……申し訳ない。」
「係長。この事の発端は私ですので……。
頑張ります。
お気に掛けて頂き、ありがとうございます。」
「山田さん、発端は僕やからな。君やない。それだけは間違えんといてや。」
「係長………ありがとうございます。」
土曜日に川口君から電話が架かってきた。
川口君の友人夫婦と京都で会うことになったと知らされた。
「大学の時のお友達?」
「うん。悪い。ホンマ、ごめんな。勝手に決めてもうて……。」
「そんなこと、なんでもあらへんわ。」
「ほうか………ほな、良かった。」
「なんか緊張してきたわ。」
「緊張なんかせんでもエエよ。
………それよりも、ロコ、ご挨拶に伺いたいんやけど……。」
「ご挨拶?」
「うん。結婚を許して貰うためや。」
「結婚?」⦅えっ? えっ? ええ―――っ。⦆
「うん。…………えっ?………もしかしたら分かってへんかった?」
「結婚って……。けっこん……。私と?」⦅私で ええのん?⦆
「分かってへんかったんやぁ!
言うたよね。僕……好きやって告白した時に!」⦅はぁ~~~っ。⦆
「えっ?……そ…やった?」⦅好きって言われただけで、いっぱいやった。⦆
「そやったです! もお! しゃーない。も一遍言うさかい。
……ロコ、僕と結婚してください。」⦅二遍も言わなアカンとは………。⦆
「まだ付き合って間がないのに?」
「付き合ってからは短いけど、知り合ってからは……2年間も一緒に居たんやで。
どんな子か分かってるさかい。早うないと思う。
僕も4月で25歳になったし……ロコも来年の3月には25歳になるんや。
出来たらロコが24歳のうちに結婚…………急ぎすぎかな?」
「……ありがとう。嬉しい。」
「ほな、急かせるけど、明日ご挨拶に伺うわ。
友人と会うのは、その後や。せや、無しにしてもええ。」
「無しはアカンのと違う?」
「ええ―――っ。別に会わんでもエエんやけどぉ。」
「私はお会いしたいわ。お会いして私の知らへん川口君を教えて貰えたら……
嬉しいなぁ……思うねん。」
「そ……それやったら、ええわ。
……ほんで……川口君やて? 今、川口君って言うたよな。」
「あっ!………ごめんなさい。」
「ごめんなさいぃ? ごめんなさいよりも別の呼び方! さぁ早う。」
「……ひ…………く………ん。」⦅恥ずかしい……秀君って言えたよね。⦆
「ひーくん? 今、ひーくんって呼んでくれたよな。」⦅嬉しいなぁ。⦆
「ひーくん?」⦅えっ? 秀君って呼んだはず……やねんけど?⦆
「うん。ひーくんってこれから呼んでくれるんやな。
ありがとう。誰にも呼ばれてへん呼び方や。嬉しい。」⦅ええなぁ。⦆
「……うん。」⦅ひーくん……に、なってもた。これから、ひーくん……。⦆
日曜日は忙しい1日になるだろう。
午前中に川口君は家に来る。
両親に結婚の許しを得ると言う。
その後、友人夫婦に会うため京都駅へ行くことになった。
京都駅で待ち合わせるのは、友人夫婦が京都から新幹線で東京へ帰るからだということだった。
今からドキドキしている。
両親はなんと言うのだろう?
不安が募ってきた。




