主任
もうすぐ退職する内山先輩にしか相談できなかった。
弥生ちゃんが言っている意味が解らなかったのもある。
屋上でベンチに座って、先輩とお昼休みにジュースを飲んだ。
その時に主任のことを話した。
小さな声で誰にも聞かれないように……。
「先輩、あの……主任のことですけど………。」
「うん。何?」
「弥生ちゃんが……後ろから急に抱き上げられるの嫌やって言うてて……。」
「うん。」
「それで……弥生ちゃんは股間を当ててるって言うてます。」
「うん。当ててる。」
「えっ? そうなんですか?」
「分からへんかった?」
「はい。」
「あの主任、固くなった股間をお尻にわざと当ててはるねん。」
「?……あの、それって何でですか?」
「えっ?……浩ちゃん、男の人と付き合ったこと……。」
「ないですけど。」
「ない! そうやった。無かったんや……分からへんわな……。」
「先輩?」
「なんて説明したらエエのやろ……。
痴漢や! 痴漢! それと同じなんや。」
「主任は会社で痴漢してるんですか?」
「早よ言うたら、そのままや。」
「どないしましょ? 弥生ちゃん、絶対に嫌やって……
私も怖なりました。」
「どないも出来へんねん。訴えるとこ無いさかい。」
「………弥生ちゃん……田口君も嫌やと思います。」
「誰もエエと思わへんわ。うちの主人も同じやで。」
「そうですよね。……どないしよ。」
「ちょっと考えるわ。」
「お願いします。」
給湯室で次に抱き上げられたら私は大声で「きゃぁっ!」と叫ぶことにした。
やらねば!と心に決めた。
内山先輩は別の方法を選んだ。
「川口君、今日、帰りに少し話があるねん。」
「えっ? 大胆ですね。人妻が……。」
「うちの人にはもう話してる。
途中になるけど、来るから!」
「そうですか。お付き合いします。」
「頼むわね。」
そして、主任のことを内山先輩はご主人と一緒に川口君に話したのだ。