返事
駅に父は居なかった。
そのまま川口君は家まで送ってくれた。
家までの歩いている間、何を話して良いのか分からなかった。
家の前に着いた時、「ここ……なの。」と言うと、「えっ……早かった。もっと、ゆっくり歩いたら良かったなぁ。」と川口君は言った。
もっと、ゆっくり歩いて帰ったら良かったと言ってくれて嬉しかった。
同じ気持ちだったから……嬉しかった。そして、離れがたい気持ちが押し寄せてきた。
「ここで……お別れか……。もっと……。
……電話して、ええか?」
「……う…ん。」
「ほなら、電話する。」
「うん。」
「あの、な。……返事やねんけど……。」
「へんじ……。」
「うん。……あの……今は……無理……やな。」
「今………。」
「うん。付き合って欲しいから、このままドキドキするのは……
ちょっと辛いな。」
「へんじ?」
「うん。……アカンのやったら、いま返事せんでもエエ!」
「ホンマに、私でええの?」
「ええに決まったある。山田さんしか考えられへんのや。
そやから……付き合ってください、言うたんや。」
「ありがとう。」
「…うん。……!……ありがとう!ってことは、OKってこと?」
コクリと頷いた。
それを見た川口君は「よっしゃー!」と大きな声で言った。
すると、玄関ドアが開いて父が出てきた。
「あ!……夜分遅くに大きな声を出してしまいました。
申し訳ございません。」
「君!………今日も娘を送って下さったんですね。
ありがとうございます。」
「まぁ、まぁ……娘が大変お世話になりまして、ありがとうございます。」
「お母さん……あの、こちらは川口秀樹さんです。」
「初めまして。川口秀樹でございます。
遅くなり申し訳ございません。」
「こちらこそ、遠いのにわざわざ送って下さってありがとうございます。」
「誰々?………あっ!」
「幸ちゃん、あっ!は失礼やよ。」
「ごめん。……済みません。」
「いいえ。こちらは、弟さん?」
「うん。弟です。」
「姉ちゃん……もしかして……彼氏?」
「幸ちゃん!」
「幸一郎! お前は黙ってなさい。
申し訳ありません。
今年、社会人になったんですが、まだまだ学生気分が抜けていないようです。
失礼な息子で申し訳ございません。」
「いいえ、謝って頂かなくても………。
僕は浩子さんに好意を持っております。
今日、やっと付き合って頂くこと、浩子さんの同意を得られました。
驚かれたことと存じます。僕にこんなことを告げられて……。
僕は将来を考えております。
ですので、不安ではございましょうが………
何卒、浩子さんとの交際を認めて頂きたく存じます。
お願い致します。」
「やったぁー! 姉ちゃん、おめでとう!」
「幸一郎!」
「お父ちゃん、玄関先でお話して頂くより中に入って頂いた方が……
どない?」
「……お母ちゃんがそない言うなら……。
中に入って貰え。浩子……。」
「お父さん。」
「さぁさぁ、どうぞ中に入って下さい。散らかってますけど……。
どうぞ、どうぞ!」
「では、お言葉に甘えさせて頂きます。」
「浩子、あんた何突っ立てるん?
早よ、家の中に入って貰いなはれ。」
「うん。……川口君、入って。」
「うん。ありがとう。」
山田家は賑やかな夜になった。
その中で父だけが寂しそうだった。
その傍で微笑みながら父に寄り添う母の姿があった。




