祇園さん
京都の祇園祭を京都の人たちは「祇園さん」と呼んでいる。
親しみが込められている呼び方だ。
祭りは7月1日から31日まで続く。
山鉾巡行はテレビのニュースで映像が流れる。
その祇園祭の宵山に行くことに決めて、川口秀樹には山本が電話で伝えた。
金沢は山田浩子と田口弥生、そして、退職した内山厚子に伝えた。
子どもはそれぞれの妻の実家に預けて、久し振りに夫婦だけの時間を持つことにした。
そして、退職する田口弥生との思い出を作る時間でもある。
川口秀樹が来ることを知らないのは、山田浩子だけである。
そして、その意図を知らないのも山田浩子だけなのだ。
自宅の電話で山本から聞いた川口秀樹は喜んだ。
山本に「ありがとうございます。祇園さんの時には……。」と伝え、山本は「頑張れよ!」と、自身の胸のワクワクを隠して言った。
そして、祇園さんの宵山の日になった。
その日は、残業をしないようにした。
支社から京都に向かうメンバーは、一緒に会社を出て、国鉄・京都駅で待つ妻たちと合流した。
そして、その京都駅には内山厚子夫婦も待っていた。
妻たちと内山厚子は示し合わせて浴衣を着ていた。
浴衣を着て団扇を手にしている姿は、京都の夏にピッタリだ。
合流してから金沢が予約した店に向かった。
金沢が「屋台で食べるのもええけど、人が多いからな。先に軽く食べとこか。」と提案したからだ。
吉田が「なんや。遠足みたいやな。」と言うと、小野も山本も同意した。
「楽しかったらええなぁ。」と金沢が言うと、「楽しないわけないですよ。こんな綺麗な妻と一緒に回れるんですから…。」と山本は嬉しそうに言った。
「内山さん、会えて嬉しいです。」
「私もやよ。元気やった? 二人とも…。」
「元気でした。」
「はい。元気です。」
「弥生ちゃん、もうお母さんになるんやねぇ。」
「はい。」
頬を染めて俯いた田口弥生の隣で夫が嬉しそうに言ったのだ。
「ありがとうございます。
無事に妊娠期間中、通勤出来、仕事も……。
係の方々のお陰です。」
「そんなことは、当たり前田のクラッカー。」
「古いわ。」
笑顔が満ち溢れている部屋に入ってきた人が居た。
「済みません。遅なりました。」
「おお! 川ぐっちゃん! 待ちかねたで。」
「お久し振りです。川口君。」
「お久し振りです。内山さん。」
「川口君、こちらは山本君の奥さん。
そして…………。」
⦅えっ? なんで? なんで来たん?⦆
それぞれの妻たちを紹介しているその時、一人、山田浩子だけが来るはずのない人の登場でパニックになっていた。




