依頼
西川主任が山田浩子を呼んだ。
就業時間内なのに、食堂で話をしたいと言う。
食べている人は居なくて、居るのは食堂で働いている人だけだった。
「西川主任、お呼びですか?」
「山田ちゃん、悪いな。呼び出して。」
「いいえ。それで何かありました?」
「あのな、新人さんのことやねんけどな。」
「はい。」
「あの子、山田ちゃんと田口さんに仕事押し付けてるように見えるんや。
どないなんや?」
「そんなことはありません。
済みません。余分なことを……お気に掛けて頂きありがとうございます。」
「山田ちゃん、押し付けは無いんやな。」
「はい。」
「ほんなら、なんでなんや?
あの子、お茶を出す時にわざわざ呼びに行ってるやろ。
山田ちゃんか田口さんを…。」
「……はい。」
「それは、なんでや? 分かるか?」
「あの……お当番やからです。」
「お当番?」
「お茶当番やから、呼びに来てくれはります。」
「それ、ホンマか?」
「はい。本人が毎回言いますよって……。」
「それをしてエエと言うたんか?」
「いいえ。」
「何も言うてないんか?」
「はい。」
「山田ちゃん、嫌なこと言うけどな。
今は山田ちゃんが係の女子社員で最年長や。
導くのが山田ちゃんの立場やで。」
「はい。」
「もう導いてくれる先輩はおらん。
山田ちゃんが導くんや。
そやから、一遍、ゆっくりお茶の意味を教えてやって、な。
頼むわ。」
「はい。」
「山田ちゃんでアカンかったら僕から話すさかい。」
「そんなこと、主任に話して頂くのは申し訳ないです。」
「いや、相手さんによってはな……僕の方からがエエかもしれん。
けど、一遍だけ山田ちゃんから話したってや。
女の子同士の方がええかもしれんから……。
嫌な役割を頼むけど、山田ちゃん、頼むわな。」
「はい。」
西川主任は頭を下げて「頼むわな。」と言った。
山田浩子は出来るとは思えなかったが、やるしかなかった。




