社内便
夜遅かったが、どうしても電話を架けたかった。
でも、お父さんが最初に出たら困るのではないかと思った。
山田さんが困るだろうから諦めた。
もう一人、否、4人に「ありがとうございました。」と伝えたかった。
それも、夜分遅くの電話は無礼だと思い、電話を架けなかった。
明日の朝、支社に電話を架ける……いいや、止めておこう。
あの子が居る。
もし、あの佐藤さんが電話に出たら面倒だ。
どうする……。
そうだ! 手紙を書こう。
本社から社内便で送ろう。
仕事の社内便を使うから、A4のコピー用紙を使おう。
書類に見せかけないと……。
ハハハっ……悪巧みしているみたいだ。
送っても良い書類を同封しておこう。
もし、覗かれても大丈夫なように……。
眠れない夜を過ごしながら考えたことを今朝、実行した。
社内便で吉田さん宛てに送った。
昼には支社に着くから、読んで貰えるだろう。
⦅吉田さん、本当にありがとうございました。⦆
社内便を吉田に渡したのは佐藤信子だった。
吉田は送付者の「川口秀樹」を見て、⦅これは、佐藤さんに読まれへんように、覗かれへんようにせなアカンな。⦆と思った。
吉田は現場に行く時に、駐車場で読んだ。
⦅あぁ~~~っ、告白出来へんかったんか……。
けど、律儀やな。お礼を書いて寄越すなんて……。
そや、これを山もっちゃん、小野ちゃん、金沢さんに回覧せなな。
あの子に見つからんように!⦆
「どないしました? 吉田君。」
「金沢さん、これ、回覧してください。」
「回覧?」
「川ぐっちゃんからです。佐藤さんに見られへんようにして下さい。」
「分かった。最終は吉田君でええな。」
「はい。お願いします。
……所で、現場ですか?」
「うん。今は設計やから現場は久し振りや。」
「ほなら、松尾君と一緒ですか?」
「せやねん。あの子は可愛いなぁ。」
「ホンマにそうですわ。」
「待たせとるさかい。行くな。」
「はい。」
⦅よっしゃー! これで現場に行けるわ。⦆
昼になって現場から帰って来た担当者たち。
昼食を食べていると、自然と集まっていた。
「吉田君。山本君。小野君。これから練らなアカンな。」
「何をですか?」
「二人を無事に……ための作戦を練るんや。」
「練りましょ。」
「勿論、全員参加ですよね。」
「勿論や。参加できるやろ? みんな。」
「はい。」
「勿論です。」
「こんな楽しいこと参加せずにはいられませんよ。」
「ほな、自販機の向かい側の休憩場所で! ええか?」
「はい。食べたら直ぐですよね。」
「当然や!」
何故だか全員テーブルの下でガッツポーズを密かにしていた。
子持ちの男性4人がワクワクしている姿は周囲の眼からどんな風に映るのか?
それを誰も考えていなかった。
社内の文書などの伝達・送付は郵便を使わずに、社内で専門の車と運転手によるものでした。
支社から支社への文書は、一旦、本社へ送られます。
そして、本社から宛先の支社に送られました。
FAXによる伝達もなされていましたが、部数が多かったり、書籍や物品は社内便を使っていました。
社内便は、メールも何もない時代のアナログの手段でした。




