今は片思い
高校を卒業して入社し、本社での研修を経て配属された部署には「カッコいい男性」は居なかった。
両親から「お前ほどの器量良しはおらんから、きっとええ男はんと出会うに決まったある。」と言われていたのに、そんな人は居ない。
心ときめく出会いは入社してもなかった。
だから、人目見た瞬間、あんなにも心ときめく出会いをするなんて…「これは、きっと運命の出会い」なのだと思った。
「大卒で本社勤務って凄い!」とも思った。
その人の名前は、川口秀樹。
その瞬間から「川口さん」しか目に入らなくなった。
今日一日だけ……というのが嫌だった。
だから、どうしても約束をしたかった。
残業するほどの仕事量ではなかったけれども、残業することにした。
残っていると先輩が五月蠅く言うのだ。
「この仕事は明日でもええねんよ。」
「いいえ、今日、終わっておきます。
先に帰って下さい。お疲れ様でした。」
そう言うと「そう。じゃあ、お先に……。気を付けて帰ってね。」って……「五月蠅い!放っておいて!」と言いたかったけど止めた。
社会人になったから止めた。
もう一人の先輩・山田さんが川口さんと距離が近いのが気になった。
⦅いや、盗ったらええねん。
あの人、可愛いないし、美人でもない。勝負はまだや。⦆
川口さんが帰るのを待った。仕事してる振りして……。
そして、帰ろうとしている川口さんに声を掛けた。
「川口さん、もうお仕事終わりですか?」
「うん。そうやけど……何か?」
「ここから駅まで遠いんです。」
「うん。そやね。」
「そやから……ご一緒させて貰えたら……思うてます。」
「駅まで一緒に帰るってこと?」
「はい! お願いします。」
「川口君。」
「はい。吉田さん、何か?」
「俺たちと約束してたよな。忘れたんかいな?」
「…………。」
「なんですの? 吉田さん。」
「悪いな。佐藤さん、今日、俺たちと飲む約束してるんや。」
「そやったら、私も入れてください。」
「駅までは俺も一緒に行けるけどな。それからは男の世界やからな。
悪いけど、遠慮してぇや。頼むわ。」
「ええ―――っ!」
「ほな、帰ろか? 川口君、佐藤さん。」
「はい。帰りましょ。」
駅まで歩いて改札口に着いてから「私もご一緒したいです。」と川口さんに言ったのに、返事をしたのは吉田さんで「悪いな。合流する奴も多いねん。今日は男だけや。山田ちゃんも、田口ちゃんも呼んでないやろ。」って……。
⦅嫌な奴!⦆って思ったけど、顔に出したらアカンから、笑顔で駅舎には入らずに、二人の後に付いていた。
三人で居酒屋に入った。
「困るなぁ……帰って欲しいんやけどな。」と言う吉田さん。
腹が立ったけど、笑顔で無視してやった。
そのうちに、山本さんもやって来た。
「あれっ? なんで?」
「そうやねん。なんでか分からんのやけど、佐藤さんが付いて来てん。」
「……へぇ~~~っ。呼ばれてないのに?」
「そやねん。」
「ええですやん。女の子が一人くらい居ても!」
「佐藤さん、もう帰ってくれへんかな?」
「なんでですの? 川口さん。」
「悪いけど、僕は君とご飯食べたくないねん。」
「そんな……。酷い!」
「ごめんな。吉田さんや山本さんと食べたいから……帰って。直ぐに!」
「佐藤さん、早よ、帰らなな。ご両親が心配されてると思うで。
俺も子どもがおるさかい。まぁ小さいけどな……。」
「そや。女の子は心配やからな。親御さんのためにもな。帰り。」
「頼むから、帰ってくれるかな? 第一、僕は君のこと知らんし。
知りたいとも思わへんから。」
「川口君、それはキツいわ。」
「酷い……酷い。知らんから知って貰いたいだけやのに……。」
「佐藤さん、ホンマに悪いけど、帰って。」
「そんな……。」
「佐藤さん、ごめんな。男だけの飲み会やからな。」
「……きっと、も一度、私に会いたいと思わはります。川口さんは……。」
そう言って店を出た。
電車に乗っている間、川口さんのことをもっと知りたいと思った。
翌日から川口さんと仲が良いと思われる人に聞きまくった。
でも、誰も教えてくれなかった。
所属先さえも教えて貰えなかった。
でも、私は諦めない。
絶対に振り向かせてみせる。




