駅の改札口
家まで送ると言った川口君。
会社の最寄りの駅から家までは乗り換えや徒歩の時間を入れて約1時間30分掛かる。
「遠いから!」と断ったけれども、同じ電車に乗って自宅の最寄りの駅に着いてしまった。
その間、仕事の話は無く、世間話に終始した。
何を話したいのか分からなかったが、恥ずかしさと嬉しさで胸がいっぱいだった。
駅に着いた時に「もうここで……。」と言うと、「家まで送らせて欲しい。」と川口君は言った。
断り切れなくて改札口を出た時に、「浩子!」と呼ぶ父の声がした。
「お父さん!」⦅電話架けてないのに迎えに来てくれたんや。⦆
「……………。」⦅お父さん?……お父さん!⦆
「浩子、電話がなかったから心配したんや。
電話は必ず架けなさい。
痴漢が出ぇへん!と………。
……浩子、そちらさんは?」
「あっ! お父さん、こちらは会社でお世話になっている川口秀樹さんです。」
「初めまして。川口秀樹でございます。
いつも山田さんにはお世話になってます。
今日は遅くまで引き止めましたので、送らせて頂きました。」
「それは……ありがとうございます。
娘がお世話になっております。
今日もわざわざ、お忙しいのにありがとうございます。」
「いいえ、僕は……。」⦅アカン! 山田さんのお父さんに何言うねん。⦆
「ほな、帰ろか。浩子。」⦅この青年はなんやねん! 家に帰ってからやな。⦆
「はい。川口君、今日はありがとうございました。」⦅ありがとう。ホンマに。⦆
「………僕こそ、ありがとう。
ほな、また……。」⦅予定外や! 想定出来なんだ。…言えへんかったなぁ。⦆
「仕事で娘がご迷惑をお掛けしていることと存じます。
何卒、よろしくお願いいたします。」
「迷惑など……僕が助けられてばかりです。」
「そう言って頂けると親として大変嬉しい思いでございます。
川口さん、おやすみなさい。ありがとうございました。
お気をつけてお帰り下さい。失礼します。
浩子、行くで。」⦅家でじっくり聞かなアカンな!⦆
「はい。お父さん。
川口君、おやすみなさい。」⦅一生の思い出になるわ。おおきに。⦆
「うん。おやすみ。
あの……おやすみなさい。……失礼します。」⦅こんなはずやなかった……。⦆
再び、改札口から駅舎に入って行った川口君を見送った。
その後姿を生涯忘れないで居たいと思った。
自宅への帰路、父は言葉もなく歩いていた。
そして、帰宅後に父から質問攻めにあったのだった。




