二人だけの食事
何故だか分からないが、川口君は少し強引に夕食に誘ってくれた。
嬉しかったけれども、二人だけということが恥ずかしく頬が熱くなるのではないかと不安だった。
自分でも気持ちに整理ができていない状態なのに、頬は熱くなり、胸は高鳴った。
⦅ヤバっ……なんか分からへんけど…知られとうない。
あぁ~~っ! 落ち着かなアカン。落ち着かな……。⦆
「イタリアンレストランやけど、エエかな?」
「どこでも……。」
店に入って、案内された席に座りメニューを見る。
緊張のあまり食べられそうになかった。
「本場イタリアではスパゲッティは前菜らしいで。」
「ええ―――っ!」
「ビックリやろ? 体のつくりが違うのかな?」
「そやね。」
「良かったぁ~。」
「何が?」
「敬語やなくなった。」⦅敬語やったら距離を感じる。⦆
「あ……。」
「おっと! そのままやで、そのまま!敬語は無しで、な。
……遅れた理由やねんけど。」
「別に……ええけど。」
「あのな。仕事やなかってん。」⦅聞いてくれよ。訳を……。⦆
「仕事やない?」
「うん。あの子、あの新入の女の子に捕まってしもうて……
なかなか離れてくれへんかったんや。
悪かったな。遅れて……。」⦅あの子のこと何とも思ってないんやで。⦆
「そんなこと、気にせんといて。」⦅なんでなんやろ? 胸が痛い。⦆
「……あの、な。5月に本社に来たやろ?」
「うん。」
「なんで言うてくれへんかったんや。言うてくれてたら……
ご飯でも一緒に…………。」⦅こんなこと言える立場やないのに……。⦆
「…わ…たしは、研修やったし……。」⦅そんな……無理や。⦆
「うん。岡崎課長から聞いた。」
「あ…の……。」
「うん?」
「話って、それ……だけ……なん?」⦅連絡せえへんかったから怒ってるん?⦆
「それだけやないよ。」⦅それだけやない。もっと大事なこと話してない。⦆
「ほな、まだあるん?」⦅まだあるん? なんか怖いなぁ…何したんやろ。私。⦆
「うん。帰り、送るから……。家まで。」⦅家まで送らせてな。頼む。⦆
「家まで! 遠いさかい。送ってもらわんでも……。」⦅もたへんわ…私。⦆
「送らせて! 遠いからこそ送らせて!」⦅断らんといてくれ! 頼む。⦆
「けど……。」⦅アカン! 今でもイッパイイッパイやのに…緊張してるのに。⦆
「今日は支社に来る前から決めてたんや。
山田さんに会えたら、ご飯一緒に食べて家まで送るって!
そやから、送る。決めてたから……。」
「………遠いから……。」
「そやから、送る!」
「けど……。」
「決まり! 家まで送ることに決まりました。」
「えっ?」
「決まりました。変更は無し!」⦅山田さん、ごめん。強引で……。⦆
「ええ―――っ!」⦅アカン! ホンマにもたへん。どないしよ……。⦆
「ええ―――っ!って………決まりやからな。ほな、食べたら帰ろうか。
………美味しいな。」⦅ホンマにごめんな。強引なんは今日だけやから。⦆
「うん。美味しいね。」
美味しいはずのパスタも何もかも味を感じられないままだった。
ずっと緊張していたからで……その緊張が自宅の最寄りの駅まで続くかと思うと不安だった。
でも、まだ傍に居られるのは嬉しかった。
こんな時間を持てるとは思わなかった。




