やどりぎ
地図を見ながら、ようやく辿り着いた喫茶【やどりぎ】はカントリー調の素敵な喫茶店で、待ち合わせの場所で使っているような人も居るように見えた。
空いている席に座って待つ間、ブレンドコーヒーを頼んだ。
手持無沙汰だった。
ふとバッグに、通勤時に座れたら読む本が入っていることを思い出した。
樋口一葉の「たけくらべ」をバッグから出した。
読みづらい明治の文体だが、中学生の頃に読んだ時の感想と、大人になってから読んだ感想は違っている。
長年、持っている本の一つである。
コーヒーを飲みながら待ち続けた。
1時間が経った。
川口君は来ない。
⦅あれっ? 夢やったのかな? 白日夢とかいうのんかな?
どないしよ……。もうちょっと待つ方がエエのかな?
………疲れてきたからかなぁ……甘いもんが欲しなったわ。⦆
2杯目は紅茶にしていたが、飲み干していた。
⦅いちごパフェ食べたいなぁ……。
お隣の席の…恋人同士かな?
女の子が食べてるいちごパフェ美味しそう……。 食べよかな。⦆
「あの……済みません。」
「はい。」
「いちごパフェをお願いします。」
「いちごパフェ、お一つですね。承知いたしました。」
⦅いちごパフェ食べたら帰ろ。 そや、それがエエわ。⦆
再び本に目を移して読み始めたら声がした。
「山田さん、ごめんな。待たせて。」
「あ!……お疲れ様でした。」
「店に電話しようと思ったんやけどな。
そのチャンスが無かってん。
長いこと待たせて申し訳ない。」
「……いいえ……あの……何かありました? 現場で……。」
「いや、なんもないよ。」
「……そう…ですか……。」
「お腹空いたやろ。ここ出て何か食べに行こ。」
「お待たせいたしました。いちごパフェでございます。」
「あ……ありがとうございます。」
「お客様、ご注文は如何なさいますか?」
「あ……じゃあ、僕はキリマンジャロで。」
「承知いたしました。」
「……いちごパフェ頼んだんや。まだ夕食も食べてないのに?」
「えらい悪うございましたね。甘いもんが欲しかったんです。」
「ええよ。けど……可愛いのん頼んだんやな。」⦅なんや、可愛いな。⦆
「美味しいですよ。いちごパフェ。」⦅ええやん。別に……24歳が頼んでも!⦆
「いちごパフェ、食べ終わったら何か食べに行こか。」
「ここでお話されると思ってましたけど……。」
「夕食、付き合って欲しいねんけどアカンか?」
「……母が作って待ってくれてますから……。」
「アカンの?」⦅もう、帰るって……そんな……まだ何も話してないのに……。⦆
「あの……お話は何でしょう?」⦅話があるってなんやろ?⦆
「……取り敢えず、いちごパフェ、食べて!」
「はい。……あの……。」
「何?」
「話って今日の現場の事ですか?」
「えっ?」
「あの現場、私が申請書を作成しました。
何か不備などあったのでしょうか?」
「何もないよ。」
「では、申請に問題は無かったということでございますか?」
「うん。そうやけど……。」⦅なんでや? なんで敬語?⦆
「良かったぁ~。良かったです。ホッとしました。」⦅ホンマに良かったぁ。⦆
「山田さん。」
「はい。」
「なんで、今日は敬語なん? いつもと違いすぎて……。」
「そうですか?」
「そうや! たった3か月やで。なんで変わったん。」
「なんで? なんとなく……でしょうか?」
「もう! 止めてくれよ。敬語は!
前がエエわ。話しやすいから前みたいに話してくれよ。」
「…………分かりました。」
「ホンマに? 分かってる?」
「はい。」
「違う。うん!やったやろ。」
言葉遣いの話題だけになった。
いちごパフェを食べ終わってから、川口君が夕食に誘った。
川口君らしくない!と思うほど、強引と呼ぶのに近かった。
母に電話をして夕食は川口君と頂くことになった。




