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同い年  作者: yukko
38/81

後で!

6月の末になって、本社から川口君が支社にやって来た。

仕事をしていて、声が聞こえた。

懐かしい声が……。

その声を聴いた途端に、顔を上げられなくなった。

それにも関わらず、川口君の顔を見たいと思った。

係に居た人たちが挨拶をしている。

向かいの席に座っている弥生ちゃんも挨拶を始めた。

そして、その弥生ちゃんの隣に座っている佐藤さんも立ち上がって挨拶を始めた。


「川口さん、こんにちは。」

「こんにちは。弥生ちゃん、お腹……。」

「はい。」

「おめでとう!」

「ありがとうございます。川口さん、今日はなんで?」

「遊びに来たんと(ちゃ)うよ。仕事。」

「それは、そうですけど……。」

「あの……田口さん、紹介してくださいよぉ。」

「あ……新入社員の佐藤房子さんです。私の仕事を引き継いでくれるんです。」

「そうか……。川口秀樹です。本社勤務です。

 なので、もうこちらへは来ないと思います。」

「はぁ……そうですか……。」

「済みません。今から仕事なので……。」

⦅本社に行かはった大卒の人が支社に来はるなんて……

 何があったんやろ? 

 なんか分からへんけど川口君、頑張って!⦆


川口君は、そのまま課長・係長と応接室に入って行った。

いつもなら「お当番ですよ。」と声を掛ける佐藤さんが何も言わずに率先してお茶を出している。


「嵐が来ますわ。そない思いはりませんか?」

「せやね。」


弥生ちゃんと小声でそんなことを話しているけれども、頭の中は「顔、熱いけど……誰も気づいてなかったらエエなぁ…。」と「もう一度、ちょっとだけでも顔を見たい。」と思った。

その後。川口君は課長と係長の3人プラス設計の大川さん、現場の鈴木さんと現場に行った。

それが不安を掻き立てた。

何があったのか不安だった。

帰って来た時、鈴木さんに聞いた。


「何があったんですか? なんか悪いこと…。」

「いや、(ちゃ)う。新工法の見学に来はっただけや。」

「そうですか。良かったぁ~。」


ホッと胸を撫で下ろしていると、上の方から声が聞こえた。


「山田さん、君だけや。」

⦅ドキッ! どないしよ……どないしたら……。

 兎に角、落ち着かなアカン。⦆

「な…にが…ですか?」

「挨拶して貰うてない。」

「あっ……済みません。こんにちは。お疲れ様です。」

「えらい素直やなぁ……。どないしたん?」

⦅……これ以上、近づかんといてぇや。

 顔、熱いのに……困るさかい。⦆

「何も………。」

「ホンマにぃ?」

⦅……せやから、近い! 離れてぇな……。

 あ! 私が離れたらエエんや!⦆

「……はい。……ホンマです。

 仕事ありますんで……席に戻ります。」

⦅えっ? もう戻るん? もうちょっと話したいねんけど……。 そや!⦆

「山田さん、後でな。」

⦅へ? なんで? なんか、しました?私……。⦆

⦅おお~~い! 後で!って言うてるのに返事なしかい!⦆

「ほな、後で! 山田さん!」

「……は…い。」


川口君とのその会話を聞いていた佐藤さんが言った言葉が怖かった。


「山田さんって……川口さんの何なんですか?

 誰とも付き合ってないって言ってましたよね。」

「うん。付き合ってないよ。」

「そやのに、なんで、あんなに仲がエエんですか?」

「仲……エエように見えた?」

「そやかて、川口さん、山田さんにだけ『後で!』って言わはったもん。」

「仕事で何かあったんかな?」

「ホンマですか? ホンマに仕事って思ってはるんですか?」

「うん。そやけど……ね。」

「佐藤さん、山田さんと話すよりも仕事覚えてくださいね。

 山田さん、お願いです。仕事しましょ。」

「弥生ちゃん、ごめんなさい。引き継ぎの邪魔してしもうて。」

「いいえ。……ほな、佐藤さん席に戻りましょ。」

「はぁ~~い。」


席に戻って仕事をしていて、暫く経ってから前の電話が鳴った。

弥生ちゃんに目配りして電話に出た。


「係でございます。」

「山田さんやね。僕、川口。」

「えっ?」


周囲を見渡しても川口君の姿は見えなかった。


「談話室から電話してるねん。」

「左様でございますか。」

「山田さん、今日、帰り……待ってるから。」

「…………。」⦅へ? なんで?⦆

「駅近くの喫茶店で。喫茶店の名前は【やどりぎ】。

 分かるかな?

 分からへんかったら、住宅地図で見ておいて。

 6時に待ち合わせよ。

 僕の方が遅れたら待ってて!

 分かった? 返事は?」⦅はい!って言ってくれ!⦆

「……はい。承知しました。」⦅はい!って言うてしもうた……。⦆

「ほな、後で、な。」⦅よっしゃぁ~~!⦆

「はい。……失礼します。」⦅ええ―――っ! なんでやねん!⦆


その電話の後は、仕事をしていても変だった。

理由がわからない不安が募っていった。

そして、終業時間になった。

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