中堅女子社員研修
5月のゴールデンウイークが明けて本社での「中堅女子社員」の研修が始まった。
新入社員が研修した部屋で行われた。
人事部の課長が女性だと初めて知った。
大変珍しいことだと思った。
上司は男性ばかりで、女性は居ないと思っていた。
本社には居るのだと知ったのだ。
「皆さんは1分、1秒が給与だと分かっていますか?
無駄に時間を過ごさないようにしてください。
この研修が終わって、それぞれの配属先に帰った後も
自分の就業時間中は給与の対象だと理解して仕事をしてください。」
当たり前のことをわざわざ言うのは何故なのか分からない。
様々なことを行った研修が終わるのは早かった。
たった3日間だから当然である。
⦅会えるはずがないのに……ちょっと…期待して…しもうたわ。
アホらし……。⦆
3日目の研修が終わって、4階の人事部のフロアから乗ったエレベーターで前に支社に居た男性に会った。
「あれっ? 山田さん?」
「はい。」
「久し振り。元気でしたか?」
「はい。ありがとうございます。
岡崎さんもお元気で?」
「ありがとう。元気です。
今日はどうして?」
「中堅女子社員の研修です。」
「そうだったの。」
「今日で終わりました。」
「そう、少しお茶でもどうかな?
1階のカフェで……。」
「早く帰らなくていいんですか?」
「お茶くらい、いいよ。」
「では、お言葉に甘えて。」
「うん。じゃあ、行こうか?」
「はい。」
前に隣の係に居た岡崎さんに誘われて1階のカフェに入った。
本社の最上階には「老舗のレストラン」と呼ばれているレストランを会社が運営している。
1階のカフェも会社が運営している。
「奥様はお元気ですか?」
「うん。元気!」
「お子さんは大きくなられたでしょうね。」
「そうなんだ。もう上が小学生だよ。」
「ほんに、大きくなられましたね。」
「そっちは、どう? 皆さん、お元気かな?」
「うちの係の内山さん、覚えておられますか?」
「覚えてるよ。マドンナって呼ばれてた美人さん。」
「もう、お子さんがおられます。」
「そうなの? ビックリだね。」
「もうご出産前に退職されていますので、私が一番上になりました。」
「へぇ~~っ、あの新入の山田さんが……。
そうかぁ……。年を取るもんだなぁ…。」
「そんな……それは私も同じです。」
「まだまだだよ。山田さんは……。
あまり長話をしてはいけないね。」
「そうですよ。奥様がお待ちです。」
「ありがとう。懐かしかった。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
「あ! 自分の分は払います。」
「いいや、ここは僕の顔を立てて欲しいな。」
「済みません。ご馳走様でした。」
「ありがとう。気を付けて帰ってね。」
「はい。失礼します。」
「うん。さようなら。元気でね。」
「ありがとうございます。岡崎さんこそ……。」
「ではね。」
「はい。」
カフェを出て直ぐに「岡崎課長。」と呼ぶ声がした。
声に覚えがあった。
⦅まさか…ね。⦆
「何か? 川口君。」
「実は………。」
声はする方を見ずにその場を離れた。
挨拶くらいした方が良かったのか分からないが、出来なかった。
恋焦がれた人の声が遠くなる。
そのまま駅に向かい電車に乗って帰宅した。




