それぞれの春
高卒で入社した男子社員の中で誕生日が遅い場合、運転免許を取得していない子が居る。
仕事で車の運転が必須である会社なので、高卒の男子には会社から就業時間内に教習所へ通わせて貰える。
教習に係る費用も会社負担だ。
係に配属された松尾君も2月生まれなので免許を持っていない。
仕事中に教習所へ通っている。
「松尾君。君、教習所の時間やで。」
「はい。行ってきます。」
「誰か、送って……。おらへんな。」
「はい!」
「何や? 山田ちゃん。」
「ドライバー!です。送ってきます。」
「アカン!」
「運転免許、持ってます。」
「持っててもアカン! 山田ちゃんは会社の試験受けてない。」
「あ……そやった…です。」
「社内の試験に合格せな、会社の車両を運転できへん。」
「そうでした。」
「西川主任、僕が送っていきますわ。」
「ええんか? 中野君。」
「はい。……松尾君、行こか。」
「はい。行ってきます。」
女子社員は免許を持っていても社内の試験を受けることなど想定されていない。
そして、車を運転して外に出るような仕事は無い。
「山田さん。」
「はい。お呼びですか?」
「5月のゴールデンウィーク明けに中堅女子社員の研修がある。
山田さんはその対象者。
これ、その書類。
渡しておくから、研修の日時や持ち物を確認して。」
「はい。」
「山田さんも中堅になったんやなぁ……。」
「係長、私、24歳になったんですよ。3月に……。」
「そうか……。頑張りや。研修。」
「はい。ありがとうございます。」
席に戻って書類を読んでいると、弥生ちゃんが「何にちからですか? 何日間ですか?」と不安そうに言うので、「たった3日間やから……。」と答えた。
弥生ちゃんは一人になる不安を訴えていた。
佐藤さんとのこともあって、弥生ちゃんにとっては先輩がいないことの不安が大きいのだと思った。
「弥生ちゃん、転勤やないからね。」
「はい。」
「3日間だけやから…。」
「はい。」
「5月8日から3日間。本社に行くだけやから、ね。」
「本社ですか?」
「うん。そうやよ。」
「……会えますね。」
「誰に?」
「川口さんに!」
「それは、無いと思うわ。」
「なんでですか?」
「本社は広いからね。」
「会えるかもしれませんやん。」
「まぁ……ここに居るよりはね。」
⦅会えるわけないやん。あんなに広うて人がいっぱいやのに。
フロアが違ったら絶対に会わへんわ。⦆
そして、帰宅してから家の電話に橋口君から電話を貰った。
「雅美が元気な男の子を生んだ。
雅美も元気やさかい。」
「おめでとう。」
「産み月までお腹におらへんかったわ。
けど、無事に出産できた。」
「うん。無事に出産まで……お腹の中に居てくれて良かったね。」
「うん。ありがとうな。」
「何が?」
「見舞いに何度も来てくれて……。
ずっと入院してたから会えて、来てくれて嬉しかった、言うてた。」
「……雅美ちゃんが頑張ったからやし、赤ちゃんが頑張ったからやし。」
「うん。」
「ついでに、橋口君が頑張ったからやし。」
「ついで、かい!」
「えへへ……。」
心が温かくなった。
嬉し涙って流れるんや!と思った雅美ちゃんの出産だった。




