異動
3月末に社内異動の辞令があった。
川口君が呼ばれた。
4月1日付で本社への異動だった。
分かっていたことだったのに、心は乱れていた。
⦅もう、会社で……会えない…んやな…。⦆
胸が苦しくなるほど……。
そんな風になるとは思わなかった。
「係長、4月1日付で本社勤務になりました。」
「そうか。本社でも頑張れよ。」
「はい。」
「引継ぎは、設計の金沢さんに。」
「はい。」
短かった。
4月1日まで短かった。
あっという間に3月31日、川口君が支社で勤務する最後の日。
そして、多分もう二度と会うことがなくなる。
胸は痛いけれども、その痛みに名前を付けることも出来ず、付けることに気も付かずに……今日を迎えてしまった。
今日、仕事が終わったら送別会。
川口君は送別会で山本さんと最後の踊りを見せて、その笑顔が眩しくて……。
「♪おおきなぁ いわ~を ひとまたぎ
キングコングが やってきた♪」
何度も見てきた踊りだった。
山になって蹲った山本さんを跨ぐ川口君。
笑い声で満ちた宴会の部屋。
何度も何度も見てきた光景。
そして、それも今日が最後。
「最後に、川口君。挨拶を……。」
「はい。
皆さん、2年間お世話になりました。
入社して直ぐが、この支社で、この係で良かったと心から思っています。
右も左もわからない僕を導いてくださり、本当にありがとうございました。
この支社で、この係で学んだことを次に活かせるよう頑張ります。
本社にお越しの際には、どうか僕にお声掛けを!
飲みに連れててください。」
「おい! ちゃうやろ。飲みに連れてって貰うのは俺らやで!」
爆笑の中、「本当にお世話になりました。ありがとうございました。」と言って、川口君の挨拶は終わった。
店を出ても川口君の周りは人がいっぱいだった。
「大卒やのに、親しみやすい人でしたね。」
「うん。そうやね。」
「山本さん、相棒が居なくなりましたね。」
「ホンマに……。」
「山田さん、寂しくなりますね。」
「そうやね。弥生ちゃんも……退職する日が来るもんね。
寂しいわ……。」
「まだ先ですよ。」
「早いと思うわ。年取ったから、月日の流れが速いねん。」
「そんな年寄りみたいなこと言わんといてください。」
「いやぁ~ホンマのことやし……。
……弥生ちゃん、大丈夫? 身体。」
「はい。大丈夫です。」
「気ぃつけて帰りや。」
「はい。」
「駅まで一緒に歩こ。」
「はい。」
係の人たちに「お先に失礼します。」と声を掛け、川口君に「ありがとうございました。お元気で!」と声を掛けて、弥生ちゃんと二人で駅に向かった。
⦅さいなら……川口君。元気で……。
次に川口君の名前を見るときは、きっと……。
社内誌で……結婚……やね。
月日と名前の次に…結婚……て記載されてる社内誌。⦆
痛みを感じながら電車に乗った。
電車の中からホームで電車を待っている弥生ちゃんに手を振った。
それから後は、流れ出てくる涙を隠しながら乗っていた。




