お守り
月曜日の朝、会社に着いて机を掃除して新聞を入れて…いつもの日常の始まりだった。
お昼休みに橋口君を探しに行った。
「あの……橋口君はいらっしゃいますか?」
「あぁ、山田さん。橋口に用事? 珍しな。」
「えへへ……。ちょっと橋口君を通して奥さんに渡してもらいたい物があって。」
「そうか、現場からもうすぐ帰ってくると思うで。
ここで待ってたら?」
「ほなら、そないさせてもらいます。」
「あれっ? 山田ちゃん、どないしたん?」
「辻川さん、橋口君を待ってるんです。」
「そやの? 待ってる間、飴ちゃんでも……どない?」
「ありがとうございます。」
電話が鳴った。
「辻川さん、電話。旦那さんからや。」
「あ、すんません。
………なんやの? うん。辻川さん……。うん。
ほな……。」
「いつまで、辻川さんやねん。旦那さんのこと……。」
「ホンマに、けど、そやから辻川さんやって思いますわ。」
「そやな、もう10年やで。結婚して……。」
辻川さんは社内恋愛で結婚した先輩で、恋愛中も結婚してからも何故だか夫のことを「辻川さん」とどこでも呼んでいた。
夫の辻川さんは「もう、諦めた。」と言って笑っていた。
あの笑顔が素敵に思えた。
母親になっても仕事を続けていた夫婦で、それは大変珍しかった。
辻川さんに貰った飴を口に入れた時に橋口君が帰ってきた。
「帰りました。」
「お帰り。ご苦労さんやったな。」
「いいえ、ご飯食べて来ます。」
「待ち人がいてはるで。ほれ。」
指さした方に居たのが……
「あれっ? 山田さん、なんで居てるの?」
「あ、お帰りなさい。」
「ただいま。」
「渡したい物があって……。これやねん。これ、雅美ちゃんに渡して!」
「これを?」
「うん。お願いします。」
「分かった。渡すわ。」
「ありがとう。ほな、お昼食べてきて!」
「おう。行ってくるわ。」
「うん。行ってらっしゃい。」
渡したい物を渡せてホッとした。
昼からの仕事に励もうと思った。
ただ、見合いのことが心に引っかかったままだった。
見合いをするのかどうかを決めかねていた。




