道は二つ
見合いの話を両親に話すと、父は「どっちの話も断っても、ええのやで。お前の気持ちが大切や。」と言ってくれてホッとしたのは何故なんだろうかと思った。
ぼんやりしていたら、母が傍に来て言った。
「お見合いも出会いの一つやよ。」
「うん。分かってる。」
「けど、恋愛したいねぇ。」
「………。」
「お母ちゃんも、そない思うたわ。」
「お母さんも?」
「ふん。そやかてな、学校卒業したら直ぐにお見合いやってんよ。」
「相手は誰?」
「お父ちゃん。」
「初めてのお見合い相手と結婚したん?」
「ふん。せやな……。
あの頃はな、今と違うてね。
お見合いしたら結婚やったわ。
けど、その前の結婚よりは良かったと思うわ。」
「その前?」
「おばあちゃんたちの頃。」
「おばあちゃん。」
「おばあちゃんの頃はお見合いした日が結婚式やった人も居はったらし。
写真一枚持って会うたことないお方のところへ嫁いだ人も居はった。
それと比べたら、幸せやよね。
お見合いしてから結婚式まで半年あったもん。
お父ちゃんとデートしたんやよ。」
「ええ―――っ!」
「お父ちゃん、宝塚ファミリーランドへ連れててくれはった。
ボートに乗ったんや。」
「お父さんが…… デート……ボート……。」
「楽しかってん。デート。初めてやったし……。」
「うん。」
「今も覚えてるんよ。その時のお父ちゃんの横顔……。
好きになって結婚したんとちゃうけどな。
お母ちゃんはお父ちゃんと結婚して良かったと思うてるん。」
「幸せやった?」
「せやな。………幸せやったよ。可愛い娘と息子にも恵まれたさかい。
それに……お父ちゃん、飲む打つ買う せえへん人や。
これからも、絶対にせえへんと思うわ。」
「絶対? えらい自信やね。」
「そりゃあ、18から今まで一緒やってんから……。
お父ちゃんが何を一番大切にしてはるか分かるねんよ。」
「お母さん、デートは宝塚ファミリーランドだけなん?」
「ひらかたパークにも行ったわ。
菊人形が綺麗やった。」
⦅……羨ましいな……。18でデート……。私は家に居たわ。⦆
「……どないしたらエエと思う?」
「それは、あんたの気持ち次第やよ。」
「お見合いした方が結婚できるかもしれへん。」
「そやねえ、けど、好きでない人でもエエの?」
「……私、好きな人と結婚したい。
けど、そんな人おらんねん。」
「ゆっくり考えたら……勝子おばちゃんの方はお父ちゃんが断ってくれはる。
会社のことはお母ちゃんには分からへんけど……考える時間を貰ろうたら?
待って貰えるんやったらエエな。」
父は会社のお話を断る理由に「勝子おばちゃんからの縁談」を挙げるように言った。
二つのお見合い、どちらかを選んでお会いしないといけないのかもしれない。
道は二つ、そのどちらかを選び進む勇気がない。
25歳では遅いと言われる女性の結婚。
男性は30歳まででは遅いと言われる結婚。
23歳、3月になると24歳。
もう時間がないのは明白である。
そんな世間の風が冷たく刺さる年齢になった。
誰かに相談したかった。
話を聞いて貰うだけでもいい。
会いたいと思った。内山先輩に、同期の雅美ちゃんに、道子ちゃんに、洋子ちゃんに……。
でも、会えないし、電話も架けられない。
子育て中で電話も…「今、お昼寝中やから。」とかで出来ない。
雅美ちゃんは入院中で私の話どころではない。
⦅そうや! 雅美ちゃん……どうか……神様…雅美ちゃんの赤ちゃんを……
この世に無事に生まれさせてください。お願いします。
………………うん? 神様? どこの神様にお願いしたらええん?
近所の神社でもええのんかな?
確か……安産祈願できるはず。
今度の休みの日に行ってみよ。⦆
そして、休日の朝、近所の神社に詣でて「安産祈願」のお守りを授けてもらった。
「安産祈願は、いっぱいあってもエエんですよ。神様は喧嘩なさいませんよって。」と神主さんが教えてくれた。
休み明けの月曜日に橋口君にこのお守りを渡そうと思った。
大切に包んでハンドバッグに入れた。




